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マシニングセンター
顧客ニーズに対応する大型門型5面マシニングセンター「HF-MⅡ」の開発
【執筆】新日本工機 第二技術部 第四開発設計課 係長 益山 昌己
工作機械に求められるニーズとして、近年は生産性向上はもちろんのこと、環境面への配慮も必須事項となっている。当社でも標準門型機については適応させてきたが、特殊機や超大型工作機については、その特殊性や大きさ故の技術的な課題があり、対応に時間を要していた。今回、国内最大級の超大型門型機である「HF뗙Mシリーズ」において、その課題解決に取り組み、適応が可能となった。併せてIoT(モノのインターネット)ソリューション、自動化、省人化といった昨今のモノづくりのニーズにも応えるべく、大型門型5面マシニングセンター(MC)「HF-MⅡ=図1」として刷新した。
油量削減、電力消費量削減による環境対応
超大型機ではその大きな荷重を支えるため、各送り軸の摺動(しゅうどう)面は静圧が通例である。この静圧の維持には油を常に循環させることが必要で、数百뗥もの大量の油が必要となる。定期的なメンテナンスも必要で、ランニングコストや交換時の油の廃棄など、顧客に大きな負担を強いてきた。当社では標準門型機の特殊仕様として、積載重量100トン仕様のX軸テーブルにリニアガイドを装荷した実績があり、この検証結果から超大型機においてもX軸、Y軸摺動面にリニアガイドの採用が可能だと判断した。
大型ころ軸受のリニアガイドを採用し、荷重分布に対して機械構造部の最適化を図ることで、基本性能の向上も図りつつ、リニアガイド化を実現した。これにより機械全体使用量の静圧油量の60%削減に成功した。
同様に超大型機ではこれまで大量の作動油も使用していた。垂直軸であるZ軸、W軸で移動体重量を支えるために、大径の油圧バランスシリンダーを使用していたためである。Z軸、W軸の送り機構をツインボールスクリューに変更することで高負荷を支えることが可能となり、バランスシリンダーの使用を止め、作動油の使用量も80%削減した。静圧油、高圧油のトータルで約70%の大幅な油量削減となり、顧客にとっても大きな負担軽減となった(図2(a))。
また、必要油量の削減によってポンプなどの各ユニットを小型化することができ、消費電力の削減にもつながった。加えてオイルマチックのインバーター化や、チップコンベヤーの連続運転から間欠運転への変更などを行ったことによって、一般的な機械使用状況下において、従来機と比較して消費電力量を約18%削減した(図2(b))。超大型機においても環境面に対し大きな改善が実現できた。
送り速度・切削能力・剛性の向上
さらに機械構造を見直した効果は、環境負荷低減や消費電力削減だけではなく、送り速度アップなど生産性向上にも大きく貢献している。各軸の早送り速度は従来機より20-70%向上し、非切削時間の大幅な短縮が可能となった(図3)。一般的な加工状況下で約10%の生産性向上が見込まれる。また、X軸、Y軸のリニアガイド、ボールスクリューには自動グリス供給装置を採用することで、メンテナンス性の向上とメンテナンス時の機械停止時間の削減にも配慮し、機械運用トータルでの生産性向上につなげる施策を盛り込んだ。
工作機械として本質的な能力である切削能力と剛性アップも果たしている。昨今、ギガキャストや防衛関連など加工対象物(ワーク)も従来から様変わりしている。超大型ワークでも加工精度要求が高まり、複雑に入り組んだ部分などの特殊なアタッチメントによる加工要求も増加している。
これに応えるため、より高次元の剛性を備えたラムに進化させた。今回、自社製造の遠心力鋳造管より削り出した420ミリメートル角の角ラムを採用した(図4)。材質は鋳鋼(SC480-CF)。断面構造も強化し、コンパクトながらもラム剛性が従来比2倍に向上している。遠心力鋳造管は材料の鋳込みから仕上げ加工まで一貫して自社で行っている。金型を高速で回転させ遠心力を加えた状態で鋳込むことで、非常に緻密で高品質な材料が得られ、当社独自の技術となっている。
もっとも重要なラムのZ軸摺動面には高減衰性と低摩擦係数を維持し、高精度な加工が安定して可能な静圧を継続して採用している。ここにも改善を加え、ラムを支える構造を更新し、摺動面積も2倍まで向上させた。摺動面の拡大はZ軸の直進度精度の向上にも効果を発揮し、従来機と比較して約10%以上の改善となった。主軸も出力をアップし、ラムの剛性アップ、摺動面の拡大と併せ、大径のフライスやサイドカッターを用いた重切削や、Z軸を突き出した状態でも安定した高精度加工が可能となった。
またHF-Mシリーズはさまざまな加工に対応した特殊専用アタッチメントが装着可能で、過去500種類以上の製作実績がある。アタッチメントをクランプする機構も強化し、クランプ力は従来機より2倍にアップさせた。アタッチメントを強力に保持することで、特殊なロングアタッチメントなどの使用時でも十分な保持剛性を持ち、安定した切削加工を実現している。
機械の安定・安全運用のための機能アップ
機械の安定した運用には、加工以外の部分の課題改善も重要である。機械の状態を正確に把握し、予防保全や予兆管理を実施することもその一つである。当社は自社内にソフトウエア開発部門があり、長年当社工場内の実現場で改善を進めてきた支援アプリケーションを数多く開発している。今回、機械の機能改善と併せて支援アプリケーションも実装し、加工以外でも機械の安定運用に向けて改善を図った。
機械状況を常時モニターで監視、その履歴を残し、運転状況や予防保全、改善のための分析データなどを操作盤上のディスプレーで簡単に確認できる機能を装備した。また従来機では日常点検項目によっては機械上部まで登って計器を確認する必要があったが、本機では圧力や流量センサーなどを機械に追加配置し、各センサーの値はリアルタイムにディスプレーで確認可能となった。履歴データを比較することで、機械の状況変化や加工状況の変化を簡単に把握できる「Si-Check」機能も準備している。
そのほか、大型機ではワーク段取り替えや工具準備、機械保守など人が介入する作業が多くあるが、負担が大きく危険も伴い、ミスを誘発するリスクがあった。昨今、製造業では作業者の減少など今後避けられない課題もでてきており、自動化の支援オプションを充実させている。
大型ワークの機械との平行出し、芯出し作業など、熟練者のスキルが必要な作業を機械側が自動で安全に実施する「ワーク平行出し機能」や、基礎変化などによる精度変化を据え付け時からの機械変位を捉え、常時機械内部で座標補正を行う高精度復元システム「MCC-i」、工具の機械への入れ間違いをカメラでチェックする「Si-Tool Check」など、作業者に代わって機械側が自動で実施する機能も開発し、適応させている。また、自動工具交換装置(ATC)への工具交換用ロボットによる工具自動挿入や、無人搬送車(AGV)よるツールワゴンの自動搬送の対応などにも取り組んでいる。
電気自動車(EV)関連などのワークの複雑化や大型化、高精度化が進む中、環境面への取り組み、機械の高剛性化、高速化、高精度化など生産性向上について述べてきたが、操作性やメンテナンス性の向上などスペックに現れない箇所も随所に改善を行っており、「使い勝手の良い機械」としている。今後も顧客に満足してもらえる価値を提供し続けられるよう、開発を進めて行く所存である。