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第52回 環境賞
第52回「環境賞」(国立環境研究所・日刊工業新聞社共催、環境省後援)の贈賞式が6月3日に都内で開かれ、環境大臣賞をはじめ、4件が受賞の栄誉に輝いた。いずれの技術も長年にわたり試行錯誤を重ねた成果で、受賞者はこれまでの努力が報われ、感慨無量の表情を見せた。
環境保全、技術開発の高みに挑戦
渡辺知保審査委員長(長崎大学大学院プラネタリーヘルス学環教授)は「環境問題は人類存続の危機につながりかねないような事象が多い。皆さまの技術がいろいろな形で環境問題の解決に結びついていけば」と総括。「昨年に引き続き本年も非常にたくさんの応募をいただき、皆さんの努力に勇気付けられた」と続けた。今後も「ハードとソフトを組み合わせた新しい提案がどんどん出てくることを期待している」と力を込めた。
木本昌秀国環研理事長は「環境賞は創設以来、半世紀を超える年月を積み重ね、環境に対する社会的関心を高めるのに貢献してきた」としつつ、「各技術は独自の着想で開発され、環境問題の解決に資するものと確信している」とたたえた。
受賞者を代表して環境大臣賞に輝いた花王の北野一郎機能材料事業部長は「今後は海外展開も見据え、さらなる環境価値の創出を目指したい」と喜びを語った。受賞技術は自動車金属部品の洗浄や乾燥について、特殊界面活性剤により常温での洗浄・乾燥を可能にした。同洗浄剤で加温洗浄が不要となり、洗浄工程の二酸化炭素(CO2)排出削減などにつながる。北野氏は「今後も製造現場の環境負荷低減に貢献していきたい」と意気込みを述べた。
環境賞は環境保全や環境の質の向上に貢献し、時代の要請に応える優れた技術・製品開発や調査研究、実践活動などを表彰してきた。1974年に創設され、環境分野での顕彰制度として半世紀を超える歴史を持つ。
講評/審査委員長 渡辺 知保 氏
事業開始から半世紀を超えた本賞には、昨年度72件という近年にない多数の応募が寄せられたが、本年度も70件と多数の応募をいただいた。この中から書類審査、ヒアリングによる最終審査を経て、大臣賞1件、優秀賞1件、優良賞2件を選んだ。年々、環境問題も提案内容も多様化してきているが、技術による課題解決をめざすハード面での取り組みとともに、社会におけるシステム作りに重点をおいたソフト面での取り組みが複数受賞することになったのが本年度の特徴と言える。
環境大臣賞には、花王による提案「CO2削減に貢献する常温洗浄剤」を選んだ。従来、自動車金属部品の洗浄および洗浄後の乾燥工程を常温で実施した場合、洗浄不良、未乾燥による液付着などがあり、60度C程度の加温が必要とされてきた。本提案では、特殊界面活性剤の併用により常温での洗浄と乾燥が可能で、かつ長期使用に耐える洗浄液を開発した。この技術は、工程全体での温室効果ガス(GHG)の排出および水消費を節減し、環境負荷の低減に貢献する点が高く評価された。すでに自動車業界において実績を挙げており、今後の展開が期待される。
優秀賞には、大成建設ほか1社による「建設副産物巡回回収システム」が選ばれた。建設現場から大量に生ずる廃棄物の中には、リサイクルが可能なものが存在するが、混合物の形で出る廃棄物を実効性のあるリサイクルに結びつけるには多くのバリアーがあった。本提案は、複数現場を巡回回収し、積み替え拠点を設けるシステムの構築によってバリアーを克服し、物流会社と連携することにより業界内の他社の参画も得ている。参画社数を増やす展開にも積極的に取り組む姿勢が高く評価された。
優良賞には2件を選んだ。中部電力ミライズほか1社による「排水由来の廃棄物を低減するエマルション破壊分離装置」は、さまざまな工場排水に含まれ、排水処理工程における汚泥増加の原因となるエマルションを分離する装置を開発したもの。旋回剪断によるエマルション破壊と同時に細かい気泡を発生させ、破壊で生じた油滴に気泡を吸着させて、比重による高効率での分離を可能にした。凝集剤などを使用しないことも環境負荷の軽減につながる。これからの伸びが期待される段階だが、既存設備にも導入しやすい点も評価された。
