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大型化・機上計測・サステナブルニーズに対応する研削盤―岡本工作機械製作所
世界でガソリン車の新車販売を禁止する流れが加速し、ハイブリッド車(HV)・電気自動車(EV)へのシフトが加速する中、高効率モーター用コア、車載用二次電池の需要が増加し、モーター金型、電池用セパレーターのスロットダイは大型化・高平面度精度が要求される。その背景には自動車の軽量化、プレススピードの高速化、金型の組み立て・調整時間の大幅な短縮などの生産性向上、コストダウンがある。今回は大型化ニーズに加え生産性向上、スキルレス化、自動化のニーズに対応する機上計測、さらにサステナブル化に対応する研削盤について紹介する。
大型高精度部品研削のコラム形精密平面研削盤「PSG CA―iQ」シリーズ
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写真1 コラム形精密平面研削盤PSG126CA-iQ
市場に多くの納入実績がある加工サイズ1200ミリ×600ミリメートル、1200ミリ×700ミリメートル(左右×前後)の前後砥石軸移動方式のコラム形精密平面研削盤を、構造から再設計した「PSG126/127CA―iQ(写真1)」を「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」で初展示した。加工サイズ1500ミリ×600ミリメートル、1500ミリ×700ミリメートルの「PSG156/157CA―iQ」と左右サイズごとにラインアップを展開した。フルモデルチェンジの開発コンセプトごとに紹介する。
【1―1】高剛性の機械構造
従来の前後砥石軸移動方式コラム形の摺動面は、研削点より遠い位置に設けていた。新モデルでは研削点に近づけ摺動真直精度、熱変位による影響を最小限にし、砥石軸が沈み込むロングスライドのコラム構造、長時間精度を安定させる左右テーブルをオーバーハングレス構造とするとともに、3次元(3D)モデル構造解析による最適化鋳物構造によって高剛性の機械構造を実現した。
【1―2】欧州メーカーに対応する高能率仕様
高剛性の機械構造は、欧州研削盤メーカーの砥石軸モーターに対応する高容量15キロワットを標準採用することが可能となった。これは、当社従来機の2倍の高容量であり、オプションで22キロワットまで対応できる。砥石幅も100ミリメートルまで搭載可能となり、クリープフィード研削やサイクルタイムを大幅短縮できる高能率研削加工を実現する。
【1―3】サステナブル社会に向けた油圧レス駆動
油圧レス駆動の廃油削減の環境配慮設計として、テーブル左右駆動を油圧シリンダー方式からボールねじ+サーボモーター駆動方式の電動化を採用した。また、高能率研削加工に対応するため、テーブル左右の最大速度は毎分40を標準仕様とした。
【1―4】機電一体型による省スペース化
制御盤を機械と一体型とし、据え付け時間を短縮。また潤滑タンク、注水装置を含め省スペース化を図った。
【1―5】オペレーター目線での操作性を重視した設計
大型サイズの加工対象物(ワーク)は、機械の寄り付き性、操作性、段取り性が重視される。重量物作業は、クレーン作業のため、チャック高さをオペレーター目線の高さにした。ワークの確認と操作盤入力の往復作業も想定されるため、本機では自走式の操作盤と座標付きの可搬式手動パルスハンドルを採用することでストレスなく研削作業を行うことを可能にした。
当社独自の画面から文字を排除した「文字レス」、データ入力を簡素化し、研削・ドレス条件を自動設定可能な「スキルレス」を特徴とする世界標準iQ(Intelligence Quotient)ソフトウエアを標準搭載している。外国籍の従業員でも使用可能で、採用の幅が広がったと好評を得ている。また15インチの大型タッチパネルを採用した。
【1―6】安全面、工場環境に配慮したカバーデザイン
