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九州のめっき産業界2025
国内産業を支えるサプライチェーン(供給網)の一端を担う、めっき産業。あらゆる分野のモノづくりにかかわる基盤産業の一つとして、各地の産業に貢献しながらユーザーの変化に対応している。一方、デジタル変革(DX)など新たな課題も迫る。九州のめっき産業も品質の安定や向上、新分野への挑戦を続ける。
品質安定・向上/改善活動/生産増強
経済の先行き不透明感が増す中でも九州のめっき各社は前向きな動きを止めない。品質の安定や向上、改善活動、生産力の増強を推進している。企業支援機関は積極的な企業の支援に注力する。
DX推進、職場環境も改善
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正信はめっき液の品質安定に向けた装置を導入した
正信(まさのぶ)(福岡市博多区、御舩隆社長)は、加工品質の安定性を向上させる取り組みに力を入れている。そこで進めているのが、めっき液の成分を管理して均一性を保つこと。使っている液の中の不要な物質を取り除く装置を導入するなど設備面の対応も実施する。
最近は形状が複雑な物に対するめっきの受注も増えているという。多品種少量でも品質を安定させることも目指す。
間接部門ではデジタル変革(DX)を行っており、経営に関する数字の見える化も進める。また、働く環境の改善も重視。新たな空調機を導入したり、遮熱工事を施したりするなどしている。
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熊防メタルは5S活動も含めて生産性向上に取り組む
熊防メタル(熊本市東区、前田博明社長)は今後の半導体需要の高まりを見越し、生産性向上や業務効率改善など事業拡大に向けた社内改革を推進する。
2024年は外部の専門家を招聘(しょうへい)し、品質改善に向けたプロジェクトを実施した。25年は専門家から受けた指導をベースに部署内で2—4人のワーキンググループを設け、社員がアイデアを出しやすい環境を自社で整備した。担当者レベルで改善できるような取り組みから、設備投資など予算取りが必要なものまで広く意見を募る。社員全員が生産性向上に気を配りながら仕事できるよう社内の機運を高めていく。
同社が平行して取り組むのが5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動の活性化だ。仕事が落ち着いている時期を見計らって不要な什器の処分や備品整理の時間を確保している。作業現場だけでなく資材置き場など会社全体を対象に、生産効率の高い職場作りを目指す。
表面処理 パワー半導体向け拡大
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東洋硬化が本社工場内で稼働させた新棟
東洋硬化(福岡県久留米市、小野賢太郎社長)は、本社工場内に工業用硬質クロムめっきや電気ニッケルめっきなどを手がける新工場棟を完工した。5月中旬に稼働させた新棟は中2階構造の3階建てで、延べ床面積は約700平方メートルとなる。
設備面では従来より1メートル深い4・5メートル級のめっき槽導入で大型製品への対応力を強化。ブラスト加工設備や各種表面処理に対応する整流器(電源)、チラー(循環液温調装置)なども設置した。
同社はシリンダーやロッドなどの部品に硬質クロムめっきを施すが、新品対応のほか中古部品を機械加工の上でめっき処理し、再生できるのも強み。ステンレスパイプ内面へのめっきなど技術力は顧客から評価を受ける。
新棟稼働後はめっき施工と機械加工をすみ分けでき、従業員の安全確保でも効果が大きい。小野社長は「道路標識や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製品へのめっきなど、新たな受注を獲得できている」と話す。
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田口電機工業が建設中の新工場
田口電機工業(佐賀県基山町、田口英信社長)は佐賀県鳥栖市に新工場を建設中だ。放射光を使ったナノメートル単位(ナノは10億分の1)での加工技術の開発やパワー半導体向け表面処理事業の拡大を図る。投資額は25億円。26年3月の完成を予定する。
新工場の建設地は、同市内にある共同研究先で、放射光を使う九州シンクロトロン光研究センター近く。2階建てで延べ床面積は4270平方メートル。1階部分は将来の機能拡充のために余裕を持たせ、2階部分に製造・研究機能を集約する。
環境に配慮し、表面処理に使った水の50%以上を再利用できる装置を導入する。太陽光発電設備の設置も予定する。
建設には経済産業省の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を活用する。
田口電機工業の田口英信社長は新工場について「将来的には70人以上の雇用を創出したい」と地元経済の発展にも資する考えだ。
福岡県工業技術センター機械電子研究所/企業と連携 新技術の事業化 後押し
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機械電子研究所がめっき技術の支援に使用しているスクラッチ試験機
福岡県工業技術センター機械電子研究所(北九州市八幡西区)は、研究・技術や人材育成で県内企業を支援している公的機関。めっき業界を支援しているのは同研究所材料技術課表面プロセスチームだ。企業と連携し、新たな技術の事業化を実現している。
正信(福岡市博多区)は、マグネシウム合金への化成処理技術を確立した。耐食性を向上させる技術や金属の質感を生かしたデザインが可能な無色透明の防錆技術の開発という課題に対して化成処理剤の組成開発と処理条件の最適化を行った。
吉玉精鍍(宮崎県延岡市)は、スズめっき廃液からのスズ回収装置を開発した。めっき業者がリサイクルに取り組むためには、スズ系の廃液を分別し、安価に高濃度のスズ回収物を得る装置開発が課題だった。回収すべきスズ廃液の選定および効率的なスズ回収方法の開発に取り組み、スズ回収装置を設計した。
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機械電子研究所は人材育成にも力を入れる
同研究所は、めっき業界の人材育成で分析・評価技術に関する講習会のほか講義と実習による研修会などを開いている。めっき技能検定に関しては九州めっき工業組合と協力している。
支援ニーズが高まっているテーマは省力化につながるDXだ。めっき事業に不可欠な廃液処理の管理にデジタル技術を取り入れることは管理業務の負担軽減につながる。また、めっき液の温度変化や水素イオン指数(pH)、処理に関する電圧などのデータをIoT(モノのインターネット)技術で収集・分析して品質の安定や生産性の向上に生かすことも期待されている。
