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11月25日は金型の日
11月25日は「金型の日」。日本金型工業会は金型工業の認識を深めるとともに、今後の金型業界の発展を目的として、工業会の創立記念日を「金型の日」と定め、例年記念式典を実施している。51回目となる今回の式典は、25日14時から東京都目黒区のホテル雅叙園東京で開催される。
激動の時代にどう成長させるか 金型産業-今とこれから
【執筆】日本金型工業会 学術顧問 横田 悦二郎
日本は今、人口減少による人材不足、急激な為替変動、国際間紛争の多発、電気自動車(EV)による自動車産業の転換、生成人工知能(AI)などのITの急激な進化、各種国内安全保障の重要性の再認識、環境変化の顕在化など、すべての産業においてこれまでの常識が通用しない〝100年に一度の変革〟が求められる時代に突入している。金型産業も例外ではない。ここではこの激動の時代に、今後も金型産業を持続成長産業にさせるためにはどうあるべきかについて解説する。
はじめに
年初から〝今年は100年に一度の大変革の年〟になると言われていた。それがさまざまな面で現実となっている。目に見えるところでは、世界各地で紛争が多発し、世界経済に大きな影響を与えている。目に見えないところでも「互いの利益を考える」よりも「自国の利益を最優先」といった風潮が高まり、グローバル調達リスクも現実化し、世界各国のモノづくり産業はグローバル調達優先戦略の見直しを余儀なくされている。
一方、日本国内に目を向けると、日本の生産人口の減少による〝人材不足課題〟が表面化し、「受注があっても生産できない現象」や「ITなどの新技術対応人材が獲得できない」など、企業存続そのものに影響を及ぼす例が目立ち始めた。
その結果、日本のモノづくり産業では、これまでのような顧客市場の好不況による影響を受ける産業別格差ではなく、人材獲得の優劣による地域格差や企業格差が広がりつつある。しかしこの格差は一企業が一朝一夕に止めることはできないばかりか、今後はますます広がり続けることを産業界としては覚悟しなければならない。このように環境が変化する中で、金型産業や企業はどうあるべきかについて解説、提案する。
利益性の高い産業に
いかに変動が激しい時代にあっても、金型産業を持続的で魅力的な産業にするための基本は「利益性の高い産業にする」しかない。金型産業は「材料素材を購入し、それに付加価値をつけて販売する産業」である。
そこで得られる利益は「販売価格から材料などの購入費を引いた限界利益」から生み出されるが、通常金型産業においてはこの限界利益率が「65%より高いか低いか」で「利益が出るか出ないか」が決まってしまう。従って、金型企業にとって重要なのは「いかに限界利益額を増やすか」に注力することである。
当然ながら、どんなに生産性を高め、コストダウンに努めても、限界利益額は絶対に増えない。限界利益額を増やすには販売価格を上げるしか方法はない(図1)。これまでのようなシェアや受注を獲得するための〝薄利多売戦略〟の時代はすでに終焉(しゅうえん)している。
〝安値販売〟では利益が出ないことは当然であり、利益が出なければ給与も払えない。人材不足の世界では、安値販売で「従業員が満足する給与が払えない企業」は廃業か倒産の道を歩むことは確実である。
QCD第一主義からの転換を
これまで日本のモノづくり産業は顧客利益最優先の〝QCD(品質・コスト・納期)第一主義〟でやってきた。しかし基盤産業を「利益性の高い産業にする」にはQCD第一主義の考え方も変革しなければならない。
例えばQに関して言えば、これまでQを「品質」と解釈してきたが、実はこの「品質」には明確な定義がなく、産業界や国の文化によって大きく違い、これまでも解釈の違いによってさまざまな問題の発生源になってきた。
そもそも金型産業においては「品質」をビジネス契約で使うべき標準にはなり得ないことを再認識しなければならない時に来ている。むしろ金型のシステム化が確実な今後の金型産業におけるQ(品質)は、その標準をF(Function)で表現される「機能」に変えるべきであろう。
また、C(コスト)面に対してはすでに一般的にも「日本はこれまでコストダウンを優先しすぎた。コストダウンでは産業や企業に利益を生まないばかりか、日本の競争力自体を弱めるだけだ」といった風潮が広がりを見せており、石破新総理も党首討論の席で「この30年間、日本経済が停滞に陥った最大の原因はコストダウンばかりに注力してきたことにある。今後はいかに付加価値を上げるかに注力すべきである」と明言した。
確かに日本人が得意とする「工夫が必要なKAIZEN活動」などによるコストダウン活動は今後も必要ではあるが、これまではその活動により得られたコスト削減成果を売価低減に使ってしまったことが大きな間違いであった。
今後はコストダウンによって得られた成果は「利益として捉える」ことが大切である。
従って、目指すべきはC(コスト)の追求ではなく、それによって得られるP(Profit=利益)の追求でなければならない。間違いなく言えるのは、日本のコスト優先主義の時代はすでに終焉し、今後もこの復活は絶対にあり得ないということである。
加えて、D(納期)に関してもこれまでの常識を大幅に変えるべきである。今後の多品種少量生産時代では、確実に今までより製造納期は長くなる。一方、顧客市場からはこれまで以上の短納期の要求が強まるだろう。
この矛盾した課題の解決には「すべてのモノづくりの基となる金型」製造の納期短縮を図るしかない。金型の短納期化に対する対策としては、これまで試みてきたIT活用によるデジタル変革(DX)や、完全自動化による24時間稼働など、さまざま存在するが、今後の顧客市場環境を考えるとこれまでとは違った方策も必要である。
例えば金型製造を受注決定時にゼロから始めるのではなく、ITなどを活用して全ての工程で〝あらかじめ予測して準備する〟策をとる必要もある。加えて、納期面で考える際に重要なことは「短納期で製造=付加価値(Value)が高い仕事」として捉え、「納期の長短を価格に反映させる」ことの常識化を業界一丸となって取り組むことである。
いずれにしろ、今後はこれまでのようなQCD第一主義ではなく、ここで提案する新しい価値観である〝FPV第一主義〟の時代にするべきである(図2)。
国の経済安全保障のカギは金型にあり
この大変革期にもう一つ重要なことは、「金型の重要性」について顧客市場ばかりでなく一般社会にも認知させることである。国が指定している安全保障には防衛安保だけではなく、この夏の「米不足騒動」に代表される農業安保があるが、日本が持続的な国家を維持するためには経済安保がもっとも大切な安全保障であることは誰もが認めることだろう。
米不足騒動の際には「国内食料自給率が38%程度しかない。日本は危機的な状況にある」という認識が高まったのではないだろうか。今後は食料の国内自給率を高めるべきで、地産地消が基本であると考える。
しかし農業就業者は減少の一途であり、すでに3%を切っているため、この解決は簡単ではない(図3)。経済安保についてもコロナ禍に経験したような風潮が発生し、地産地消が基本であることは食料安保と変わらない。
少し前、経済評論家たちがこぞって「これからは国際調達が全てのビジネスの基本である」と主張していたが、それが間違いであったことをコロナ禍は教えてくれた。「日本で作れるものは日本で作る」は経済安保維持の基本中の基本である。
そして「そのカギを握っているのは金型である」ことを金型産業は再認識し、業界一丸となって一般社会にアピールすることが大切である。業界が一丸となることは国や金型産業界のためだけではない。自社の存続にとっても大切なことである。
人材不足が確実な世界では、企業は情報、設備、人材など、すべての面で共有していかなければ生き残れない。業界が一丸となれば政府への要望ばかりでなく顧客層への要望も達成できる。今後は間違いなく「競争から共創へ」の大転換が本格化する。