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宮崎県北地域特集2023
高速道路の開通や港湾設備の整備などで、宮崎県北地域の重要性が高まっている。旭化成を中核企業とした高度な技術を有する地元中小企業が集積する九州屈指のモノづくりエリアである。本特集では県北地域の中心都市である延岡市、日向市の市長インタビューなどを通じ、モノづくりで成長し続ける宮崎県北地域の今を紹介する。
ひむかの底力 産業発展へ
延岡市は2016年に、10年後の域内の売り上げ倍増を掲げた「延岡市工業振興ビジョン」を策定、26年3月まで実施中だ。その実現に向け、大きな役割を担うのが宮崎県工業会県北地区部会(吉玉典生県北地区部会会長=延岡商工会議所会頭<吉玉精鍍社長>)の活動だ。ビジョンの達成に向け、三つの分科会を設置。若手経営者らが中心となって、議論を重ねている。
域内売り上げ倍増へ―宮崎県工業会県北地区部会の取り組み
―足下の状況は。
「製造業に関しては、INOBECH協同組合をみても売上高は前年比で上がっている。だが、材料高が転嫁できていないので利益が増えているわけではない。しかし、これまでの横ばいから底打ち感が出てきた」
―TSMCの進出など、人材不足がより深刻化しています。
「県内某大手・中堅企業からTSMCへ転職したものの、仕事がハード過ぎて辞めたとの話も聞く。東京や大阪、福岡に多くの若者が出た後、身につけた技術を延岡で起業するなどして生かせたらよいと思う。モノづくりには人が絶対必要。保護者を含めた会社説明会をやり続けていく」
―製造業でデジタル化が進んでいます。延岡市との連携は。
「延岡デジタルクロス協議会(甲斐稔康会長=興電舎社長)では地域のデジタル化に取り組んでおり、魅力ある延岡を創造している。今後、商店街と連携してスマートフォンで買い物も配達もするマッチングアプリなどができればさらに便利さが増すだろう」
―地域の将来をどう展望していますか。
「インフラの整備が必要だ。新型コロナが5類に移行し、行政と連携して国交省・財務局など国に対する要望運動ができるようになった。九州中央自動車道は災害対応や産業を活性化させる経済の道として重要。全体延長約95キロメートルのうち供用率は現在32・4%。宮崎県側の蔵田―平底は未事業化区間のままだ。官民一体となって建設促進させていきたい」
県北地区部会 各分科会の取り組み
新事業・販路開拓分科会/来年2月、TSMC進出の影響など熊本の産業実態視察
主な活動内容として8月25日に外部から講師を招いて「ビジネスモデルイノベーションセミナー」を実施した。これはビジネス・モデルキャンバス(BMC)を使い、参加した企業のビジネスモデルをそれぞれが書いた上で、イノベーションを起こす起点を探索するもの。ペアを組んだ企業が互いを分析し合うなど実習した。
2024年2月には台湾積体電路製造(TSMC)が進出した熊本県の実態を視察する計画を立てている。すでに進出しているソニーやオムロンの工場見学のほか、熊本県庁も訪れる予定だ。甲斐委員長としては「投資状況や処遇、雇用といった地場企業への影響についても具体的な話を聞き取り、今後の活動へと生かしていく」構えだ。
24年度は、第4回東九州ものづくり交流展の企画・アイデア出しに動く。東九州地域外からも出展・参加を呼びかける。開催する会場についても、前回実施した延岡総合文化センターだけでなく、野口遵記念館や、新体育館「アスリートタウン延岡アリーナ」とするかも含め、話し合って進める。
事業構造改革・企業体質強化分科会/現場のDX・人手不足下での現場づくりに重点
今期は、現場のデジタル変革(DX)の取り組みとして、旭有機材へ工場視察に行った。現場の見える化をどのように着手すればよいのか見せてもらい、説明を受けた。まずは生産管理の見える化から始めよう、と議論をしている。DX化は以前から連携する「改善インストラクタースクール」のほうとも関連してくるため、今後どのような改善ができるのか、2―3カ月に1回開く委員会の例会で話し合っていく。
企業体質の強化としては、延岡信用金庫による地元企業への経営支援の際、分科会で作成した中期経営計画書のフォーマットを活用してもらっており、今後も地域の企業に広めていく構えだ。
稲田委員長は「人が一番のポイントになる」とみる。大企業は省人化の仕組みづくりをやりやすい。しかし「小ロット多品種といった人の手が必要な業種では、これだけ人手不足になると現場づくりがすごく大切になる」。そのため、新人でもすぐに仕事に取りかかれるようどのような仕組みがあれば可能になるのかを整理し、分科会の中で作り上げていく考えだ。
人財育成分科会/就職後3年以内の社員で合同研修会実施
地元に就職した若者を対象に2022年度から地域ぐるみで人材育成をしよう、との試みで若手人材育成事業を実施している。これは就職後3年以内の社員を集め、合同研修会をする教育システム。月1回、3カ月間実施した。同世代の横同士のつながりができるほか、先輩社員との対話の仕方を学ぶ場となっており、評判も上々。24年度も実施する。
産業人材を育成し、いかに定着させるか。地元の高校と連携し、出前授業や会社見学、企業説明会を開くなど、高校生の産業教育に10年以上取り組んでいる。延岡工業高校と取り組んできた文部科学省「マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)」は23年度で終了する。しかし、島原委員長は、行政や地元企業、実務家教員、教育委員会と一体となって「今後も継続していく」考えだ。
保護者向け、学校の教員向けに会社説明会や見学会をより多く開くことで地元の企業をもっと知ってもらい、地元就職の選択肢を増やしていく。人材育成の先にある地域活性化のため、産学官連携で取り組んでいく方針だ。