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カーボンニュートラルに貢献
インバーターによる省エネ効果
あらゆる産業を支える動力源であるモーターは、国内で約1億台が稼働していると言われている。日本の総消費電力の約55%がモーターによるものとされ、産業部門で見れば約75%にも上る。このため、モーターの高効率化と最適な制御を図ることで、大きな省エネと二酸化炭素(CO2)削減効果が期待できる。
日本では従来、モーターとインバーターを組み合わせた省エネドライブ技術を高めてきた。モーターは基本的に周波数によって回転数が決まり、一定の回転数で回り続ける。インバーターは電源とモーターの間に設置し、電気の周波数を変えてモーターの回転数を制御する。
使用環境により変速運転が必要な箇所など、モーターがそこまで回る必要のない時、インバーターで適正なレベルに出力制御することで、大きな省エネ効果を発揮する。例えば、ダンパーやバルブで機械的に制御していたファンやポンプの駆動にインバーター制御方式を採用し、モーターの回転速度に比例する風量や流量を調整すると、使用電力は回転数の3乗に比例して減少する。
モーターは必要な最大出力に応じて設置されるが、加えてインバーターを活用することで、多品種・少量、短期・大量、高付加価値・差別化といった変動する生産ニーズに対応した柔軟なエネルギー消費抑制も可能になる。
また、少ない電流でスムーズに加減速し、高頻度のスタート・ストップに対応できるため、クレーンや自動倉庫、食品機械などでも活躍する。近年、需要が旺盛な物流倉庫のコンベヤーでも、製品のスムーズな搬送をサポートしている。
日本電機工業会(JEMA)の2022年度「モータ・インバータに関するユーザ調査」報告書によると、モーターの台数に対するインバーターの装着率は約25%となっている。インバーターを既存設備に装着することで、より一層の省エネ化を図れる余地はまだまだある。
初期投資を抑えるためにインバーターは用いずに、電源のオン/オフだけでモーターを動かすニーズも依然として根強いが、長期間使用するとライフサイクルコスト全体では大半を電気料金が占める。このためインバーターによる運転や高効率なモーターの採用による経済的メリットも生まれる。
モーター制御で大きな効果
インバーターの技術革新
インバーターメーカーは使い勝手の向上や機能の充実を図っている。工具を使わずに配線できたり、モバイル端末から設定・メンテナンスができたりするようになった。制御盤レスや永久磁石同期(PM)モーター駆動なども実現している。ファンやポンプ、エレベーターなどの用途に特化した制御機能も内蔵する。
また、インバーター内部のスイッチング素子に炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスや窒化ガリウム(GaN)デバイスを採用したり、レアアースを使わない同期リラクタンスモーターやアモルファスモーターへ対応したりするなど、さらなる高効率化や省エネ化を目指す。
近年、モノづくりの現場では、IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)などを活用して全体最適を図るスマート工場化が進んでいる。インバーターはIoTに対応し、モーターやインバーター自体の運転状況をモニタリングできるため、予防保全に活用できる。
モーターの速度や電流といった稼働データを監視することで、設備の異常を把握する。今後は周辺装置まで含めた故障予知をインバーターによって行うことも可能になり、低コストで設備の稼働率向上を実現する。
インバーターは構成部品に電解コンデンサー、スイッチング素子、冷却用ファンなど消耗品が含まれており、一般的に寿命は10年と言われている。10年経過すると機能や性能に格段の差が生じることから、定期的に更新することが大切になる。
国際競争力・企業価値向上へ
モーターの高効率化
欧米をはじめ世界各国でモーターの効率規制が行われている。日本では2015年4月、省エネ製品の普及促進を目的とした「トップランナー制度」の対象に産業用モーターが加わり、モーターの効率レベルが「IE3(プレミアム効率)」に引き上げられた。
モーターの効率レベルは国際電気標準会議(IEC)で規定されており、標準効率がIE1、高効率がIE2、プレミアム効率がIE3となる。当時日本で普及しているモーターの9割超はIE1レベルと言われていたが、現在ではトップランナー規制対象の単一速度の三相誘導モーター(出力0・75キロ―375キロワット)では7割程度がIE3レベルに置き換わっている。規制対象外のモーターは5割以下に止まっており、高効率モーターに置き換えることによって省エネ化を図れる余地もまだある状態だ。
モーターメーカー各社はIE3よりも効率の高いIE4やIE5レベルの開発に取り組み、ラインアップを増やしてセットメーカー製品の高効率化・高付加価値化に貢献するモーターを提案している。IE5レベルの同期リラクタンスモーター、PMモーター、アモルファスモーターなども市場投入されており、省エネやカーボンニュートラルを追求するユーザーニーズに応える。
産業界では、これまでにさまざまな機械、装置、設備で高効率化を実現してきており、これ以上の大幅な省エネは難しいと言われてきた。50年のカーボンニュートラル実現に向けて、産業界にはこれまでの延長線上ではない“脱炭素イノベーション”が強く求められている。
世界基準の高効率モーターや省エネドライブの採用による、製造現場の大幅な省エネをカーボンニュートラル実現の足がかりにし、国際競争力の高い製品や企業価値向上につなげていきたい。
IIFES開催
最新のモーターやインバーターなどの駆動、制御、計測に関する機器・システム・ソリューションが集結する「IIFES2024」が、2024年1月31日から2月2日までの3日間、東京・有明の東京ビッグサイトで開かれる。主催は日本電機工業会、日本電気制御機器工業会、日本電気計測器工業会。
「MONODZUKURIで拓く、サステナブルな未来」をテーマに、製造業と社会インフラを支えるオートメーションと計測の先端技術をワンストップで披露する。
①サステナブル②イノベーション③DX―の三つのキーワードで多彩なセッションやセミナーを用意し、最新の事例紹介などを行う。オンライン展は1月31日から2月16日まで開催する。
アンケート実施中
現在、日本電機工業会(JEMA)では「サーボシステムの使用状況に関する調査」と「プログラマブルコントローラ及びプログラマブル表示器(タッチパネル)の使用状況調査」のウェブアンケートを実施している。サーボシステムとプログラマブルコントローラー(PLC)の使用動向などについて調査・分析し、今後の製品開発に役立てる。回答はサーボシステムが24年2月5日、PLCが2月16日までとなっている。