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葛飾区産業界特集
中小のデジタル化支援 補助金新設
東京都の北東に位置する葛飾区は、日本でも有数の工業集積地域である。工場数は東京23区の中で大田区、墨田区に次ぐ第3位を占め、業種構成も金属プレス、機械部品、粉末冶金製品、工業用ゴム、玩具、印刷など多様な点が特徴だ。大半は従業員6人以下の小規模工場が占め、最近は研究開発や自社製品製造を志向する企業も増えている。
葛飾区長 青木 克徳 氏 インタビュー
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葛飾区長 青木 克徳 氏
ー本年度は目玉施策としてデジタル化支援事業費補助金を打ち出しました。狙いと進捗(しんちょく)を教えてください。
「効率的な企業運営のため、業務のデジタル化は必要だと皆さん認識している。ただ、どこから手をつけたらいいか分からないという中小企業も数多い。このため専門家の助言を得ながら、例えば在庫発注管理や人事・給与分野のデジタル化を進められる制度を始めた」
「補助金額は最大50万円で申請も多数来ており、ぜひ呼び水として活用してほしい。業務デジタル化は売り上げに直結しないが、業務の効率化や賃金の引き上げにつながるはずだ」
ー東京理科大学と区内4社が連携して進める「知的な筋力トレーニング装置」開発の進捗はいかがですか。
「試作機はすでに完成しており、今は日本体育大学の学生に試してもらい、必要なデータを収集している。どんな形でアップグレードすれば大学やスポーツジムで使ってもらえるかを検討し、最終的な商品化を進めている。また新製品・新技術開発補助事業を活用した、別の開発案件の相談も受けており、こうした事例が次々と出てくることを期待している」
ー見本市出展への補助金も拡充しました。その狙いは。
「展示会に出展した企業に話を聞くと、その場で商談に結びつく場合も含めて、結構効果的だと言う声が多い。中小企業の技術を多くの方に知ってもらうとともに、来場者から『この技術はこういうのに使えるのではないか』『こういうものを作ってほしい』という話になり、そこで初めて具体的な仕事になる。販路拡大につながるため、今回補助金の利用可能回数や補助金額を増やした。お客さんの声を聞くのが製品作りには一番良いので、今後も積極的に取り組む」
ー葛飾ブランド「葛飾町工場物語」の認定企業数が本年度、新たに7件増えて、合計103件と3ケタの大台に乗りました。
「昨年度までは区内に工場がある企業が認定対象だったが、最近は区内に本社があっても、区外に工場を移転しているところもある。今年はそうした企業も認定対象として認めるようにした結果、7件新規認定した。もともと区内の町工場の高い技術力を発信していきたいという考えから、2007年に第1回の認定を開始し、今年で17回目を迎えた。審査員がチェックして区が認定したとなれば『あそこで評価された製品なら試してみよう』と、仕事に結びつくはずだ」
事業承継 相談窓口を開設
ー葛飾区の産業の課題は何ですか。それに対して、どう取り組みますか。
「一番は高齢化だ。人口が最も多いのは団塊の世代だが、企業経営者も同様で、本人は若いと思っていても、突然倒れたり身体が悪くなったりしたら、廃業になるリスクが高い。そうなると、従業員も含めて関係者全員が困る。その会社が特別な技術を持っていれば、その技術が散逸してしまうほか、サプライチェーンが分断されてしまう」
「それを防ぐには事業承継が大事だ。ただ最近は親族への承継が簡単ではなくなり、従業員への承継も難しくなった。区としては相談窓口を開設しているので、そういったものを活用しながら、時間をかけて丁寧に進めてほしいと考えている」
「町工場見本市」ENEXで併催
ー本年度は区主催の展示会「町工場見本市」を初めて東京ビッグサイト(東京都江東区)で開きます。意気込みを聞かせてください。
「今まで東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開いてきたが、今回は1月29日ー30日に開催される展示会『ENEX2025 第49回地球環境とエネルギーの調和展』内で併催する。ENEXに来場した人にも区内の町工場の展示を見てもらい、結果として仕事に結びつくことを期待している」
生産性向上・業務効率化を後押し/デジタル化支援など補助金充実
葛飾区の2024年度施策の目玉は「デジタル化支援事業費補助金」の新設だ。「デジタル化に興味はあるものの、どこから手をつけて良いか分からない」という区内中小企業の声に応えた。補助上限額は50万円、補助率は2分の1と決して大きな規模とはいえないが、中小企業の生産性向上や業務効率化につなげるための“呼び水”として期待される。
対象は「勤怠管理システム」「受注管理システム」「イラストレーター」といったソフトウエア購入費・利用料や、キャッシュレス決済の導入にかかる費用、クラウドサービスの利用料、システム構築のための外注費、デジタル技術の導入方法を実証するための専門家からの技術指導料など幅広い。ただし、ハードウエア購入のみの経費や、ソフトウエアの更新費・追加購入ライセンス費などは含まない。
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「デジタル化合同セッション」では先進的な中小企業が講演した
申請には葛飾区が開催する「デジタル化合同セッション」での個別相談やIT導入専門相談に参加し、デジタル簡易診断書の交付を受けることが必要となる。ITの専門家が業務上の課題や問題意識を聞き取り、相談しながら取り組み内容を決定できる伴走支援も行う。導入する内容を決めた後も3ー6回の面談を通じ、成果を確認しながらデジタル化を進めることが可能だ。
同補助金は募集開始から5カ月で30件ほどの相談があり、葛飾区では25年3月までに40件程度の申請・承認を見込む。産業観光部商工振興課の渡辺裕淳工業振興係長は「ほかの区ほど要件が厳しくなく、生産性向上につながるものは幅広く受け付けている」と話し、区内中小企業の多くが同補助金を活用することを期待している。
これに関連して、区内中小企業を対象に「ホームページ作成費補助金」事業も継続して実施している。製品や技術を広くPRする手段として、自社ホームページを作成・改修、または同時に外国語対応(日本語を含めて2カ国語以上の言語に対応することが条件)を実施する際の経費を助成する。
補助率は2分の1で、補助上限額は通常のホームページ作成・改修が5万円、外国語対応のホームページ作成・改修は8万円。さらに電子商取引(EC)サイトの新規構築は10万円、PR動画の作成・掲載は2万円をそれぞれ上乗せで補助する。ただし、ECサイト構築、PR動画作成のみの申請は対象外となる。
「見本市出展費補助金」も拡充 最大年3回に
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経営・財務・販路拡大などが無料で学べる「創業塾」も開催
また24年度は、区内中小企業が生産・加工する製品をPRするために展示会や見本市に出展する経費を助成する「見本市出展費補助金」も拡充した。これまでは年2回までの支給だったが、年3回に拡大。補助上限額もこれまでは初回が30万円、2回目は15万円だったが、本年度は2回目・3回目も30万円に増額した。
さらに物流業界の残業規制強化に伴いドライバーが不足する「2024年問題」に対応するため、「産業人材育成支援補助金」事業を拡充した。区内の中小トラック・バス事業者を対象に、大型免許・大型二種免許などの取得にかかる経費の2分の1、上限額60万円を助成する制度を創設した。