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北陸地区産業界
北陸地区は生産活動において一部持ち直しの動きがあるものの、人手不足や原材料高などの影響もあり依然として厳しい状況が続いている。そうした中、地域産業の維持・発展に向けて北陸の自治体や金融機関、公的支援機関などが一体となり事業承継や創業の促進、新たな企業の成長につながる支援を展開している。一方、北陸の製造業も顧客の生産性向上に役立つ機械の開発、ITを駆使した技能伝承、生産や物流における環境対応に力を入れる。さまざまな困難を乗り越え、新時代を切り開こうとする北陸地区産業界の取り組みを紹介する。
企業の成長支援積極化
連携、伴走で後押し
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石川県小松市は地域金融機関や経済団体など10団体と中小企業支援と地域活性化に関する連携協定を結んだ
北陸財務局は6日に発表した10月の管内経済情勢報告で、北陸3県の景気判断を「緩やかに持ち直している」として、7月の前回判断を据え置いた。主要項目のうち、生産活動を前回の「弱含んでいる」から「一進一退の状況にある」と上方修正した。金属加工機械は米国向け輸出の関税率が妥結し、ハイブリッド車(HV)向け投資が出てきたことなどで受注が上向いている。
明るい兆しが見える一方、北陸では長年続いてきた企業が経営者の高齢化や後継者不在で廃業を余儀なくされるケースが出ている。石川県小松市は地域金融機関、経済団体など10団体と中小企業支援と地域活性化に関する連携協定を結んだ。今後は関係機関との連携を通じ事業承継や創業の支援に取り組む。
同市との連携協定に加わる中小企業基盤整備機構は、売上高100億円超の成長を目指す「100億企業」に対して中長期にわたり伴走支援を実施する。伴走支援では、定期的な企業訪問や経営者などとの面談を通じ企業と成長に向けた課題を整理し、ハンズオン支援や海外展開支援など中小機構独自のソフト支援メニューを提案。また、複合的に組み合わせて支援を実施することで、企業の飛躍的な成長を強力に後押しする。
自動化システム、装置を提案
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キタムラ機械の小型同時5軸制御立型MC「メドセンター5AX」と自動パレット交換装置などを組み合わせた例
製造業では人手不足の対応や生産性向上につながる省力化、自動化のニーズが年々高まっている。北陸のメーカーでもユーザーのニーズをくみ取った技術や製品の開発が活発化している。
キタムラ機械(富山県高岡市)は、9月にドイツで開催した欧州国際工作機械見本市「EMOハノーバー2025」で小型同時5軸制御立型マシニングセンター(MC)「メドセンター5AX」と、後付けの自動パレット交換装置や自動工具交換装置の組み合わせをアピールした。
北村彰浩社長は「いきなり自動化システムを導入するのはハードルが高い」と捉え、ユニット化した自動化システムの後付けを前提にMCを設計。ユーザーが機械を使い慣れた上で自動化したくなった時には、すぐにユニットを追加できる。同社がコンセプトに掲げる「失敗しない自動化投資」を実現する。機械本体を入れ替えずに済むため、企業戦略として進めるサーキュラーエコノミー(循環経済)にも貢献できる。
タケダ機械は主力の形鋼加工機の省力化、自動化につながる周辺装置の開発を進めている。2026年春の試作機完成を目指して設計と同時並行でユーザーの要望を集めるとともに、試作品の実証試験の受け入れ先の選定に取り組んでいる。
鋼材などを切断・穴開けし、加工後に部材を取り出すための形鋼加工機用の周辺装置は制約が多く、設計が難しいという課題があった。だが、建築物に使われる鋼材を効率的に加工し、生産性を高めていくには周辺装置の存在が欠かせない。
そこで開発、製造・サービス、営業の部門の垣根を越えた社員が結集。23年に全社横断の「ことづくり(KTD)プロジェクト」が発足した。プロジェクトで決まった若手社員の周辺装置のアイデアが新たな需要を呼び起こそうとしている。
【インタビュー】 日本政策金融公庫 国民生活事業本部 北陸地区統轄 森田 達也 氏
2025年の北陸地区産業界は能登半島地震や奥能登豪雨災害からの復興が進む一方、米国の高関税施策などの影響を受け、先行きの不透明感に見舞われている。そういう状況でも災害からの復興や新事業参入に意欲的な中小企業や小規模事業者が出てきている。そのような企業を支援する役割を持つ日本政策金融公庫国民生活事業本部北陸地区統轄の森田達也氏に北陸地区の現状と展望、日本公庫の支援策を聞いた。
地元金融機関と情報提供
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日本政策金融公庫 国民生活事業本部 北陸地区統轄 森田 達也 氏
—北陸地区の産業をどう見ていますか。
「北陸はモノづくりの盛んな地域とみている。伝統産業で培われた技術力を持つニッチトップ企業も多い。地域内の交流を通じて技術力を高め、その技術力を外に向けてより広く発信していくことが大切だ」
—足元の景況感は。
「米国との関税率が決着し、企業は今後どうしていくかを考えている状況だ。直近の中小企業・小規模事業者の動向調査によると、業績持ち直しの動きに一服感がでてきている。原材料高、人手不足などの問題もあって先行き不透明感が強い。日本公庫は『人手不足対策ハンドブック』などの冊子を作成し、課題に取り組む企業への情報提供に努めている」
—能登半島地震や奥能登豪雨の被災企業や事業者への対応は。
「融資や返済の相談は落ち着いてきたが、復興復旧に向けて、被災地で『毎月公庫』の日を設けて企業の相談に応じるなど、継続的な融資支援に取り組んでいる。また『石川県応援カタログ』などで能登の商品を全国に紹介するなど情報面の支援にも力を入れている」
—地域経済を支える創業・スタートアップの支援も必要です。
「24年度の北陸での創業の融資実績は創業前と創業1年内の合計で600先、融資額は32億5900万円。創業前の融資先が前年度比12%減、創業1年内は同47%増だった。創業は新たな雇用を創出し、地域を活性化するうえで重要な役割を担っており、これからも積極的に支援していく。また、日本公庫では廃業を考えている事業者と創業を検討している人を無料でつなぐマッチング支援の『継ぐスタ』にも取り組んでいる」
—事業承継支援も欠かせません。
「経営者に事業承継への意識を持ってもらうため、金融機関など関係機関とも連携して情報提供していくことが大切だ。12月に富山、来年2月に金沢で、オープンネームの事業承継マッチングイベントを開催する。日本公庫152支店の支店網を生かして地域を越えた事業承継支援に取り組んでいきたい」
