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北海道産業特集(2024年9月)
GX・スタートアップらが成長けん引
北海道の経済産業構造が大変革のときを迎えている。次世代半導体開発拠点の立地が千歳市に決まって以降、道と札幌市を政府がグリーン・トランスフォーメーション(GX)を活用する「GX金融・資産運用特区」に指定、相次ぐ大規模データセンターの進出、そしてスタートアップの成長も著しい。まさに「日本の未来を描く北のフロンティア」とも呼べる広大な地で、地元企業も大きな一歩を踏み出す。
「GX金融・資産運用特区」指定で大変革 関連企業道内進出続々と
千歳市に進出を決めたラピダス(東京都千代田区、小池淳義社長)は、2025年秋に完成予定の新工場で世界初の2ナノメートル(ナノは10億分の1)世代半導体の量産化を目指す。これに伴い関連企業の進出が始まった。ソフトバンクは生成AI(人工知能)の普及をにらみ、苫小牧市に大規模データセンターの建設を決めた。将来的には敷地面積が国内最大級の70万平方メートル、受電容量300メガワットを超える規模になるという。
GXでも24年6月、北海道が国家戦略特区として政府に指定された。元々、再生可能エネルギーのポテンシャルが国内一と言われており、洋上風力発電、水素、蓄電池、海底直流送電網など多額のインフラ投資が見込まれる。これらすべてが連携し、半導体関連産業の集積を目指す「北海道バレー」(石狩から苫小牧までのエリア)構想の実現も期待されている。
次世代半導体、GX、再エネ、データセンターの計画はそれぞれ個別に進んでいるが、実は密接につながっている。北海道の大変革の具体像が徐々にその姿を表してきた。
多彩な潜在力 世界に発信 /北海道知事 鈴木 直道 氏
北海道では、国家プロジェクトである次世代半導体製造拠点の整備が、2025年春にパイロットラインの稼働、27年の量産製造開始に向けて着実に進むとともに、我が国随一の再生可能エネルギーのポテンシャルを生かした大規模AIデータセンターの立地などGX産業の集積が、今まさに進みつつあります。本年6月には北海道・札幌「GX金融・資産運用特区」が国に認められ、世界中からGXに関する資金・人材が集積するアジア・世界の「金融センター」を目指した取り組みが進められようとしています。
さらに、宇宙ビジネスの進展などに伴い、スタートアップやデジタル関連企業立地の動きも見られます。これまで本道経済をけん引してきた食や観光に加え、デジタルやエネルギーといった分野で優位性が増す北海道に、国内外から注目が集まっています。
地域経済活性化の原動力となるポテンシャルが、道内各地に存在している、このことが、北海道の最大の強みです。
北海道としては、本道の多彩な潜在力を世界に発信し、国内外から新たな産業や投資、人を呼び込むとともに、地域の強みや資源を最大限生かして、地域産業の裾野を拡大し、北海道の力が日本そして世界を変えていけるよう、挑戦を続けてまいります。
エア・ウォーター北海道 /オープンイノベーション推進施設 年内開業
「エア・ウォーターの森」開業が間近に迫っている。エア・ウォーター北海道(札幌市中央区、庫元達也社長)が道内の地域社会課題の解決につながる新事業の創出と研究開発、情報発信を目指し、同中央区内のJR桑園駅近くに建設中だ。
建物は地上4階建てで延べ床面積8444平方メートル。ウェルネス、オープンイノベーション、オフィスの各フロアを設定し、同社オフィスのほか大学の研究機関、スタートアップ企業なども入居する。道産木材をふんだんに使った木造建築なのも特徴の一つだ。
「一言でいえばオープンイノベーション推進施設。しかし、弊社だけが活動するのでは意味がない。当社の外の方と一緒に事業を議論し、プロジェクトが進められるような拠点」と庫元社長は話す。「いつでもこの場所で人が交流し、ここに来ればだれかと会えて、会話を楽しめる空間に」と開放感あふれるスペースづくりを強調。12月中旬までのオープンを予定している。
北海道ガス /再生可能エネ地産地消 取り組み加速
