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溶射技術(2024年9月)
2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言に始まる日本のグリーン変革は、菅政権の「グリーン成長戦略」に始まり、岸田政権の「グリーントランスフォーメーション(GX)」に移り、現在「非化石燃料電源への転換」と、その財源とする「炭素税やCO2排出量取引の実現」の2本立てで進められている。脱炭素化で石炭火力発電所の削減、原子力発電所の再稼働を軸に、電気自動車(EV)シフト、持続可能な航空機燃料(SAF)の活用など、社会構造の変革が進められる中で、溶射業界も積極的に「グリーン加工」を打ち出す時期にきている。
脱炭素社会の実現と溶射技術の役割
【執筆】航空宇宙技術振興財団 評議員 伊藤 義康
動き始めたグリーントランスフォーメーション
23年2月、「GX基本方針」が閣議決定され、23年5月にカーボンプライシングの導入を含む「GX推進法」、原発の実質60年超運転などを盛り込んだ「GX脱炭素電源法」が成立し、23年7月には「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)が閣議決定された。GXは動き始めたのである。
エネルギー関連産業のGX推進
国内のCO2排出量の40・5%を占める「エネルギー転換部門」の脱炭素化は必須であるとして、政府は4分野を対象にGX推進を表明している。表1は、各分野の主要機器・部品のコーティング技術についてドリルダウンした結果を示す。
水素・アンモニア燃焼タービンの開発
液化天然ガス(LNG)が燃料のガスタービン・コンバインドサイクル発電(GTCC)は、1980年代中頃に燃焼ガス温度1100度C級の導入が始まり、90年代後半に1300度C級、2000年代後半に1500度C級、10年代に1600度C級と高効率化が進められた。これを可能としたのは耐熱材料、冷却技術、そして「コーティング技術」の開発である。
図のように現在ではガスタービンの耐熱超合金部品には、大気プラズマ溶射(APS)によるジルコニア(YSZ)の遮熱コーティング(TBC)と、減圧プラズマ溶射(LPS)によるMCrAlY合金の高温耐食・耐酸化コーティングは不可欠である。
一方、10年代中頃から脱炭素社会の実現を目指し、水素燃焼タービンの開発が始められた。23年11月、川崎重工業が世界初となる水素専焼が可能なドライ方式の燃焼器を搭載した出力1800キロワットGTコージェネシステムを商品化した。
また、24年3月、三菱重工業が4万キロワット級中型ガスタービンによる水素専焼の実証試験をはじめ、今秋には45万キロワット級大型ガスタービンで水素50%の混焼を実証し、30年の水素専焼ガスタービンの実用化をめざしている。
さらに22年6月、IHIは、液体アンモニアの直接噴霧燃焼方式でアンモニア専焼が可能な燃焼器を開発し、2000キロワット級小型ガスタービンの実証に成功。24年1月には、IHIと米GEベルノバが大型ガスタービン用のアンモニア燃焼器を共同開発し、30年の実用化をめざしている。
水素・アンモニア燃焼タービンには、既開発のコーティング技術の転用が可能である。一方、発電用には大規模な水素・アンモニア貯蔵設備が必要で、容器や配管の水素ぜい化やアンモニア腐食割れ対策のコーティング技術開発が期待される。
原発向け事故耐性燃料の開発
11年3月の福島第一原発事故を発端に、翌年、米国議会がエネルギー省に事故時の水素発生を抑制する事故耐性燃料(ATF)の開発を指示した。また、22年2月には欧州委員会が、EUタクソノミーの中でATF装荷を適合条件の一つとするなど、実用化が急務となっている。現在、日米仏で30年以降の早期実現をめざして開発が進められている。
軽水炉用核燃料は、二酸化ウラン燃料ペレットをジルコニウム合金で被覆している。米国原子力規制委員会は近い将来のATFとして、クロム被覆ジルカロイ、改良ステンレス鋼被覆など、長期的なATFとしてシリコンカーバイド(SiC)被覆などに絞り込み、核燃料メーカーとして仏フラマトムや米ウエスチングハウスが開発を進めている。
国内でも、加圧水型軽水炉(PWR)メーカーの三菱重工が物理蒸着(PVD)によるクロム被覆ジルカロイ管、沸騰水型軽水炉(BWR)メーカーの日立GEニュークリア・エナジーが改良ステンレス鋼(FeCrAl-ODS)被覆管とSiC被覆管、東芝エネルギーシステムズがSiC被覆管の開発を進めており、米国の研究炉などでの照射試験が行われている。
SiC被覆管では、化学気相含浸(CVI)によるSiC長繊維強化SiC複合材料(SiC/SiC複合材料、CMC)が開発され、その表面には化学蒸着(CVD)によるSiCコーティングや、LPSやPVDによるチタンコーティングが検討されている。