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製薬産業
新しいモダリティーの実用化進む 新薬 最前線
新薬の実用化で、これまで治療が難しかった疾患に新たな選択肢が生まれる。希少疾患は治療が限られることが多くアンメットメディカルニーズ(未充足の医療ニーズ)が高い領域だ。新しいモダリティー(治療手段)の医薬品の実用化が進み、疾患や症状の原因に働きかける治療法が生まれつつある。製薬企業は革新的な医薬品で、患者への貢献を目指す。
遺伝子/筋機能改善・筋力低下防ぐ
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中外製薬のDMD治療薬「エレビジス」
中外製薬は2月、国内初となるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を対象とした遺伝子治療薬「エレビジス」を発売した。1回投与によりDMD治療を可能とした同剤は、3億円超という価格も注目された。遺伝子治療薬のような新たなモダリティーはこれまで治療が困難だった疾患に希望をもたらす。疾患の治療や進行の抑制などによる長期的な医療費の軽減など、多くのメリットが期待される。
エレビジスは、中外製薬の親会社であるスイス製薬大手ロシュが開発を手がけた遺伝子治療薬。2023年に米国で承認取得し、現在は日本を含め9カ国で承認されている。DMD患者において欠損している遺伝子の機能を補う配列を持った遺伝子を、アデノ随伴ウイルス(AAV)を介して患者に導入することで、筋機能の改善や筋力低下を防ぐ。
DMDとは、小児の早期から急速に進行する希少な遺伝性の筋疾患。10代で歩行できなくなり、現在でも生命予後は30代前後程度だという。歩行可能なDMDの4―7歳の男児を対象とした臨床試験では、エレビジスの投与した患者において、床から立ち上がるまでの時間や10メートルの歩行時間などで改善が見られた。
国立精神・神経医療研究センターの小牧宏文筋疾患センター長は「生活予後が改善していることは重要な結果」と強調する。現在エレビジスは条件付き承認となっており、長期的な効果や安全性の評価も重要となる。
再生医療/細胞増殖を促し機能回復
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サンバイオの細胞治療薬「アクーゴ」
国内で再生医療の社会実装が進む。再生医療の開発を手がけるサンバイオは5月、外傷性脳損傷(TBI)に伴う慢性期の運動まひの治療を対象とした細胞治療薬「アクーゴ(一般名、バンデフィテムセル)」を発売した。
TBIは、交通事故や転倒といった日常的な要因で起きる。手足のまひなどの「運動機能障害」といった障害を伴うこともあるが、受傷から半年を過ぎると有効な治療法がなくなるため、アンメットメディカルニーズが高かった。
サンバイオの森敬太社長は「受傷後6カ月以上の患者は、その後何年たっていても治療の対象。治療を諦めていた患者にこの薬をしっかり伝えたい」と説明する。アクーゴは、他家由来の間葉系幹細胞を培養、神経再生能力を高める遺伝子を導入して作製した再生医療等製品だ。脳の損傷部位の周辺に投与し、損傷した細胞の栄養となる因子や細胞増殖を促すことで、機能の回復を図る。
アクーゴの臨床試験において、実際に細胞を投与した群では、発症から10年以上たった患者でもまひの改善が見られた。臨床試験に携わった北海道大学医学研究院脳神経外科の川堀真人医師は患者の回復の度合いについて「イメージとしては、アクーゴの投与とリハビリによって、車いすをメインで使っていた人がつえで移動できるようになり、つえを使っていた人が階段を登れるようになる」と説明する。
再生医療の社会実装は、患者だけでなく介護や経済的な負担の軽減への期待も高い。世界的にも市場の成長が見込まれる中、日本は強みを発揮し、再生医療の領域で存在感を示す。
理解促進・適切な診療確立へ 疾患啓発
製薬企業の役割は、医薬品の開発や供給だけに留まらない。社会に向け、疾患への正しい理解を促すことも重要な責務だ。製薬企業は、疾患の理解促進やより適切な診療の確立に向け、産学官での連携に乗り出す。また進展する高齢化も大きな社会課題だ。製薬企業は、医薬品の実用化に加え、利便性の向上に取り組む。
肥満症/産学官協業で治療薬研究
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イーライリリーは産官学の共同研究協定を結んだ
日本イーライリリー(神戸市中央区、カーラ・アルカサル社長)は6月、国立健康危機管理研究機構(JIHS)と国立循環器病研究センターと共同で、肥満症対策の推進に向けた共同研究の協定を結んだ。大手製薬企業と国内トップクラスの研究機関がタッグを組み、肥満症の研究や診療、また教育や社会における理解促進に一体的に取り組む体制を構築する。
肥満症とは体格指数(BMI)が25以上の肥満とは明確に区別され、治療が必要な疾患を指す。肥満症はさまざまな疾患の発症や悪化の引き金となるリスクがあり、近年は医薬品による治療の重要性が注目される。虎の門病院(東京都港区)の門脇孝院長は、「肥満症の治療が十分行われていない状況で、血糖を下げたり血圧を下げるといった対症療法を行っても、問題が解決せずに医療費が増えるということにも注目すべき」と強調する。
共同研究では、肥満症治療薬の効果と影響を評価する実臨床の研究と、肥満症に関連する疾患の発症メカニズムの解明、循環器の老化や循環器疾患への影響を明らかにする病態の研究を実施する。肥満症治療による医療費増大への懸念も上がる中、研究では関連疾患の改善による医療費削減や患者のQOL(生活の質)向上といった長期的な効果にも目を向け、エビデンスを構築する。
世界では肥満症治療薬の実用化が進み、米イーライリリーの肥満症治療薬「ゼップバウンド(一般名、チルゼパチド)」やデンマークの製薬大手ノボノルディスクの「ウゴービ(同セマグルチド)」などが発売されている。イーライリリー米国本社のデイビッド・A・リックス最高経営責任者(CEO)は「サイエンスの知見も重要。産学官で協業し、肥満症対策にフルコミットする」と話す。疾患の関連や医療費への効果などを示し、肥満症治療薬の価値を示していく。
認知症/皮下注射製剤の使用拡大・承認取得へ
エーザイが米バイオジェンと共同開発した早期アルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ(一般名、レカネマブ)」は、同疾患の治療を大きく変えた医薬品だ。同薬は脳内に蓄積した「アミロイドベータ(Aβ)」を除去する。2023年に米国、さらに日本でも承認取得し、疾患の原因物質に作用する世界初の抗体医薬品として注目された。
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エーザイは皮下注射製剤「レケンビアイクリック」の実用化を進める
現在エーザイが進めるのは、皮下注射製剤(SC―AI)「レケンビアイクリック」の使用拡大と承認取得だ。レケンビアイクリックは約15秒で投与でき、在宅での治療も可能となる。約2時間かかる静脈投与と比べて、患者や家族、医療機関の負担軽減が期待される。
米国では7月、初期療法から皮下注射製剤による治療が可能となった。米国事業を統括する春名克哉氏は「(初期療法での承認取得は)市場拡大とシェア拡大が大きな眼目。アイクリックが徐々に静脈注射を超えるだろう」と強調する。日本や中国においても申請中で、皮下注射製剤が使用できる地域は今後増える見通しだ。
製薬企業は新薬を発売するだけではなく、いかに医薬品の価値を最大化するかに注力する。社会に広く疾患を知ってもらうことや医薬品の利便性を上ることで、適切な治療へとつながる。