新開発の研削盤は、安全面、工場環境に配慮した半閉カバーを標準採用し、本機からカバーデザインを一新した。カバーと砥石ガードのデザインに当社のコーポレートカラーの赤色を取り入れ、カバー左に配置した赤い帯にOKAMOTOロゴが大きく目立つデザインを採用した。OKAMOTOロゴは、発光ダイオード(LED)で点灯させ、オプションで3色信号灯に連動して点灯させることができる。このデザインは、先月発表された日刊工業新聞社「第53回機械工業デザイン賞IDEA」の審査委員会特別賞を受賞した。
機上計測で精密平面研削盤を測定機として活用
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写真2 機上計測タッチプローブ -
図1 3D機上計測ソフト「OKAMOTO NCゲージ」画面 -
写真3 穴径・穴位置測定 -
図2 MAP研削の可視化 -
図3 MAP研削の流れ
機上計測はタッチプローブ(写真2)を砥石上下軸に搭載し、機上にて定位置・任意位置(ティーチング)、形状寸法が計測できる。ワークへの砥石のゼロ点合わせ作業の自動化、機外測定時間の短縮、補正研削を行うことで作業時間の短縮が可能となる。また、X・Y・Z軸の3軸数値制御(NC)の精密平面研削盤「PSG―CA―iQ」は、定位置・任意位置でのマルチポジション自動計測ができる。
さらに超精密平面研削盤「UPG―CALi」シリーズ、超精密門形平面研削盤「UPG―CHLi」シリーズは、テーブル左右が高精度な真直運動の静圧摺動面と正確な位置決めを可能とするリニアモーター駆動により、精密な機上計測に対応でき、測定ソフトを搭載することで加工ワークのX方向、Y方向、Z方向の3D測定機として研削盤を活用することができる。3D測定機に搭載できない大型ワークに最も有効である。
【2―1】3D機上計測ソフト「OKAMOTO NCゲージ」
3D機上計測プログラム生成を簡易的にするため、3D機上計測ソフト「OKAMOTO NCゲージ」(図1)を開発した。計測したいコマンドを機上のワークを直感ティーチング操作することにより、計測プログラムが自動作成される。ワークのCADデータ取り込みや、複雑なマクロ作成が不要である。
研削後の平面度計測だけでなく、研削前加工のマシニングによる穴径や穴位置などの計測(写真3)が可能。計測結果から幾何公差を演算し、図面に指定された寸法公差、幾何公差の許容値内に入っているか判定させることができ、計測結果はCSV・PDFデータで報告する。①測定機への段取り不要②再加工の場合の段取り不要③測定結果を定量的に評価できる―などのメリットがある。
【2―2】計測と研削プログラムを自動生成する「MAP研削ソフト」
自動CAMソフト「MAP研削ソフト」を開発した。タッチプローブ機上計測機能で加工ワークを多点計測し、高さやウネリを等高線のようにマッピングすることで、ワーク上面形状の「見える化」(図2)を実現させ、高い部分や寸法が外れている部分から全自動で研削する。粗から中仕上げでは加工時間が短縮でき、最終仕上げでは超精密平面創成が可能となる。
MAP研削ソフトのMAPとは、Measuring highest point(加工開始点を認識)、Air―cut less(空研削削除)、Productivity(高能率研削)の頭文字であり、「高い部分を認識し、不要なエアカット(空研削)を無くす、高能率研削」と「チャック上のワーク形状を等高線トレースのように見える化」の意味がある。
従来の平面研削において、サブミクロン台のワーク凸凹形状を考慮した砥石と工作物は、わずかに離れた位置から研削切り込みを開始するために設定されるエアカットなどが研削加工の必要箇所以外の不要な動きとなる。機上計測技術と自動研削CAMソフトを組み合せた同システムによって、この空研削時間を省き、一番高い部分・箇所から研削が自動で開始できる。MAP研削の流れを図3に示す。
おわりに
金型、工作機械の摺動面など、大型部品には研削盤に求められる高い精度要求のほかに、ミーリング加工などの複合加工、タンデムテーブル仕様・パレット仕様による生産性向上などのニーズが高まってきている。研削盤のハードウエアは最適化設計によるさらなる進化とセンシング技術、ソフトウエア技術の融合を今後も提供していく所存である。
【執筆】
岡本工作機械製作所
吉田 裕