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第52回 環境賞
第52回「環境賞」(国立環境研究所・日刊工業新聞社共催、環境省後援)の贈賞式が6月3日に都内で開かれ、環境大臣賞をはじめ、4件が受賞の栄誉に輝いた。いずれの技術も長年にわたり試行錯誤を重ねた成果で、受賞者はこれまでの努力が報われ、感慨無量の表情を見せた。
受賞者紹介
【環境大臣賞】CO2削減に貢献する常温洗浄剤 / 花王、アイシン
花王とアイシンは、自動車部品製造プロセスでの環境負荷低減を実現するため「常温で洗浄できる高い洗浄力」、「熱風が不要な高い乾燥性」、「防錆処理不要な高い防錆効果」の三つの機能を一剤で実現できる洗浄剤を共同開発した。花王は長年培った界面化学の研究からこれら機能に有効な洗浄剤処方設計、アイシンは開発段階での実証試験を行い、検証サイクルを回すことで最終的に常温洗浄・常温乾燥が可能な新規洗浄剤の開発に成功した。
同洗浄剤を用いた常温洗浄プロセスにおいて洗浄性、乾燥性ともに加温洗浄時と同等以上の品質を確認し、防錆性については防錆処理レスでも錆を抑制できる事を確認した。これにより洗浄機1台当たり年間平均24トンのCO2削減および防錆資材の削減が可能になった。この洗浄に使用する電力、蒸気のエネルギー使用量の低減により、環境負荷の低減とコスト削減を達成している。同製品は洗浄剤の切り替えのみで常温化が可能であり、特別な装置が不要であることも特徴の一つ。
現在は順次適用を進め、2024年度末現在、アイシンの洗浄機90台程度に適用し常温洗浄化を実施しており、年間約2100トンのCO2排出量削減に貢献した。また、その他自動車部品メーカーへの展開も開始しており、全体として約210台の適用と年間約5000トンのCO2排出量削減に貢献している。
自動車業界は、50年までにカーボンニュートラルを達成するため、CO2排出量の削減に全力で取り組んでいる。花王は同洗浄剤を自動車部品用途だけでなく産業用洗浄剤全体に波及させることで、さらなる環境負荷低減へ貢献していく方針。
【優秀賞】建設副産物巡回回収システム /大成建設、日本通運
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環境配慮トラックCEV
建設現場から排出される廃棄物は多種多様で、混合廃棄物になりやすく、汚れの付着や選別の困難さがマテリアルリサイクルの阻害要因となっている。大成建設と日本通運は、この問題を解決するため、複数現場を同一車両で巡回回収し、積替拠点で積み替えを行い、品目ごとの再資源化施設にまとめて二次輸送できる巡回回収システムを構築した。
2017年から不燃系の建材端材を対象品目とし、メーカーが製品原料等に再資源化する「広域認定制度」を利用した建材端材のサーキュラーエコノミーを実現。23年度からは日本通運との協業展開により、同業ゼネコン他社が参画し、再資源化量の拡大と荷量確保による安定運用体制を確立した。
運搬の効率化を図るため、前面が開閉できる統一分別容器「NRBOX」を採用している。「NRBOX」は、建材端材を横から差し込みやすく、フレコンバッグ利用時と比較して約2倍の積載量を確保することができる。またグラスウールは圧縮機を使用することで減容し、運搬効率が約4倍に向上した。二次運搬では、車両の大型化による積載効率向上やメーカー製品を配送した車両の復路便を活用して空車回送を削減し、動・静脈物流連携も推進することで、巡回回収の効率化と合わせ、最大で約60%のCO2排出量の削減を実現した。さらに、巡回回収の運搬車両のCO2排出量を低減するためEV(電気)やFCEV(燃料電池)などの環境配慮型トラックの導入も進めており、運用全体の約10%で稼働している。
今後はより多くの企業が参画することで資源循環量と、CO2削減効果が拡大することが期待される。
【優良賞】ZEB設計ビジネスへの取り組み /竹中工務店
脱炭素化に向けた動きが加速している中、国内全体のCO2排出量の30%超を占める建物分野での対策が求められており、ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)が注目されている。しかし国内のZEB認証件数は非住宅建築物全体の1・3%程度で、ZEBが普及しているとは言い難い。ZEBの普及には効率的で誰もが適用可能なZEB設計手順を確立することと、簡易に素早くかつ網羅的に環境性能を検討でき、また実運用条件を模擬したエネルギー消費量を予測できるツールが必要であると考えた。
竹中工務店はZEBの設計ノウハウを体系的にまとめた「ZEB設計ガイドライン」と、ZEB設計ツール「ZEBIA(ゼビア)」を開発した。ZEB設計ガイドラインは設計フェーズに合わせた検討事項やZEBIAの使用方針を示した手引書であり、ZEBIAは建物のデザインと並行して設計初期段階からエネルギー消費量や快適性を検証するツール。加えて開発した技術を全社で活用する体制を整備した。
新たに開発したガイドラインは、設計初期段階からエネルギー消費量や快適性等の目標を設定し検討・改善する手法を示し、ZEBIAは設計初期段階の大まかなデザインでそれらを定量的に評価できる。この組み合わせにより、設計初期段階からデザインと同時にZEB達成度合いを検証することができ、従来と比較して手戻り作業を減らすだけでなく、初期段階でのみ採用可能な効果の大きい大幅なデザイン変更の検討もできる。労力を抑えつつZEB設計をすることが可能となった。今後、同技術をプロジェクトに適用し、ZEBを普及することで脱炭素化に貢献していく。
【優良賞】排水由来の廃棄物を低減するエマルション破壊分離装置 / 中部電力ミライズ、関西オートメ機器
中部電力ミライズと関西オートメ機器は、排水に含まれるエマルションを効率的に分離(解乳化)する装置「EBS(エマルションブレイクシステム)」を開発した。同装置はエマルションを機械力のみで解乳化を行う、従来とは全く異なる技術を利用したエマルションブレイク装置。含油排水に対して利用することで、廃棄物低減、排水品質の安定化、コストダウンなど、さまざまなメリットを得ることができる。
同装置はマイクロバブル発生技術を応用し、エマルションを含む排液を高速で旋回させ、装置出口部で排水に対し強力なせん断力を与えることで、エマルションブレイクを行い、油滴と乳化剤に分離する。それと同時に、マイクロバブルを発生させることで、分離した油滴を捕集し、マイクロバブルが持つ浮力で浮上、分離を実現した。またエマルションブレイク作用を最大限発揮するため、流体シミュレーションを活用し、装置の最適化を図っている。
同装置は小型かつ投込式で配管工事も不要。排水処理場の既設、新設を問わず利用できる。流量調整槽に設置することで、流入排水に含まれるエマルションを効率的に浮上分離し続ける。これにより後段へ流出するエマルション量が大幅に減少し、油分起因の廃棄物量の低減とともに、設備の安定稼働にもつながる。またエマルションブレイクにより浮上した油分は、高品質の油分として回収することもできる。
1台当たり年間数トン-数十トン程度の廃棄物低減が期待でき、コスト削減、排水品質の向上、清掃作業の低減などのメリットも得られる。使用エネルギーは、電力、エアー合わせて1キロワット未満で、ランニングコスト負担も小さい。