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埼玉県川口市
埼玉県川口市が市制施行90周年を迎えた。人口は60万人を超え、全国62市ある中核市の中で千葉県船橋市に次いで2番目に多い。埼玉県でも県庁所在地さいたま市に次ぐ規模。荒川を挟んで東京都に隣接する地理的な好条件もあり、古くから鋳物や機械の製造が盛んな街でもある。現在では高層マンションも増え、民間の住みやすい街ランキング調査では、連続1位を含め高順位を獲得している。2024年4月には川口商工会議所と鳩ケ谷商工会の統合も予定されており、産業振興施策のさらなる充実も期待されている。
川口市の挑戦するモノづくり企業
新型コロナウイルスや国際情勢の緊迫化、少子高齢化による労働人口の減少など中小企業を取り巻く環境は大きく変化している。社会や経済構造が転換期を迎える中、従来型の下請け企業から脱却し、事業再構築やデジタル変革(DX)といった攻めの経営により自社の価値を高め、同業他社との差別化を図ることが求められている。川口市内で挑戦を続ける製造業4社の変革に向けた取り組みを追った。
フジムラ製作所/溶接システム、ティーチング自動化
フジムラ製作所(埼玉県川口市、藤村智広社長)は、デジタル化により受注から出荷までの工程を可視化し、多品種少量生産の効率化を図っている。その一貫で2017年以降、外観検査や金型の段取り替えなどへのロボット活用を進めてきた。
さらなるDXに向け、人工知能(AI)を用いてロボットに動きを教える「ティーチング」を自動化する溶接システムを導入した。同社が必要な技術仕様と条件を抽出し、リンクウィズ(浜松市東区)に開発を委託した。
作業者が加工対象物(ワーク)をセットし、タブレット端末上のボタンを押すと、ロボットアーム先端に搭載したカメラでワークの形状を認識し、自動でティーチングを行う。ワークが変わる度に人手でティーチングする手間が不要で多品種少量生産にも使いやすい。溶接位置を人が判断し、調整する必要がないため、「溶接経験の全くない人が扱うことも可能だ」と藤村社長は説明する。
誰でも高品質な溶接が可能となるほか、「腕のいい職人に、より複雑で付加価値の高い仕事に回ってもらう」(藤村社長)ことも目的とする。
現在は箱物の溶接に使用している。リンクウィズと連携してAI学習を進め、「年内には『ハット曲げ』や『リブ付け』といった比較的容易な溶接全般で使えるようにしたい」と話す。
TOMOE/DXで生産性向上・省人化
TOMOE(埼玉県川口市、増田学社長)は、什器や建設機械などの金属焼き付け塗装を主力とする。板金加工を手がける子会社トーメックス(同)との一貫生産により短納期化を実現。川口市、茨城県結城市、福島県白河市に塗装関連ラインを計16本保有し、顧客の増産に対応できる体制を整えている。
TOMOEが現在取り組むのは、生産性向上や省人化に向けたDXだ。間接部門では2022年に勤怠管理システムを導入。社員の勤怠を自動集計して各工場でリアルタイムに管理でき、時間外労働の上限規制厳守に役立っている。また、マネーフォワードの給与管理システムの導入により給与計算を自動化し、社員がスマートフォン上で給与明細を確認可能となった。今後は見積もりの標準化や、請求書のペーパーレス化を推進したい考えだ。
生産現場では、22年に結城第2工場を新設した際、IoT(モノのインターネット)による自動化や稼働状況の可視化に約5000万円を投じた。塗装に用いる薬品の投入、前処理工程のチェックなどを自動化した。作業者の負担軽減とミスの抑制、薬品の使用量低減につながっている。稼働状況を担当者のパソコンで確認できるため、「不良が発生した場合、後から原因を特定するのにも役立つ」と増田社長は話す。
アイシン産業/近隣に新本社・工場 来月稼働
アイシン産業(埼玉県川口市、村上徹社長)は、化学や製薬、食品向けなどの粉粒体の供給、輸送、排出機器を手がける。特に主力のロータリーバルブは国内トップシェアという。商社機能を併せ持ち、他社製品と組み合わせて粉粒体関連の設備全体を手がけることができる。海外には中国とタイ、インドに生産拠点を持つ。
電気自動車(EV)用リチウムイオン電池(LiB)材料向けの需要が伸びている。特に中国や欧米での需要が活発だが、国内でも「今期中にこの分野だけで5億円を売り上げる見込みがある」と村上社長は話す。
現本社の近隣に約10億円を投じて新本社(川口市)を建設し、8月1日に営業を始める。事務所機能のほか、組み立て、塗装、検査工程を手がける工場も併設する。現本社は引き続き機械加工工場として使用する。市内で用地を追加取得し、機械加工工場と、粉粒体機器のテストを行うR&Dセンターを集約する構想もある。
電池材料向けの需要が活発であるものの、「国内の設備投資全体が急速に増えることはない」と村上社長。今後は海外製品を中心とする代理販売とエンジニアリングで差別化し、事業拡大を目指す。また、ナノ粒子の供給、輸送、排出技術を次の研究課題に掲げ、製品開発を進めたい考えだ。
立花商会/シリコンゴム製自社製品を強化
半導体製造装置や医療関連の精密ゴム製品を手がける立花商会(埼玉県川口市、千田正明社長)。22年度の「川口i―mono(いいもの)・川口i―waza(いいわざ)ブランド」に認証された。
半導体製造装置向けには、基板搬送用の吸着パッドのゴムコレットを製造する。国内外の工場で使用されており、多いときで月に15万個を生産している。半導体の微細化によりゴムコレットのサイズも小型化が求められる。同社は3ミリ―4ミリメートル角、穴径0・1ミリ―0・3ミリメートルでの製造が可能。また、半導体に直接触れる部品のため、静電気が起きづらい素材を使用するなど工夫を重ねている。
医療関連では、外科手術練習用の模擬血管や、手術器具の鉗子(かんし)を手がける。模擬血管は人間の血管の感触に近づけるため、ゴムと布の3層構造とした。医師や学生が実際の手術に近い感覚で切る、結ぶ、縫うなどの練習ができる。内径1・6ミリ―30ミリメートルに対応し、全身の血管を再現可能。医療機器メーカーを通じて複数の病院に販売している。
自社製品としてシリコンゴム製耳かきも製造している。「シリコンゴム製の美容製品など自社製品のラインアップを増やしたい」と千田淳製造部長は話した。