-
業種・地域から探す
続きの記事
研削盤と研削加工
再現性から始まる研削加工デジタル化
【執筆者】ユナイテッドグラインディング マーケティングマネージャー 府内 房子
スチューダとユナイテッドグラインディンググループが描くデジタル生産環境
製造業におけるデジタル変革(DX)の進展に伴い、工作機械業界でも設備データを活用した生産性向上や品質改善への取り組みが加速している。切削加工分野では設備状態の監視やデータ解析が広く活用されつつある。一方、研削加工はデジタル化が難しい加工領域の一つと考えられてきた。
その理由は、研削加工が極めて高い精度を要求される加工だからである。砥石(といし)摩耗、熱変位、振動、クーラント条件など多くの要因が複雑に影響し合う中で、マイクロメートル単位の寸法精度や優れた表面品質を維持することが求められる。研削加工の品質維持は、熟練技能者の経験やノウハウに依存する部分が大きかった。
しかし近年は、センサー技術や制御技術の進歩によって、設備状態をリアルタイムで把握できるようになった。これにより、研削加工の分野でも見える化や予兆保全、生産最適化に向けた取り組みが進んでいる。こうした流れの中で注目されるのが、スチューダと、その母体であるユナイテッドグラインディンググループの取り組みである。
デジタル化の出発点は「再現性」
デジタル化というとIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)によるデータ活用に関心が集まりがちである。しかし、どれほど高度な分析技術を導入しても、取得されるデータそのものに信頼性がなければ意味のある結果を導き出すことはできない。
例えば、同じプログラム、同じ加工条件で加工しているにもかかわらず、加工結果が毎回異なる場合、そのデータから品質改善や生産効率改善につながる傾向を見いだすことは難しい。
工作機械の性能を語る際には、真円度や寸法精度といった数値が注目される。しかし製造現場において本当に重要なのは、一度だけ高精度を実現することではない。同じ品質を何度でも安定して再現することの方が重要である。
スチューダは1912年の創業以来100年以上にわたり、高精度円筒研削盤の開発を続けてきた。同社が追求してきたのは単なる高精度ではなく、同じ品質を長期間にわたり繰り返し再現できる機械づくりである。
再現性の高い設備では、加工品質のバラつきが抑えられるだけでなく、設備状態や加工条件との関係を把握しやすくなる。その結果として取得されるデータにも一貫性が生まれ、品質改善や設備改善のための有効な分析が可能となる。
現在注目されるAIやデータ解析も、信頼できるデータがあって初めて価値を持つ。そして、そのデータを支えているのが、スチューダが長年にわたり培ってきた機械技術なのである。
100年以上培われた機械技術がデジタル化を支える
同社の高い再現性は、単一の技術によって実現されているわけではない。機械構造、案内機構、駆動系、熱対策など、多くの技術の積み重ねによって支えられている。
代表的な技術の一つが、同社の多くの円筒研削盤に採用され、今年で50周年を迎えたミネラルキャスト製「グラニタン」(※1)機械ベッドである。同製品は優れた振動減衰特性と熱安定性を備え、研削時に発生する微細な振動や温度変化の影響を最小限に抑える役割を担っている。しかし、同社の強みは同製品だけではない。
研削盤の性能を左右する重要な要素が案内機構である。加工対象物(ワーク)や砥石を正確に移動させるためには、各軸が滑らかかつ高精度に移動する必要がある。同社では高精度ガイドウェイシステム「スチューダガイド」(※2)と、最適化された駆動技術を組み合わせることで、長期間にわたり安定した位置決め精度を実現している。
また、主軸、送り軸、機械構造部材の配置についても、熱変位の影響を最小化するための設計思想が徹底されている。ベッド内冷却設計を採用することで、機械暖機時間の短縮や長時間運転においても加工精度の変動を抑制している。
さらに、高精度主軸技術、機械全体の高剛性設計、最適化された制御技術なども組み合わさり、同社特有の高い加工安定性が実現されている。
こうした機械技術の蓄積こそが、同社の高い再現性を支える基盤となっている。
S23に受け継がれた同社のDNA
-
複合円筒研削盤「S23」
同社の技術思想を体現する代表的な機種の一つが複合円筒研削盤「S23」である。S23は中小サイズワークの外径・内径研削に対応し、単品加工から中量産まで幅広い生産形態をカバーする。自動車部品、油圧部品、精密機械部品などの加工に対応する。
S23は高いコストパフォーマンスを実現しながらも、同社が長年培ってきた技術を継承している。機械ベッドにはグラニタンを採用し、多彩な砥石台バリエーションも大きな特徴である。1度単位で自動旋回可能な砥石台や最大3枚の砥石搭載に対応し、円筒研削や内面研削だけでなく、ネジ研削まで1台に集約することができる。これにより工程集約と段取り時間の短縮に貢献する。
-
スマートジェットによる研削液供給最適化システム
さらに、研削液供給での省エネルギー化、研削液供給液量の見える化、プログラムで液量を制御可能にする「スマートジェット」(※3)に対応する。同システムは研削条件に応じて研削液を最適な位置へ供給し、加工の安定化と品質向上を実現する。
近年は多品種少量生産への対応や熟練技能者不足への対応が求められている。S23は高精度な加工性能に加え、操作性、自動化対応、デジタル化対応も重視して開発されている。単なる円筒研削盤ではなく、スマートマニュファクチャリング時代に適応した次世代研削盤として位置付けられている。
S23とC.O.R.E.が実現する次世代の研削加工
-
C.O.R.E.によるデジタル基盤と機械間連携のイメージ
