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大阪南部地域産業界
2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向け、各国が脱炭素の目標を掲げている。企業は脱炭素の取り組みを自社の成長につなげ、これは地域経済の発展にもつながるだろう。それはモノづくりが盛んな大阪府の堺市や岸和田市などの南大阪地域においても例外ではない。同地域の海側は製造業が多く集まるコンビナートを擁し、脱炭素への取り組みが強く求められている。南大阪は脱炭素を成長戦略に取り込めるのか―。
大阪湾 脱炭素の取り組み進む
水素・アンモニア 受け入れ整備
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた取り組みは産業が集積する港湾でも始まっている。国土交通省は国内の港湾や産業の競争力強化や脱炭素社会の実現に向け、脱炭素化のための港湾の高度化や水素・アンモニアの受け入れ整備などを進める「カーボンニュートラルポート(CNP)」の形成を促す。24年6月時点で港湾の脱炭素化推進計画が全国27港で作成されており、大阪府では3港で同計画が提出されている。
この3港とは国内の主要な国際貿易港の一つである大阪港(大阪市)をはじめ、堺市と高石市、泉大津市にまたがる「堺泉北港」、忠岡町と岸和田市、貝塚市にまたがる「阪南港」だ。この3港が連携し、脱炭素の取り組みが進む。荷主企業や港運事業者、船会社など港湾全体で、水素やアンモニアなどの輸入・貯蔵などの受け入れ環境の整備や、脱炭素化に向けた港湾機能の高度化、臨海部産業との連携を進めている。
国内に主要コンビナートは9カ所あり、その中で堺泉北港にある「堺泉北臨海コンビナート」は南大阪地域の重要な港湾エリア。事業者数は250社、製造品の出荷額が大阪府全体の2割を占め、地域の中核産業となっている。だが石油精製や化学、発電所などの産業部門からはCO2を大量に排出するため、CO2排出量の削減が大きなテーマとなっている。産業部門の脱炭素化で地域産業の競争力の強化や地域経済の活性化につなげることが重要になる。
脱炭素の取り組みとして、港湾ターミナルを出入りする車両の燃料を水素などの次世代エネルギーへの転換を図る。また堺泉北港を水素やアンモニア、水素とCO2から合成し都市ガスとして使える「eメタン」などの次世代エネルギーの輸入拠点とし、大阪港と阪南港をエネルギーの2次受け入れ・供給拠点化することを検討する。
ブルーカーボン推進
ENEOSと大阪ガスは23年8月にeメタンの製造拠点の建設の検討を発表。ENEOSの堺製油所(堺市西区)と大阪ガスの泉北製造所(堺市西区・大阪府高石市)の近隣に建設する見通しだ。ENEOSが海外で調達した水素と、大阪ガスが三井化学など近隣工場から調達したCO2からeメタンを合成し、都市ガスに混ぜて供給する。30年には大阪ガスの都市ガス供給量の1%に相当する年間6000万立方メートルの生産を目指している。
海洋の生態系を守りながら脱炭素を進める取り組みもある。大阪府では25年の大阪・関西万博などに向け、ブルーカーボン生態系の保全・再生・創出の取り組みを進めている。ブルーカーボン生態系とはCO2を吸収し、ためられる海洋生態系を指す。経済産業省は大気中のCO2を減らす「ネガティブエミッション」に関する報告書の中で、沿岸生態系のブルーカーボンの管理を挙げている。藻場や干潟などが広がればCO2の貯留量が増えるとともに、魚の産卵や生育環境が良くなり生物多様性の保全につながる。
大阪府は大阪湾内で大阪府貝塚市から神戸市東部にかけた湾部での藻場の創出、大阪湾南部・西部の藻場を保全・再生することで、大阪湾沿岸をブルーカーボン生態系でつなぐ「大阪湾MOBAリンク構想」を掲げている。
その中で南大阪地域の企業がブルーカーボンに向けた取り組みを進めている。関西エアポート(大阪府泉佐野市)は、関西空港周辺に広がる緩い傾斜に海藻類を着生しやすくするブロックを置き、広大な藻場を形成させている。これは大阪港の藻場面積の2割に相当する54ヘクタールを占める。空港周囲の海ではワカメやカジメなど多種多様な藻場が広がり、アジやアワビ、ヒラメなどの多くの魚類のすみかとなっている。
また産官学連携の取り組みも進む。大阪府阪南市は3月、日立製作所と大阪公立大学、大阪府立環境農林水産総合研究所とブルーカーボン施策のための技術開発などに関する包括連携協定を締結。阪南市沖で下水処理水質を制御することで窒素やリンなどを含む栄養塩類を管理し、海洋生態系によるCO2の吸収・貯留を促進するための調査を実施する。