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人とくるまのテクノロジー展2025YOKOHAMA(2025年5月)
日本におけるコネクテッドサービス 認知・利用状況と今後の期待
【執筆】 S&Pグローバルモビリティ オートモーティブインサイトセールス 製品担当SME 野久尾 淳
当社は自動車関連の新技術の消費者調査を毎年実施している。人とくるまのテクノロジー展2025の開催を前に、コネクテッドサービスに関する調査を行った結果、自動車市場規模の拡大が継続する新興市場では同サービスの利用率が既に高いのに対し、成熟市場での利用率は低く、普及速度に違いが見られた。成熟市場の中でも日本は機能の認知自体が進まず、利用も拡大してないという欧米成熟市場からも後れている現状が明らかとなった。
サービスに対する世界各国の意識の比較
自動車がインターネットを介し外部ネットワーク、システムと接続され提供される「コネクテッドサービス」。自動車の安全性、快適性などの向上が期待されるが、日本ではその利用が拡大していない。
当社では世界8カ国、約8000人を対象に22年以降、消費者調査を実施している。図1は無料トライアルを含めコネクテッドサービスを利用する消費者の比率を示しているが、日本の利用率の低さは顕著である。日本の利用率は調査した3年間、いずれの年も40%に届かず、22年に比べて24年は低下しており、低い利用率で頭打ちの状態にあるのが特徴となっている。
なぜ日本でコネクテッドサービスの利用が拡大しないのだろうか。
図2はコネクテッドサービスを利用しない理由を示している。利用料金の高さが各国共通の要因として指摘されるほか、日本では「コネクテッド機能が装備されていることを認識していない/サービスが提供されていない」という理由の比率の高さが特徴的な点として挙げられる。中国ではこれがサービスを利用しない最大の理由であるが、無料トライアルを含め中国ではコネクテッドサービスの利用率が22年から3年間80%強の水準を維持している点で、消費者による認識自体が進まない日本とは根本的に状況が異なる。
無料トライアル体験後に有料のサブスクリプション(定額制)契約で継続する意思を確認すると、日本では「継続する」と回答した比率は47%で、韓国に次いで2番目の低さとなった。対して「継続しない」とした比率は約20%、また「未定」という回答は約33%となった。「継続しない」とした比率はほかの7カ国が10%未満の水準であることを考慮すると高い比率であり、日本では機能の認知度も上がらず、有料契約へつなげる動機付けもできていない現状となっている。
少子高齢化による課題解決への貢献に期待
日本以外の国を見ると、中国、インドはサービスの利用率が80%と高く、米国、英国、ドイツでも24年の利用率は50%から60%程度の水準に達しており、利用が拡大しつつある。成熟市場よりも新興市場で利用率が高くなる要因は、新興市場の消費者はこれまでの自動車保有経験が少ないため、従来重視されてきた自動車の基本性能とコネクテッドサービスなどの新技術を同列の要素として捉えやすいのに対し、成熟市場の消費者はこれまでの自動車保有体験から、自動車の基本性能をより重視する傾向があるためだと考えられる。
中国では無料トライアルから有料契約への移行を希望する比率が80%を超え、サービス利用者の75%から80%が利用体験に満足している。中国で好まれるコネクテッドサービスの機能は、一般的に移動中の娯楽機能と言われている。中国では特に都市部や長期休暇期間で頻発する交通渋滞で移動時間が長くなる傾向があり、快適に移動するための機能の選択を消費者が志向することには合理性がある。
また北中米では盗難防止などの安全・防犯機能へのニーズが高いと言われ、各国固有の社会状況に沿った機能が求められる傾向がある。
日本では高齢ドライバーの増加やドライバー不足など、少子高齢化による社会的な影響が既に自動車産業の周辺でも顕在化。コネクテッドサービスを安全性向上、物流の効率化など日本が直面している社会的課題への対策として確立できれば、今後、他国でも進行が予想される少子高齢化対策として日本が主導的な役割を果たすことも期待される。
未来のテクノロジーを見せる、人とくるまのテクノロジー展では、こうした日本の社会情勢に合わせたコネクテッドサービスの発表や、その普及を促す仕組みなどに注目したい。