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粉体技術(2024年2月)
粉砕や分級・ふるい分け、計量・計測、造粒・粒子設計など多くの単位プロセスで構成される粉体技術は、〝産業の米〟とも言われ、ほぼ全ての産業に関連している。特に最近では、省エネルギーや脱炭素社会に深く関わる次世代電池製造分野で、その開発の成否を左右する存在であり、注目されている。技術的には粉粒体の機能向上や複合化、ナノスケール(ナノは10億分の1)粒子の活用は欠かせなくなっており、日々、研究開発が続けられている。
全固体電池実用化のカギ
優れた界面生成に活躍
幅広い産業分野の進展に大きな役割を果たす粉体技術だが、最近のトレンドとして次世代電池製造分野が挙げられる。特に軽量・コンパクトに加え安全性が高い全固体電池の実用化のカギを握るところから注目される。
現在主流のリチウムイオン電池は、電解質を介し正極材料と負極材料の間をリチウムイオンが行き来することで充放電が起こる。電解質は液体の有機溶媒で、伝導度は優れる半面、可燃性で液漏れなどの問題も抱える。一方の全固体電池は電解質を固体化したものだが、これが実用化を左右する。
液体では、例えば仕切り板のある容器に2液を入れ、仕切り板を取り除くと互いが移動する。しかし固体はまず接触させ、接触界面で熱移動して初めて同様の現象が起きる。二つを合わせておかなければ、いくら熱をかけても反応しない。そのため、ベースとなる導電性の高い材料開発に加え、優れた界面の生成に表面改質技術を活用し微小粒子を電解質表面にコーティングすることが重要になるだけに、粉体技術の活躍の場が広がる。
そんな中、物質・材料研究機構は全固体電池のリチウムイオン移動が電解質の粒界が抵抗になっていることを突き止めた。マイナス100度C以下に冷却してリチウムイオンの動きを極端に遅くした場合、粒界に沿ってイオン濃度が変わり、電解質粒子内部でイオンは高速で動くものの、粒界が抵抗になる。
粒内と粒界では拡散係数が5ケタ変化すると見積もられ、電池のシミュレーションの正確さがより高まる。イオン拡散を妨げない粒界の設計ができれば全固体電池の性能向上につながる。
このほか、全固体電池の需要は今後、大きく伸びるものと見られるだけに、研究開発と並行して量産化への取り組みも重要な要素となっている。
全固体電池の研究・実用化への取り組みが進む一方、リチウムイオン電池も電気自動車(EV)化の流れを背景に増産傾向が続く。その生産性向上を目的とした連続式混練機が開発されている。容器内の空間が大きいバッチ式に比べ、密閉状態で液体と粉体を混ぜ合わせるためエネルギー密度が大きくなる。短時間でしかも均一な混練を可能にする。
粉体を混ざりやすくするための有機溶剤使用量が削減でき、後工程での有機溶剤の乾燥作業も短縮する。携帯電話やパソコンなど二次電池の小型用途はバッチ式で対応できたが、EVなど規模の大きな生産は連続式が強みを発揮、コスト競争力でも優位性がある。
医薬品製剤研究もさかん
医薬品製剤の連続生産の研究も注目されるところだ。これまではバッチ生産方式が一般的であったが、リアルタイム計測技術や分析手法、関連機器・装置の進展によって装置や制御手法などが変わることで、設備の省スペース化や製造コスト削減を可能にする。
製品の高品質化も、プロセス分析技術を組み込んだ開発手法を活用することで実現できる。解決すべき課題はあるが、製剤分野だけにとどまらず他の生産プロセスでの利用も検討されている。
製剤に関しては扱う粒子のナノスケール化と相まって、大学でのナノ粒子製剤の開発にも拍車がかかる。熊本大学は細胞内環境に応答し薬物を放出するアルブミンナノ粒子製剤を開発した。血清中でも安定性が高く、還元環境下で効率的に崩壊し薬剤を放出するというもの。肝疾患治療や脳梗塞治療への応用が期待されている。
また慶応義塾大学が開発した肝細胞組織の移植後の生着を促す機能性ナノ粒子は、肝細胞シートとともに移植することで移植部位の血管新生を促進、シートの生着率を向上させる。代謝活性の高い肝細胞は、組織移植直後に酸素や栄養素の供給が間に合わず壊死(えし)し、移植後の生着率が下がるという課題を解消するとともに、他の細胞組織の効果的移植法への展開も視野に入れる。
慶応義塾大はほかにも、九州大学とアレルギー治療に向けた経口ナノ粒子製剤を開発している。アナフィラキシー反応抑制のため、アレルゲンたんぱく質を酵母由来のマンナンで被覆した。大量生産も可能という。動物実験段階にあるが、重病患者や乳幼児に対する安全性の高い治療法への活用も可能になると見られる。