S23の大きな特徴の一つが、ユナイテッドグラインディンググループが開発した、次世代デジタルプラットフォーム「C.O.R.E.(Customer Oriented REvolution)」である。C.O.R.E.は機械操作、通信機能、ネットワーク接続、データ管理を統合した共通基盤として開発された。
24インチのマルチタッチディスプレーはスマートフォンのような操作性を実現しており、オペレーターは機械状態や稼働状況を直感的に把握することができる。設備管理や保全情報の確認も容易となり、現場の業務効率向上に貢献する。
また、C.O.R.E.はソフトウエア更新やアプリケーション追加による機能拡張を前提として設計されており、設備導入後も継続的な進化が可能である。高い再現性によって得られる信頼性の高いデータを活用することで、生産性向上や品質改善につなげることができる。S23とC.O.R.E.の組み合わせは、デジタル化された次世代研削加工を支える重要な基盤となっている。
C.O.R.E.が示すユナイテッドグラインディンググループの強み
C.O.R.E.の大きな特徴は、スチューダだけでなくユナイテッドグラインディンググループ全体で展開される共通デジタルプラットフォームである点にある。
従来の工作機械ではメーカーや機種ごとに異なる操作体系やデータ環境を持つことが一般的であり、複数メーカーの設備を運用する現場ではオペレーター教育や設備管理の負担が課題となっていた。
C.O.R.E.では統一されたユーザーインターフェースと標準化されたアーキテクチャーを採用することで、操作性と接続性を両立している。これにより、オペレーターは設備ごとの違いを意識することなく運用できるほか、設備情報を共通環境で管理し、生産システム全体の最適化にも活用できる。
C.O.R.E.は単なる操作システムではなく、当グループが目指すスマートファクトリーを支えるデジタル基盤として位置付けられている。
オープンなデジタル環境への対応
当グループのデジタル化戦略は、グループ内の設備連携だけにとどまらない。実際の工場では、工作機械、測定機、自動化設備、生産管理システムなど、さまざまな設備やソフトウエアが混在している。そのためデジタル化を実現するためには、メーカーの枠を超えた接続性が不可欠となる。
こうした要求に応えるため、当グループでは「デジタル・インターフェース」を展開している。デジタル・インターフェースは工作機械を工場全体のデジタル環境へ接続するためのインターフェース群であり、OPC UAやumati(ウマティ)などの標準通信規格への対応を進めている。これにより製造実行システム(MES)や統合業務パッケージ(ERP)、生産管理システムとの連携が可能となり、設備情報を工場全体で活用できる環境を構築できる。C.O.R.E.が工作機械内部のデジタル基盤であるならば、デジタル・インターフェースは工場全体へ接続するための窓口と言える。統一されたプラットフォームとオープンな接続環境の両立が、当グループのデジタル戦略の大きな特徴となっている。
世界トップクラスのブランドが集結する意味
スチューダが当グループに属する価値は、単なる企業グループの一員であることではない。グループ内には、平面・プロファイル研削のスイス・メーゲレ、独ブローム、独ユング、円筒研削の独シャウト、独ミクロサ、スチューダ、工具加工の独ワルターやスイス・エワーグ、積層造形(AM)のスイス・IRPDなど、それぞれの分野を代表するブランドが集結している。
各ブランドは自動車、航空宇宙、医療、工具製造など異なる市場で事業を展開しており、そこで培われた加工技術やアプリケーションノウハウは極めて多様である。
当グループの強みは、それらを単に保有していることではなく、グループ全体で共有し、新たな技術開発やソリューションへ結び付けている点にある。
特にデジタル化の分野では、その効果が大きい。各ブランドが世界中の生産現場で蓄積してきた知見や課題を共通プラットフォームであるC.O.R.E.へ反映できるため、継続的な進化が可能となる。
つまりユーザーは、一台の工作機械を導入しているように見えて、その背後ではグループ全体の技術力、開発力、アプリケーションノウハウの恩恵を受けているのである。
再現性とデジタルが開く未来
デジタル化の時代に求められるのは、単に設備をネットワークで接続することではない。まず必要なのは、信頼できる加工データを生み出す高い再現性である。そして、そのデータを活用するための共通デジタル基盤と、工場全体をつなぐ接続環境が必要となる。
スチューダは長年にわたり高精度と再現性を追求してきた。その技術はS23にも受け継がれ、安定した品質と信頼性の高いデータを生み出している。
一方、当グループは、C.O.R.E.を中心とした共通デジタルプラットフォーム、デジタル・インターフェースによるオープンな接続性、そしてグループ各社の技術資産を結集することで、スマートマニュファクチャリング時代に対応した新たな価値を提供している。
高い再現性を生み出すスチューダの機械技術と、当グループの総合力によるデジタル戦略。その融合こそが、これからの研削加工のデジタル化を支える大きな原動力となっている。
(※1)グラニタン
スチューダが1970年代から開発・採用している独自配合のミネラルキャスト製機械ベッド。一般的な人工花崗岩とは異なり、材料配合や製造工程に関する独自ノウハウが盛り込まれており、高い振動減衰性能と熱安定性を実現する。
(※2)スチューダガイド
スチューダが独自開発した高精度ガイドシステム。グラニタンベッドと組み合わせることで、長期にわたる高精度加工を支える重要な技術となっている。
(※3)スマートジェット
スチューダ独自のクーラント供給システム。冷却液の流量や圧力を最適に制御することで、加工品質の安定化、省エネルギー化、段取り時間短縮に貢献する。
