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エンジニアリング産業
ゼネコン
社会課題解決へ 新事業創出
ゼネコン大手はエンジニアリング事業で、社会的な課題の解決に向けた取り組みを強化している。中でも注目を集めているのが環境分野だ。大成建設は省エネルギーと創エネ技術の活用による生産施設のスマート化を推進。清水建設は有害物質を含む汚染土壌の浄化技術の開発に力を注いでいる。企画から設計、施工、保守まで総合的に手がけるゼネコンの強みを生かすことで、新たなビジネスチャンスの創出にも期待が高まっている。
工場、ゼロエネルギー化
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ZEF化の第1号プロジェクトとなった
「OKI本庄工場H1棟」(大成建設)
大成建設はエネルギー消費量が大きい工場など生産施設の「ゼロエネルギー」化を推し進めている。ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)と同様、空調や換気・照明設備のスマート化などによる省エネルギーと再生可能エネ導入による創エネを組み合わせ、年間の一次エネルギー収支をゼロにする取り組みだ。
同社は2014年5月に業界に先駆け「ZEB実証棟」を完成。現在まで運用段階における「ZEB」を達成しているほか、数多くの建築物の新築・改修にZEB技術を導入してきた。こうした流れをさらに加速するため現在、生産施設のZEB化に注力している。
「建築物省エネ法」に基づくZEB評価の対象範囲は従来、事務室や倉庫などに限られ、生産施設内の多くを占める生産エリアの空調、換気、照明設備などのエネルギー消費は評価の対象外。工場全体の一次エネルギー消費量を適正に評価するのは難しかった。
そこで21年に作成したのが、生産施設のエネルギー収支を評価する独自の指標「ネット・ゼロ・エネルギー・ファクトリー(ZEF)」。評価対象の範囲や設備を広げ、全体のエネルギー消費量を適正に評価できる仕組みとし、顧客への提案や普及促進に力を注いでいる。
ZEF化の第1号プロジェクトは、大成建設が設計や施工を手がけ、22年に竣工したOKI本庄工場H1棟(埼玉県本庄市)。設備の稼働状況に応じて照明や空調などの最適制御を行うシステム「T-Factory Next」の活用や、エネルギーデータの分析、太陽光パネルの増設などを行ってきた。
ZEF化実現に向けた取り組みは現在4年目。「造って終わりの従来の建設サイクルから脱却した現在進行形の新しいモデル」に位置付け、両社間の情報共有や定期的な打ち合わせも行い、運用改善に努めている。
PFAS 99%除去 汚染土壌
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米国でPFASの実汚染土壌を採取し実験を行っている(清水建設)
清水建設は「プラント」「土壌環境」「情報ソリューション」「新エネルギー」の4分野でエンジリアング事業に取り組んでいる。施設の計画や設計、施工に加えて、機器の選定や調達、施設の試運転、維持・管理まで一貫して手がけるのが特徴だ。
このうち土壌環境の分野で得意とするのが「土壌洗浄技術」。汚染物質を土壌の細粒分に集積させる分級手法と、水中の泡の表面に汚染粒子を付着させて分離・回収する泡沫(ほうまつ)分離法(フローテーション)を組み合わせた。洗浄処理土の浄化品質を最大限高められる。洗浄処理土の再利用が可能で、濃縮汚染土を大幅に減容化できることから、土壌処理コストの削減が見込める。
こうした技術を活用した汚染土壌の浄化で同社が着目しているのが、自然環境下で分解されにくいため環境や生体への残留性・蓄積性が問題視され、世界各国で規制の動きが広がっている有機フッ素化合物(PFAS)だ。PFAS汚染土壌の浄化ニーズの顕在化を見据え、21年度からPFAS除染技術の開発に先行して取り組んできた。
23年6月以降、米国のエンジニアリング企業ロスアラモス・テクニカル・アソシエイツとアマリロ・カレッジの協力のもと、テキサス州で浄化試験に着手。実汚染土壌を用いた室内浄化試験で、PFAS含有量の約99%を対象土壌から除去することに成功した。洗浄水に残存するPFASについても、同様に約99%の除去が可能なことを確認している。
洗浄技術の有効性を確認できたことを踏まえ、今後は米国内で小規模プラントを構築し、プラントスケールでの浄化試験によって処理性能の実証を進める。米国市場で処理実績を重ねた上で、将来は日本国内においてもPFAS汚染土壌の浄化事業の展開を検討していく考えだ。