竹中工務店の「ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)設計ビジネスへの取り組み」はZEBの普及率が低いことの一因として、設計人材の不足を考え、人材養成のガイドラインとツールを開発したもの。これをオープンな資源とし、広く業界内での普及と標準化を図ろうというスタンスが評価された。
例年のことであるが、受賞には届かなかったが高い評価を得た提案や将来性が期待される提案が複数あった。今回受賞を逃した提案についても、実績や改良を重ねて再びチャレンジしていただきたい。最後に、応募していただいた全ての企業・団体の皆さんに感謝申し上げる。
ごあいさつ/国立研究開発法人 国立環境研究所 理事長 木本 昌秀
第52回環境賞を受賞された皆さま、このたびは誠におめでとうございます。環境大臣賞に輝いた「CO2削減に貢献する常温洗浄剤」をはじめ、優秀賞や優良賞を受賞された取り組みについては、いずれも関係者が独自の着想を活かして継続的に取り組み、創出されたものであると考えています。
国立環境研究所は、幅広い環境研究に学際的かつ総合的に取り組む研究所であり、1974年の発足後、すでに50年を迎えておりますが、これまでさまざまな環境問題に対応した研究活動などを通じて科学的知見を創出・提供して参りました。
昨今の環境問題を解決するにあたっては、脱炭素のみならず、循環経済、生物多様性のネイチャーポジティブ経済の統合的な実現といった、広範囲な環境分野における具体的な変革が求められています。
国の環境基本計画においても、環境・経済・社会の課題を統合的に解決するような横断的な戦略がより重要視されており、官民が連携した大胆な取り組みを展開することが必要とされています。そのような中、この環境賞がわが国と世界の環境保全活動の更なる発展に寄与するきっかけになることを期待するとともに、私たち国立環境研究所においても環境研究の推進や社会との橋渡しに努め、持続可能な社会づくりに皆さまと手を携えて取り組んで参りますことを申し上げ、私からのごあいさつといたします。
ごあいさつ/日刊工業新聞社 社長 井水 治博
第52回「環境賞」を受賞された皆さま、誠におめでとうございます。本年度は、製造現場で広く使用されている技術の革新を図り、工程全体での温室効果ガス(GHG)の排出削減および水消費の節減など環境負荷を低減する技術や、建設現場から出る廃棄物の巡回回収システム、将来を見据えたZEB設計の普及を図る取り組みなど、いずれも循環型社会の形成や脱炭素社会につながる次代の潮流を見事に捉えた技術や製品など70件の応募がありました。
本賞は公害問題への対策が急務だった1974年(昭和49年)に創設され、以来、国内外の環境問題と歩みを一つにして参りました。おかげさまで、今日、数ある環境分野の顕彰制度の中でも、歴史と権威を兼ね備えた賞として産業界や大学などから高い評価を得ています。
政府は2050年までにGHGの排出を実質ゼロにすると宣言しました。気候変動サミットでも30年度のGHG削減目標を13年度比46%削減することを目指し、さらに50%に向けて挑戦を続けると表明しました。日刊工業新聞社も、世界の主要報道機関で構成する「SDGsメディア・コンパクト」に加盟し、SDGsに関する世論喚起と事業活動を進めています。
日刊工業新聞社は本年度、創刊110周年を迎えます。引き続き、産業の総合情報機関として持続可能な社会の形成に資する情報発信に努めて参ります。
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第52回「環境賞」審査委員
【委員長】
長崎大学大学院プラネタリーヘルス学環教授 渡辺 知保
【委員】
環境省総合環境政策統括官 秦 康之
国立環境研究所理事長 木本 昌秀
高知工科大学名誉教授 筒井 康賢
山梨大学名誉教授 新藤 純子
東京都立産業技術研究センター名誉フェロー 長谷川 裕夫
東京工業大学名誉教授 本川 達雄
九州大学名誉教授 安河内 朗
電気通信大学教授 山本 佳世子
日刊工業新聞社日刊工業産業研究所所長 玄蕃 由美子
【専門審査委員】
環境省環境研究技術室長 奥村 暢夫
国立環境研究所企画部長 東 利博
(2025年3月時点、順不同、敬称略)
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