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エンジニアリング産業
エンジニアリング専業
脱炭素-次世代燃料専用カギ
エンジニアリング専業各社は技術的な強みを生かし、2050年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)への対応を後押ししている。水素・アンモニアなど次世代燃料の実用化に向けた動きの継続に加え、液化天然ガス(LNG)の有用性の認識の拡大、国産の持続可能な航空燃料(SAF)実用化など、CNの実現に向けた動きも多様化している。各社の強みを生かし、市場の多様化に対応しつつ、将来的な脱炭素を後押しする。
海外プロ リスク管理難航
24年度のエンジニアリング業界は、外部環境が大きく変化する中で、プロジェクト遂行におけるリスク管理の難しさが浮き彫りになった。
日揮ホールディングス(HD)は24年度の業績にカナダLNG案件での追加費用を計上したほか、サウジアラビアでの二つの案件ではサブコントラクターの財務的困難、台湾ではLNGターミナル案件での一部建設用地引き渡し遅延などが業績悪化に響いた。これまで継続してきた海外での設計・調達・建設(EPC)事業の強化を25年度も実施し、「利益確保と実現可能性の高い案件、リソース配置、将来の糧を軸に取り組むべき案件を判断していく」(佐藤雅之社長兼会長)。
千代田化工建設は米国テキサス州のLNGプラント案件で、共同事業体(JV)のうちの1社が破綻して工事が停滞。過去の教訓をもとにリスク低減を図った中での打撃であり、改めてプロジェクトのリスク管理の難しさに直面した。再契約した第1系列に続き、残る第2、3系列の契約交渉を進めている。
5月8日に新中期経営計画を発表。太田光治社長は「持続可能な成長には収益の安定化と多様化が不可欠」とし、EPC事業に加えてパートナーリングを含めて事業共創分野にも注力する方針だ。
東洋エンジニアリングは持続的事業成長に向けて、EPC事業のリスク低減と収益向上を図る「EPC強靱(きょうじん)化」と、顧客・パートナーと構想段階から共創を図る「新技術・事業開拓」戦略を進めてきた。だが、ブラジルのガス火力発電案件などで採算悪化と顧客との追加交渉が発生し、24年度業績は下方修正となった。一方、尿素・メタノールのライセンス供与や地熱発電、浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)を受注しており、未来の成長に向けた歩みを着実に進んでいる。
国産SAF、国内初の量産始動
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サファイア スカイ エナジーの国産SAF製造プラント竣工式(堺市西区=2025年3月6日)
エンジニアリング業界では将来的に需要の減少が見込まれるオイル&ガス案件の一本足打法から脱却するために、脱炭素分野での事業開発を積極化する。その好例が日揮HDやコスモ石油、レボインターナショナルとの共同出資会社のサファイア スカイ エナジー(横浜市西区)が製造する国産SAFの供給だ。SAFは廃食油など植物由来の原料などをもとに生産され、航空機からの二酸化炭素(CO2)排出量削減に期待されている燃料だ。
25年度からコスモ石油堺製油所(堺市西区)の製造設備で生産した国産SAFの供給を始めた。国産SAFの大規模な供給は国内初で、国内の食用油を原料に生産される。同所内の製造設備の生産能力は年産3万キロリットルだ。
製造したSAFはコスモ石油マーケティングを通じて、日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)の国内大手航空会社に加え、独DHLエクスプレスや米デルタ航空など海外の航空会社とも相次いで契約を締結し、供給する予定だ。
今月1日には関西国際空港で旅客便に国産SAFを初供給した。今後の本格的な供給開始に向けて、サプライチェーン(供給網)が本格始動した。
事業共創-水素を商用生産
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千代田区化工建設とトヨタ自動車が大規模水電解システムを共同開発(水電解装置=イメージ)
千代田化工が新中期経営計画で五つの重点取り組みの一つに位置づけるのが、事業共創の拡充だ。この取り組みではEPCコントラクターとしての知見を核に、事業・技術の開発から創業まで広範囲で顧客との伴走に取り組む。
LNGや石油・石油化学案件の技術と知見を生かし、脱炭素や先端素材分野にも事業領域を拡充。エネルギー・素材分野での強みを、水素や低炭素燃料など脱炭素領域で展開する。脱炭素では「SPERA水素技術」と水電解装置の差別化技術をテコに、水素・炭素循環技術の早期実装への貢献を目指す。
同社は以前から事業共創に取り組んでおり、トヨタ自動車との水電解システム共同開発は好例といえる。トヨタの水電解セル・スタックの量産技術と千代田加工のプラント設計・建造技術を融合し、世界最小サイズのセル・スタックを多数並べた高効率システムの実現を目指す。27年度に水素の商用生産を開始することを計画している。
今後、既存EPC分野に加えて、事業共創やライフサイエンス分野の事業を拡大する事業ポートフォリオの多様化を図り、安定的に社会ニーズに対応できる体制を構築する。
地熱パーク構想
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東洋エンジニアリングは地熱案件に注力している
東洋エンジは非EPC分野であるライセンス事業の受注を獲得しており、磨いてきた技術力が生かされている。強みである尿素・メタノールのライセンス供与事業も順調に伸展。世界第3位の人口増加国・アンゴラで初めての日産4000トン規模の大粒尿素プラントへの尿素ライセンス供与を受注した。今後の継続的なリピートオーダーを目指す。
将来に向けて注力している新事業領域の一つが地熱案件だ。地熱は計画的に活用すれば、化石燃料のように枯渇するリスクがない点が利点だ。蒸気や熱水は再利用できるほか、発電に利用すればCO2排出量を抑制しつつ昼夜問わず安定的に発電できる再生可能エネルギーだ。同社は24年にインドネシア政府のエネルギー鉱物資源省とマスタープラン開発関連の覚書を締結するなど、事業化への動きを活発化させている。
地熱案件の事業化に向けた構想の一つが、「地熱カーボンニュートラルパーク構想」だ。地下や地上のさまざまな関連技術を組み合わせ、地熱フィールドの全体開発、最適化の実現に取り組む。