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半導体産業
高専だからできる、ミニマルファブを核とした価値創造型人材の育成
【執筆】 佐世保工業高等専門学校 半導体人材育成センター センター長 猪原 武士
半導体製造の「多品種少量生産」領域では、PoC(概念実証)を迅速に試み、仮説検証を高速で回せる環境の有無が重要な観点になりつつある。こうした課題に対する革新的な解の一つが「ミニマルファブ」にほかならない。ミニマルファブを活用した、半導体人材育成の取り組みを紹介する。
クリーンルームなし 超小規模半導体製造
半導体はあらゆるデジタル産業の基盤であり、経済安全保障の要である。従来の半導体製造は数千億から1兆円規模の巨額投資と、数カ月に及ぶ長い製造期間を必要とする大規模工場(メガファブ)が主流だった。この構造はスマートフォンなどの大量生産には適している。だがIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の普及で飛躍的に進む技術革新をはじめ、急速に拡大・多様化するマーケットニーズなどへの対応では、コストや柔軟性、開発スピードの面で大きな壁となっている。これら課題の解決策として注目されるのがミニマルファブである。
ミニマルファブ
ミニマルファブとは、局所クリーン化技術により巨大なクリーンルームが不要で、わずか30センチメートル幅の装置群で半導体を製造できるシステムだ。これにより投資額を従来の約1000分の1に抑え、通常数カ月かかる製造工程を最短2—3日に短縮することが可能となる。1個単位からの「ジャスト・イン・タイム」製造を可能にするミニマルファブの技術は、日本の製造業が再び世界で競争力を発揮するための切り札として期待されている。
実習で半導体プロセス体験 高専に人材育成センター設立
深刻化する半導体人材不足に対し、国立高等専門学校機構は全国51校のネットワークを活用した「半導体人財育成エコシステム構想」を始動。高等専門学校(高専)は15歳から5年間(専攻科を含むと7年間)、理論と実践を高度に融合させた早期専門教育を行う、世界でもまれな高等教育機関といえよう。
九州・北海道
現在、九州と北海道を先進モデルとして、地域企業のニーズに即した「即戦力・応用力・イノベーション力」を兼ね備えた中核人材の輩出を目指している。拠点校で開発した産学官連携による実践的な教材の全国での共有も進む。
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ミニマルファブを活用した実習は、5段階評価で4・6と学生の好評を得ている -
クリーンルームなしでの半導体製造を可能とする「ミニマルファブ」
私が教壇に立つ長崎県の佐世保高専では、全国の大学・高専に先駆けてミニマルファブを導入し、実践的な半導体教育を展開している。その特徴は「全学科対象」の包括的なカリキュラムにある。電気・電子系に限らず、学科を問わず希望する学生が半導体工学の基礎を学び、実際のミニマルファブを活用した実習で半導体プロセスを体験できる環境を整備。学生からは「クリーンルームなしで、ボタン一つで製造できる様子にワクワクした」と好評を得ており、モノづくりの楽しさを体感することで、半導体業界への志望意欲やリテラシーを高めている。
2025年には、これらの活動を加速させるため、学内に「半導体人材育成センター(S—PORT)」を設立した。S—PORTは単なる教育研究センターではなく、三つの機能を担うハブとして定義する。
●「つくる」教育=ミニマルファブなどを活用し、製造プロセスを俯瞰(ふかん)できる人材を育成。
●「つかう」教育=企業課題をテーマにしたPBL(課題解決型学習)を通じ、半導体をどう社会実装するかという上位のデザイン思考を養う。
●「つなぐ」ネットワーク=全国の高専と産業界の窓口となり、教育コンテンツの配信や学生と企業のマッチング、社会人のリスキリング(学び直し)を推進する。
産業技術総合研究所とミニマルファブ推進機構の会員メンバー、ファブシステム研究会が共創し、社会人のリスキリングを含めた半導体人材育成のための活動なども展開中だ。
S—PORTは今後の展望として単なる「技術者の供給源」に留まらず、新たな産業を生む「オープンイノベーションのプラットフォーム」を目指す。例えば、農業用IoTセンサーや船舶デジタル変革(DX)のためのカスタムチップ開発など、学生の自由な発想と社会のニーズをつなぎ、短期間で試作・検証を繰り返すエコシステムを構築する。
挑戦の拠点
また10年後を見据えたロードマップでは、パートナー企業の拡大や、スタートアップ支援を行うファンドの活用も視野に入れている。佐世保から世界へ、半導体という武器を手にした若きエンジニアたちがこぎ出していく。S—PORTは日本のデジタル産業の再生に向けた挑戦の拠点として、若い力と産学官の共創をけん引していきたい。
本センターの開所式および記念シンポジウムを3月17日に佐世保市アルカスSASEBOで開催する。詳細は本校HPにて。
