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九州のめっき産業界2025
国内産業を支えるサプライチェーン(供給網)の一端を担う、めっき産業。あらゆる分野のモノづくりにかかわる基盤産業の一つとして、各地の産業に貢献しながらユーザーの変化に対応している。一方、デジタル変革(DX)など新たな課題も迫る。九州のめっき産業も品質の安定や向上、新分野への挑戦を続ける。
モノづくり支える基盤産業
技術磨き新分野に挑む
医療機器に参入
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オジックテクノロジーズが熊本大学と共同開発するフィルター
オジックテクノロジーズ(熊本市西区、金森元気社長)はめっき技術とフォトリソグラフィ技術を組み合わせ、マイクロメートル(マイクロは100万分の1)単位での部品加工が可能な精密電鋳技術を用いて医療分野への参入を試みる。
同社は2013年から熊本大学と共同研究を進め、血液中のがん細胞(CTC)を捕捉するマイクロフィルターを開発した。現在は同フィルターを用いて大学病院内で臨床試験を進めている。検査に必要な血液は1ミリリットル程度で、患者の体への負担も少ない。がんの発見に加えて手術や治療の経過観察にも装置の活躍が期待される。数年内に販売開始し、30年頃に医療機器としての承認を目指す。
同社では社員向けの大学院進学補助制度を整備し、人材育成にも注力する。同社の金森元気社長は「専門知識をどれだけ持ち合わせているかが会社のアドバンテージにつながる」とし、今後10年間で3人の博士課程修了者輩出を目指す。
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九州電化は航空宇宙分野への参画を図る(黒色めっきの試作現場) -
福岡県工業技術センター機械電子研究所(北九州市八幡西区)に設置した技能検定用の設備
九州電化(福岡市東区、吉村浩司社長)は、航空宇宙を重点分野の一つと位置付ける。航空に関しては試作の受注という実績も出てきた。宇宙では人工衛星部品の加工を始めているほか、既存技術を生かして新たなめっきの開発を進める。
航空分野の課題が品質保証とビジネスモデルだ。保証については、どのような評価方法で認めてもらうかがポイント。また、海外から受注する場合のビジネスモデル構築という課題にも対応しなければならない。
宇宙では熱、反射、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などが主な研究開発テーマ。熱に関しては、太陽からの熱への対応を課題とする。反射については、光の反射を抑える黒色めっきが期待の技術。光の波長の違いを考慮することもテーマだ。
CFRPや樹脂素材は軽量化のための普及を見込み、電磁波シールドなど機能性めっきの受注を想定する。工程の削減などによりコストを抑えることも追求する。
生産ライン増設
吉玉精鍍(宮崎県延岡市、吉玉典生社長)は、硬質クロム精密めっきの生産ラインを新たに1ライン増設する。主に、半導体や電子部品を製造する製造装置の金型にめっき加工する。現在有する生産ライン比でワーク幅が約2倍程度の製品にめっき対応できるサイズの新規ラインとなる。新規ラインは6月末までに完成、稼働する予定。
対応するワークサイズは幅50ミリ×奥行き500ミリ×高さ500ミリメートル。「金型関係やその他の機械部品向けといった汎用品の受注も拡大していく」(吉玉社長)計画だ。
【メッセージ】 九州めっき工業組合 理事長 金森 秀一 氏
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九州めっき工業組合 理事長 金森 秀一 氏
九州めっき工業組合創立60周年を迎えるにあたり、各社の事業活動や組合活動をけん引されてきた先人たちのご尽力に敬意を表します。
近年、環境対応技術の革新や持続可能なものづくりへの移行がますます重要となっており、業界全体の価値向上に向けた取り組みが求められる時代になりました。我々は確固たる技術力と連携をもって、新たな可能性を切り開いて参ります。
また、ここ九州においては、半導体や自動車関連産業をはじめとする先端技術分野の成長が顕著であり、ものづくりの拠点としての役割がさらに強まっています。こうした地域の発展とともに、私たちの業界もより深い貢献を果たし、九州から世界へと広がるサプライチェーンの一翼を担っていきます。
さらに今日のインフレ時代においては、原材料費やエネルギーコストの上昇が続き、企業の経営環境は大きく変化しています。適切な価格転嫁や持続的な賃上げを実現し、企業の競争力を維持しつつ従業員の生活の安定を図ることが重要となります。こうした課題に向き合い、業界の持続的な発展に向けた取り組みも進めていく所存です。
改めまして、60周年を迎えた本会のこれまでの歩みに敬意を表し、今後の発展を皆さまと共に築いて参りたいと思います。
九州めっき工業組合/創立60周年記念式典開く
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60周年を祝した総会には福岡県の服部誠太郎知事や九州経済産業局の星野光明局長も出席 -
総会には約80人が参加した
九州めっき工業組合(福岡県筑紫野市、金森秀一理事長=オジックテクノロジーズ会長)は5月14日、福岡市内で創立60周年記念式典を開いた。会員企業の経営者ら約80人が参加。将来の成長を見据えて節目を祝った。
金森理事長は九州における半導体産業の集積や金利上昇などを踏まえ「業界を取り囲む環境は目まぐるしく変化している」と述べた。また、組合発足時の60年前とは経営や業界の環境が大きく変化していることにあらためて言及した。
一方で業界全体を見渡すと「価格転嫁や持続的な賃上げといった動きは道半ばだ」とも語った。めっき業界の価値向上に意欲を見せるとともに、各社の技術向上や産学官金の連携による新たな事業可能性の模索を呼びかけた。
式典には服部誠太郎福岡県知事や星野光明九州経済産業局長が出席。服部知事は「中小企業こそ地元の経済発展のカギだ」と地元企業の活躍に期待を込める。米国関税措置の動向について部局横断の協議会を立ち上げたことを説明し、連携や支援を通じた地域発展に期待を込めた。
星野局長は自動車産業の動向に言及するとともに、モノづくり基盤を強化するための研究開発や人材育成といった取り組みについて「前向きな支援をしていく」と話した。
