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大阪南部地域産業界
2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向け、各国が脱炭素の目標を掲げている。企業は脱炭素の取り組みを自社の成長につなげ、これは地域経済の発展にもつながるだろう。それはモノづくりが盛んな大阪府の堺市や岸和田市などの南大阪地域においても例外ではない。同地域の海側は製造業が多く集まるコンビナートを擁し、脱炭素への取り組みが強く求められている。南大阪は脱炭素を成長戦略に取り込めるのか―。
脱炭素 自治体と企業の取り組み
堺市/再生エネを地産地消
「モノのはじまりなんでも堺」と言われる堺市。ここは貿易・商業都市として栄え、今でも多くの製造業が集積する。22年に堺市は、カーボンニュートラルの実現を目指す国の脱炭素先行地域に選定された。これを受け、再生エネを活用し、市内産の再生エネを公共施設に送る「堺エネルギー地産地消プロジェクト」を進めている。
このプロジェクトの一環として、堺市は工場や物流倉庫などの建物の屋根にPPA(電力販売契約)で自家消費用太陽光発電設備を導入し、その余剰電力を活用する事業を実施している。太陽光発電設備を設置する予定の堺市の建物を対象に、多くの余剰電力を生み出す事業者を選ぶ。建物の屋根を提供する需要家が太陽光発電した電力を自家消費し、余剰電力は堺市役所などの公共施設で使用する計画だ。
余剰電力を生み出す割合が高いほど補助率が上がる仕組みで、工事費や設備費などの最大2分の1を補助する。事業者向けに太陽光発電の余剰電力の提供を促す補助金制度は堺市では初めてで、関西エリアでも珍しい。
堺市は年間170万キロワット時の余剰電力の創出を目指しており、最大で十数件程度の採択を見込んでいる。堺市は5月補正予算で同事業に24―25年度予算で2億5000万円を計上。31日まで事業者を募集し、8月下旬にも補助金の交付が決まる。
さらに同市役所本庁舎(堺市堺区)でエネルギー消費を抑えた建物の改修事業にも取り組む。省エネルギーサービスを提供する事業者からの提案募集を8―10日に受け付けた。老朽化した空調や照明などの設備の高効率機器への更新や、エネルギーマネジメントシステムの導入など、省エネルギー効果などで最も優れた提案者が改修を請け負う。工事費用は約23億円。水光熱費で年間5000万円強の削減効果を見込む。
事業対象となる建物の延べ床面積は7万6000平方メートル。既存の官公庁舎の改修によるZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)シリーズの認定として延べ床面積で全国最大となる。延べ面積1万平方メートル以上の建築物を対象とし省エネ性能の高いビル認証「ZEBオリエンテッド」の取得事業者の応募を見込んでいる。改修期間は25年6月―28年3月末。さらに事業者の改修による建物の省エネ保証期間は28年4月―43年3月末までの15年間。事業者の選定は10月中旬を予定している。こうした取り組みを通じ、堺市内でのエネルギーの地産地消を促す。
岸和田/公民で循環型シティ
だんじり祭で有名な大阪府岸和田市。岸和田藩の城下町を基に発展した工業地帯だ。ここでは企業と自治体が連携した取り組みが進む。
岸和田市は2月、車のリースを手がける住友三井オートサービス(東京都新宿区)とゼロカーボンシティーの実現を目的とした公民連携協定を結んだ。再リースの対象となる中古の電気自動車(EV)の車両の品質や性能、経済性、劣化推移、運転手の心理などの検証を実施し、EV車の活用実現性を実証する。実証で得られたデータはEV車の普及や品質向上、自動車リースのサービス向上、バッテリーの二次利用などにつなげる。次世代自動車に関し連携し低炭素で循環型のまちづくりを進める。
また伊藤忠商事の子会社である伊藤忠プランテック(東京都港区)と3月、同じくゼロカーボンシティーの実現を目的とした公民連携協定を締結した。伊藤忠プランテックは再生エネの発電から電力使用までをつなぐ「脱炭素エネルギーバリューチェーン」の構築を掲げている。両者が持つ資源を有効活用し、太陽光などの再生エネの導入や省エネ設備の普及、蓄電設備の利活用などを推進する。50年のカーボンニュートラルに向けた動きを加速させる。
高石市/石化業界の脱炭素加速
三井化学は丸善石油化学(東京都中央区)や東洋エンジニアリング、双日マシナリー(東京都千代田区)と共同で、化学品製造の始まりとなる「ナフサ分解炉」の高度化技術の開発事業を進めている。三井化学の大阪工場(大阪府高石市)が保有するエチレンプラントのナフサ分解炉でメタンを主成分としていた燃料を、燃やしてもCO2を発生しないアンモニアに転換し、燃焼時に発生するCO2の発生量をゼロに近づける。30年度にアンモニア専焼商業炉での実証を終え、社会実装を目指す。
三井化学は大阪工場をモデルにナフサクラッカーの原燃料転換やCO2の利活用、30年近傍に実現可能な技術を示した「大阪工場カーボンニュートラル構想」を策定している。
石油化学業界の脱炭素の取り組みは業界の成長戦略とともに、地域経済の活性化につながる。
泉佐野市/ため池を活用し太陽光
ため池を活用した太陽光発電の取り組みも進む。大阪府泉佐野市では電力価格の高騰を背景に、市場調達比率を減らして再生可能エネルギーを調達するため、農業用ため池を活用したオフサイトPPAを計画。太陽光施設を設置・運営する事業者を公募し、三井住友建設を採択した。
三井住友建設は23年6月、泉佐野市長滝の農業用ため池を活用した水上太陽光発電所を完成し、運転を始めた。独自の水上太陽光発電用フロートシステム「PuKaTTo(プカット)」による発電設備を設置。発電した電気は泉佐野市が出資する泉佐野電力(大阪府泉佐野市)に25年間売電する。
さらに1月には泉佐野市日根野の農業用ため池でも同様の太陽光発電所を完成し運転を始めた。さらに蓄電池を設置し、災害時に地域の非常用電源として活用できる仕組みを構築している。泉佐野市はこうした取り組みを通じ、再生エネの導入を加速させていく。