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歯車・歯車加工技術
3Dプリンターによるインボリュート平歯車の造形とその曲げ強度
【執筆】山形大学 工学部 機械システム工学科 准教授 大町 竜哉
歯車は一般に多品種少量生産される機械要素であり、時間的・経済的コストが比較的高いことが知られている。近年広く普及した3Dプリンターを用いれば、歯車を早く安く製造することが期待できる。一方で、歯車の強さを事前に知ることは重要である。ここでは、歯車の歯の曲げ強度に着目し、歯車の造形条件および強度の推定について、私たちの研究グループが取り組んだ事例を紹介する。
■試験歯車と積層条件
私たちは熱溶解積層(FDM)方式の3Dプリンターを用いて試験歯車を造形した。試験歯車はモジュール4ミリメートル、圧力角20度の標準平歯車であり、歯数18枚、歯幅20ミリメートルである。材料はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂とした。FDM方式の3Dプリンターを用いて製作される典型的な造形物は、シェルと呼ばれる外周部分とシェルの内部において、樹脂の充填経路が異なる。シェル部分は外周形状に合わせて樹脂が数層にわたって充填される。シェルの内部は六角形や三角形など一定の形状で樹脂が充填される。
造形物の積層条件パラメーターは造形対象や使用するプリンターに応じて異なることが多い。私たちもそれらの設定はトライアンドエラーで取り組むことが避けられなかった。
■曲げ試験の概要
次に、3Dプリント造形歯車の歯の曲げ試験について述べる。図1に示す試験治具に試験歯車を設置し、万能試験機によって加圧棒で試験歯に曲げ荷重を作用させる。樹脂製歯車は金属製歯車より弱いので、試験歯のみが確実に曲げ破損するよう、治具を工夫している。すなわち、曲げの反力を支持する支え歯は3枚とし、なおかつ支え歯を支持する治具の支持面は歯車と同じインボリュート曲線形状に加工し、支え歯を面で支持する。
試験荷重より試験歯車の歯元の曲げ応力を算出し、歯が折損した際の曲げ応力を試験歯車の曲げ強さとして試験結果を整理した。
■充填形状
試験歯車の曲げ強度と、シェル内部の充填形状の関係について調べた。図2に示す通り、線形状、六角形状、三角形状の3種類の充填形状の試験歯車をそれぞれ造形して歯の曲げ強度を比較した。
線形状で充填した歯車が曲げ強度が一番大きく、三角形状の試験歯車が一番小さかった。六角形状や三角形状では、歯面を形成するインボリュート曲線によって、一様形状を構成する辺が途切れる箇所がどうしても現れてしまう。これにより、線形状で充填した歯車に比べ、六角形状や三角形状で充填した歯車の曲げ強度が比較的弱くなってしまったと考えられる。
線形状の充填では、ラスター角度と呼ぶ一定の充填角度で内部を充填する。歯車では図3に示す通り、それぞれの歯の位置に応じて歯形形状に対する充填角度が異なってしまう。ラスター角度を固定して試験歯車を造形すると、歯の曲げ強度にバラつきが発生することは容易に想像できる。そこで、歯幅方向に積層する階層ごとにラスター角度を変化させて試験歯車を造形する。
ラスター角度45度とマイナス45度を交互に積層した試験歯車と、ラスター角度30度、マイナス60度、60度、マイナス30度、0度、90度の順に積層した試験歯車の曲げ強度を比較したところ、後者の方が歯の曲げ強度のバラつきは少なかった。
■曲げ強度の推定
積層階層ごとにラスター角度を変えた試験歯車は、その構造が複雑なため、シミュレーションなどで曲げ強度を推定することが難しい。そこで、複合したラスター角の造形物の強度を推定するため、特定のラスター角度を持つ引っ張り試験片を造形し、引っ張り試験を実施する。試験結果より、造形物のラスター角度と引っ張り強さの関係を整理し、これを3Dプリンター造形歯車の曲げ強度の推定に適用する。
引っ張り試験片は単一のラスター角度0度、90度に加えて、複合したラスター角度プラスマイナス30度・プラスマイナス45度・プラスマイナス60度と、30度・マイナス60度・60度・マイナス30度・0度、マイナス90度を順番に積層した混合積層を造形した。図4に試験結果と強度予測を示す。横軸はラスター角度、縦軸は引っ張り強さを示す。白丸のプロットは各試験片の引っ張り強さ、黒四角は各ラスター角度に対応する試験結果の平均値、実線は混合積層の試験結果を示す。
図4には3本の曲線が描かれているが、下方の破線で示した曲線は、異方性材料の破損則によく用いられるサイ・ヒル則を用いて0度と90度の試験結果の間を曲線補間したものである。上方の点線で示した曲線は、同じく0度と90度の試験結果の間をベクター比と呼ぶ方法で三角関数補間したものである。一点鎖線で示したサイ・ヒル則とベクター比の平均曲線は、複合したラスター角度の引っ張り試験結果とよく一致しており、これを歯車の曲げ強度の推定に利用することとした。
図5に歯車の推定した曲げ強度と混合積層で造形した試験歯車の曲げ試験の結果を示す。細い一点鎖線は推定した曲げ強度である。実線でつないだプロットは曲げ試験の結果である。図中の各放射線に割り振った位相番号は歯の番号を示している。歯車の対称性から対面の位置にある歯は同じ強度であるとし、曲げ試験は半分の歯についてのみ実施し、試験結果の値を対面側の歯に破線で示している。試験結果と推定値はおよそ一致しており、ABS樹脂を用いて造形した3Dプリント歯車の曲げ強度が推定できることが示された。
■おわりに
本研究に参加した修士修了生の鈴木広大君(2020年)、川井康平君(23年)、早川侑君(24年)、ならびに卒業生の松田俊哉君(20年)、加藤雅俊君(21年)、渡邉一輝君(22年)、押切温希君(24年)に厚く感謝申し上げる。
