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MC・NC工作機械
5軸制御工作機械を利用した加工の自動化および効率化の取り組みが注目されている。5軸制御工作機械は、直進駆動3軸に回転駆動2軸を加えた工作機械であり、工具の位置・姿勢を自由に制御することができる。5軸制御工作機械と制御する数値制御(NC)装置、NCプログラムを生成するCAMソフトウエア、特殊工具等の要素技術を高度に連携させることにより、オーバハング部や自由曲面を有する複雑な形状の加工や、多工程連続加工の自動・無人化など、さまざまな高付加価値加工を実現することができる。
高付加価値生産を実現する5軸制御加工のための工具経路生成手法の開発
NCプログラム複雑化の背景
【執筆】電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授 森重 功一
近年、国内の製造業では航空・宇宙関係の部品など付加価値の高い製品の試作や生産に関する仕事の比率が高まりつつある。このような部品は形状が複雑なだけでなく、強度と精度が要求されており、5軸制御工作機械を用いた切削加工によって製造されているものが多い。3次元(3D)プリンターとして自由度の高い生産手段としての地位を確立しつつある積層造形(AM)と5軸制御加工の両方の機能を具備した複合加工機も多数提供されており、5軸制御加工の有用性が再認識されている。こうした背景から、さまざまな形状を高精度かつ効率的に加工できる付加価値の高い5軸制御加工技術の確立が不可欠となっている。
5軸制御加工を行うためには、複雑な工作機械の動きを指令するNCプログラムを作成する必要があり、そのためにはCAMソフトが不可欠である。作業者が意図する加工を反映した適切なNCプログラムを作成するには、5軸制御工作機械、NC装置、切削工具に関する多くの知識を必要とする。加工が複雑になるに伴い、現場における加工にかかるコストよりも、NCプログラムの作成にかかるコストの方が問題となりつつある。
自由曲面の仕上げ加工にはボールエンドミルが多用されてきたが、近年、仕上げ加工の効率化を目的として、特殊な形状の工具が市場に投入されている。その代表的なものがバレル工具である。バレル工具は、切れ刃の曲率半径が大きく設計されており、図1に示すように、大きなピックフィード(切り込み間隔)幅で加工しても、滑らかな仕上げ面を得ることができる。加工経路の短縮によって加工時間を大幅に削減でき、研削や研磨などの後工程の省略にも寄与する。
現在では、各工具メーカーから、バレル型のほかにテーパーやレンズなど、用途に対応したさまざまな形状のバレル工具が提供されている。
さらに、複数の切れ刃形状を組み合わせた複合型も提案されている。これらのバレル工具は、加工面の形状に合わせて工具の姿勢を制御する必要があるため、5軸制御工作機械と併用することが望ましい。
コンフィギュレーション空間に基づいた工具経路生成
本研究室では、5軸制御工作機械と制御するNC装置、特殊工具などの要素技術を高度に連携させた高付加価値切削加工を実現する工具経路生成手法を開発している。加工の精度や効率を考慮した適切な切削点の配置、さまざまな干渉の回避や加工面に対する影響、工作機械の動きを考慮した工具姿勢の決定などの基盤的な機能に加え、多種多様な特殊工具への対応、NC装置の特性を考慮した工具経路の補正など、あらゆる加工戦略に対応した5軸制御加工を実現するために、多関節ロボットの動作計画等に用いられているコンフィギュレーション空間(C-Space)の考え方に基づいた工具経路生成手法を提案している。
まず、図2(a)に示すように、切削点Pを原点、Pにおける法線ベクトルnの方向をZ軸、工具送り方向を指示するベクトルFをX軸、nとFの外積をY軸とした切削点座標系を設定する。切削点Pに対する工具の位置・姿勢は、指令点Oと工具軸ベクトルTによって表される。
切削点座標系におけるC-Spaceの構成を図2(b)に示す。同空間においては、原点からの距離がθ,原点周りの回転角度がφに対応しているため、C-Space内の1点は1つの工具姿勢を表すことになる。C-Spaceから、工作物と干渉するような不適切な工具姿勢に対応する不適切な領域を取り除いて残った領域を「自由領域」と呼ぶ。自由領域内の工具姿勢を、最終的に出力する工具経路の候補として用いる。