北海道ガスが再生可能エネルギーの利活用に向けた取り組みを道内で加速している。再エネの地産地消を目的に、浜中町では家畜ふん尿を原料にバイオメタンを製造する計画を進めるほか、苫前町では風力発電による電力を調達し、町内の公共施設へ供給していく。
浜中町での計画は地元自治体や農業協同組合、商船三井、タカナシ乳業など6者が連携する。酪農業が中心の同町で牛などのふん尿と有機物質からバイオメタンを回収。道内の工場や港湾に寄港する船舶のエネルギー源の一部、または全てを利用する場合の事業性評価を行う。
一方、苫前町とは連携協定を締結。苫前夕陽ヶ丘風力発電所からの電力を「FIP(フィードインプレミアム=再エネ市場価格に一定のプレミアムを乗せる)制度」を通じて北海道ガスが供給。同町内の公共施設からの二酸化炭素排出量を従来比55%削減できると見込む。これによりエネルギー地産地消モデルの拡充を牽引する。
カナモト /建機レンタルで成長 来月設立60年
1964年(昭39)、北海道室蘭市で創業したカナモトは当初、造船所向けの資材販売などで事業をスタート。数年のうちに建設機械の貸し出しが増え始めたという。現在の主力事業・建機レンタルの原点はそこにあった。
以降も建機レンタルは成長し、同時に拠点を苫小牧に設けるなどネットワークを広げ、79年に東北、83年には関東へと拡大した。道外への進出は事業拡大の一つではあったものの、官依存からの脱却を図る重要な戦略でもあった。北海道はいうまでもなく戦後から公共事業を軸とする官依存の体質が強く、これは今でも続いている。
91年に株式を公開。96年には本社を札幌に移転した。筋肉質で強い経営体質を志向し、今では北海道有数の東証プライム市場の上場企業となった。今年10月には節目となる設立60年を迎える。
内池建設 /「戦略倉庫」ブランド 浸透進む
内池建設(北海道室蘭市、内池秀敏社長)では、自社の看板ブランド「戦略倉庫」が関東や東北で好調に推移しており、道内でもラピダス進出に伴う倉庫兼事務所2件の受注を獲得した。内池社長は「2030年度決算で目標にしている全売上高100億円に近づいている」と話す。
戦略倉庫は建材や工法などを標準化し、コスト低減や工期短縮を図る「システム建築」がベース。設計から施工まで一貫で展開し、面積500平方メートル以上の建屋に特化するなど低コスト・短納期の実現へ標準化を徹底している。
24年度は埼玉県内で2件受注。東北でも福島県南相馬市、宮城県名取市などで施工しており、本州での好調を維持する。さらに次世代半導体工場進出でにぎわう千歳、苫小牧両地域でも大型倉庫を受注。「戦略倉庫」ブランドの浸透が進む。
電制コムテック /装着型の高照度光照射装置 需要拡大
電制コムテック(北海道江別市、田上寛社長)が開発したウエアラブル型の高照度光照射装置「ルーチェグラス」の需要が拡大している。キリンビールの工場従業員の健康維持や改善にも活用されるなど、全国的な広がりをみせている。
ルーチェグラスは室蘭工業大学と共同開発した。通常の眼鏡と同じように着用することで“模擬太陽光”を浴びることができ、乱れた睡眠リズムの改善につなげられる。冬季にうつ病になったり、概日リズム睡眠障害などを患ったりした場合の治療にも利用される。
キリンビールでは今年7月、神戸工場(神戸市北区)と岡山工場(岡山市東区)でこれを導入。昼夜3交代で働く従業員の不眠や勤務中の眠気など睡眠に関する課題を解決するのが目的で、睡眠とパフォーマンスの関係などについて学ぶセミナーも実施したという。
アミノアップ /シイタケ由来の食品原料引き合い増
道内企業の中でも異彩を放つのがアミノアップ(札幌市清田区、北舘健太郎社長)。シイタケの菌⽷体を独⾃の技術で⻑期間液体培養することでできる「AHCCⓇ」などを生産している。世界でも唯一無二の存在だ。
AHCCⓇにはαグルカンなどが含まれ、免疫細胞数や免疫活性の調整、感染防御、腸管免疫を助ける機能が期待できる。これを原料として調達した企業が機能性食品として生産、販売している。創業者の小砂憲一会長は「海外からの引き合いが増えている。すでに46カ国の企業などと取引しており、ここ数年で輸出は売上高全体の7割に達するだろう」とみている。
社内プロジェクトとして環境対策も強化しており、特に二酸化炭素(CO2)排出量の削減を加速。現時点で製造工程から出るCO2を対策前に比べ約7割削減している。