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関西の特選!優良企業2024 トップインタビュー
ミナミダ/アイセル/ユタニ
SIer事業を軌道に/挑戦の場設け、人材育成
―2024年度以降の目標は。
「ロボットと装置を組み合わせた自動化に関するシステムインテグレーター(SIer)の事業を23年7月から始めているが、24年度中に軌道に乗せたい。我々は主に自動車業界向けにシャフトやボルトなどの冷間鍛造部品の製造を手がけているが、日本の市場は縮小傾向にあり、他の分野の仕事に取り組まなければ生き残れない。普段、社内で扱わない板状の素材をつかむロボットの試作案件を素材大手企業から受注した。ロボットや装置などを含め500万円で、全体として中小製造業からの引き合いが多い。ノウハウがたまれば、自社工場の自動化にもつながる。SIer事業に関しては専用のウエブサイトを制作中。自動化のロボットや装置を置いたショールームを作り、外部にアピールしたい」
―他のSIer事業者と比べ自社の強みは何でしょう。
「他社と勝負できるのは価格。中国製の低価格ロボットを採用しコストを抑えた。また他社製のロボットを買ってくる点では他のSIerと同じだが、自社で作った周辺装置を組み合わせることで、顧客の要望に柔軟に対応できる。また顧客からの注文に対し設備納入までの期間を半分程度に縮められると思う」
―こうした新しい取り組みを支える人材の確保はいかがですか。
「21年からは入社までの半年間に内定者に将来の後輩となる社員に向けた会社紹介を作る研修を実施している。最初は紙のパンフレットだったが、23年度には紹介動画を作ってもらった。研修を通じ、入社前に会社の良いところと悪いところをよく見てもらい、入社後のギャップをなくし離職防止に努めている。会社紹介は新卒向けだが、思いもよらず中途採用者に刺さっているようだ。即戦力となる中途採用者も取り込みたい」
―人材育成の課題は何でしょう。
「人材は採用より育成のほうが難しい。経営者は挑戦する場を社員に提供することが重要だ。新しい取り組みを社員に任せるため、改善提案制度を実施している。何か取り組みを実施した際に『コストや作業工程を減らせた』などの結果を報告する仕組みを導入している。報告内容を点数化し対象者に報奨金を出す。こうした取り組みは会社の利益だけでなく、社員の技能や意欲の向上、給与アップにつながる。自分で成長しようとする社員を支援する企業文化を作り、社員が成長を実感できる会社にしたい」
社内業務の属人化解消/新事業に人材振り向け
―2023年の振り返りと24年以降の見通しは。
「23年は半導体業界が好調で、ウエハーの搬送や切断など後工程の装置に使われるユニットを供給した。中国や韓国などの海外半導体装置メーカーからの引き合いが増えており、この分野に関しては引き続き24年も伸びていくと思う」
―社内改革を進めていますね。
「コロナ禍では、デジタル変革(DX)を進めてきた。23年1月から『その人でなければできない』といった社内の仕事の属人化をなくす取り組みを始めている。そのための標準化マニュアル『アイセルスタンダード』を作成中だ。コピーの取り方やお茶の出し方などあらゆる業務を書き出し、外注することと社内でやるべきことを仕分けしている。すでに在庫管理や経理業務などは外注している。外注を増やせば固定費となる人件費を減らせるため、景気の動向で発注を調整しやすい」
「一方、社内でやるべき内容に関しては、作業の手順や担当者、見直しの時期などを決める。たとえ今日入社した人でも仕事ができる仕組みだ。仕事内容を数値化すれば自動化にもつなげられるだろう。業務効率化で生まれた余剰人材を新事業に振り向ける。またアイセルスタンダードを作りながら、自社の教育の標準を作り、人材育成の方法も模索していく」
―自社のブランド価値を上げる取り組みを進めています。
「メーカーとして売る力をつけなければならない。売る力として必要なのが企業のブランド力になる。企業ブランドを時代の変化に合わせ構築し直す『リブランディング』の取り組みを21年4月に始めた。自社のビジョンや商品のロゴマークを刷新し、米アップルやソニーのようにアイセルのブランド化を目指している。『アイセルのモノがほしい』と顧客に思ってもらうことが重要だ。他社と違うものを提供し『世界のアイセル』のブランドイメージを作っていきたい」
―ブランド力向上のための社内の取り組みは。
「23年4月から若手社員6人をエバンジェリスト(伝道師)に任命し、その社員らを中心に社内の先進的な取り組みを全社員に広げている。エバンジェリストが中心になり、企業の行動指針やスローガンなどを実際の行動に落とし込むため議論してもらう。写真コンテストなど社員参加型イベントの企画や実施などを通し、社員がときめくような取り組みを進めたい」
製造業の省人化を加速/ロボで顧客要望に対応
―サプライチェーン(部品供給網)や在庫を見直していますね。
「我々はコイル材の自動化搬送装置『コイルライン』とその周辺機器を製造している。インバーターなど必要な部材が仕入れにくい状況が続いているが、それに耐えられる企業体質を作らなければならない。顧客が望む装置を作るには調達方法や在庫の持ち方などを見直す必要がある。調達経路を新たに開拓し、既存の商社やタイ現地法人からの調達だけに頼らない仕組みを構築する。また装置製造に使う部品を共通化し種類を減らして在庫を最適化していく」
―ロボットによる製造業の省人化事業を本格化しました。
「2022年からロボットインテグレート事業を本格化した。マンパワーが足りない顧客に、多関節ロボットと装置を融合したライン設備を提案している。我々が得意なコイルラインに加え、ロボット導入で顧客の幅広い要望に応える。この2年間でエアコンメーカーなど1億円以上の大型案件3件を受注した。現状では顧客のライン設備の一部分の装置を受注していることが多いが、ワンストップでライン設備を一貫して受注できる体制にしたい」
―人材育成が重要な課題です。
「新卒の採用と教育を重要視し、新人だけではなく社員も共に育つ『共育』を掲げている。入社半年前から先輩社員が教育プログラムを作るなど、人材育成のマインドを醸成している。新入社員には1年間のオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を実施。外部研修には先輩社員が同行する。教える側の社員にも気付きを与える狙いがある」
―社員教育は顧客満足度向上にもつながります。
「入社2年目以降の社員が目標や取り組みをグループリーダーと話し合う面談を実施している。社員が自分の現状を把握し、方針を立て、上司が達成度を毎月確認する。我々の仕事は顧客を訪問し面談することから始まる。そこがうまくいかなければ良いモノづくりはできない。面談を通じ、顧客の生産ラインを止めないような改善活動や装置作りにつながっていくだろう」
―今後の目標は。
「コイルラインやプレス間搬送ラインのシステムインテグレーター(SIer)として存在感のある企業になりたい。また国内外の拠点整備や案件の大型化に対応できる人材を採用する。そのため社員が自分自身で立てた目標に挑戦し生き生きと働ける環境を整備していく」