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震災の記憶を風化させない
BCPからBCMへ、来たる巨大地震に備える企業の備えとは
【執筆】 ソナエルワークス 備え・防災アドバイザー 高荷 智也
東日本大震災から15年、未曽有の震災経験が時間の経過とともに記憶から記録へと置き換わりつつある昨今、我々は新たなる巨大地震への脅威へと直面している。2025年3月には南海トラフ巨大地震の、そして同年12月には首都直下地震の被害想定見直しが相次いで公表された。南海トラフ巨大地震では死者最大29万8000人、経済被害は292兆円。首都直下地震では死者最大1万8000人、経済被害は83兆円という、国難と言うべき甚大な被害が想定されている。こうした状況に対する企業の備えが、事業継続計画(BCP)の策定である。この実践的な要点を解説する。
BCPからBCMへの変化のポイント
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、企業単体だけではなくサプライチェーン(供給網)全体が被害を受け、被災地だけでなく広い範囲に大きな影響をもたらした。こうした状況をうけ、内閣府が発行している事業者向けの「事業継続ガイドライン」には「BCM」という概念が追加された。
BCMは日本語で「事業継続管理」と表現される概念だ。非常時における事業継続に必要な計画全般を意味するが、従来のBCPが主に「災害時の業務」の維持に焦点を当てていたのに対し、BCMではより広い準備全般をカバーする概念になっている。
従業員や顧客の生命を守る「防災」の要素、災害時に業務を継続するための「狭義のBCP」作成、非常時における資金繰りや保険の活用といった「リスクファイナンス」の要素、そして策定した計画を使える状態に維持する「訓練・保守」の要素などである。
リスク把握し命を守る防災
非常時における事業継続に必要な要素の全般、これをカバーする計画として、従来のBCPを超えた広い概念としてBCMという言葉が使われるようになっている。今回はこのBCMに不可欠な要素として、三つの重要ポイントを取り上げて深掘りする。
①リスクの把握
BCM策定の第一歩は、自社が直面する可能性のあるリスクをできる限り把握することである。例えば日本中どこにでも生じる「大地震」「暴風」「サイバー攻撃」などのリスクは、あらゆる企業においてBCMの前提となる。一方「津波」「洪水」「土砂災害」「噴火」など地形に依存する自然現象は、生じる場所と生じない場所が決まっている。こうしたリスクを、ハザードマップなどを用いて確認することが重要だ。
ハザードマップは事業所の所在地となる市区町村が作成したものを確認することが基本であるが、広い範囲の地図をまとめて確認する場合は、パソコンやスマートフォンのブラウザーで「重ねるハザードマップ」と検索すると表示される、国土交通省のウェブ版ハザードマップが便利だ。全国の地図上に複数のハザード情報をまとめて表示できる。
このようにリスクの想定を行うことで、備えるべき対象を明らかにし、防災・BCP策定の各論を検討することができる。
②命を守る防災
BCMにおける「防災」では、想定される自然災害などから、従業員や顧客の「生命」を守る対策を検討し実施する。具体的には大地震など突発的に生じる物理現象で即死しない対策と、水害など事前に発生が知らされる現象から逃げる準備が必要となる。
地球上で発生する大地震の1割以上が発生する地震国日本において、大地震は「いつでも・どこにでも」生じる脅威となる。直近100年間大きな地震が発生していない地域は「まだ来ていない」だけで、未来永劫の安全を意味しない。揺れてから行える対策はないため、事前対策が重要である。
最重要は建物を倒壊させない対策だ。事業所のある建物が1981年6月1日以前の建築確認で作られた「旧耐震基準」である場合、震度6強の揺れで建物が倒壊する可能性がある。建物の建て替え、耐震化改修、あるいは拠点の移転を検討したい。これ以降に認可を受けた「新耐震基準」の建物の場合は、室内対策などを優先するが、強い揺れが繰り返し生じると倒壊にいたる恐れもある。大地震の後に、建物の外見チェックなどを行う準備は必要だ。
室内対策は家具や什器の転倒・衝突・落下や、ガラス製品の飛散防災などが必要となる。大地震の揺れで人に被害をもたらしたり、出入り口や通路をふさいだりする恐れのある対象は、設置場所を変えるか、壁や床への直接固定を行いたい。また火災対策も重要となるため、必要な設備を導入した上で、定期的な訓練などの実施が必要となる。
建物が津波・水害・土砂災害などの影響を受ける場所にあり、フロアにとどまると命に危険が生じる場合は、避難計画が必要となる。避難場所と移動ルートの確認、避難開始のタイミングの検討などを行った上で、定期的に避難訓練を行うことが重要だ。防災担当者が不在のタイミングで災害が生じる可能性もあるため、命を守るための防災・避難行動などは、全ての従業員が自分の判断で行えるようにすることが重要である。
③狭義の事業継続
BCMにおける災害時の事業継続は、「狭義のBCP」作成という位置づけで作成をする。まず行うのは非常時に行う業務の取捨選択を行うことである。
平時の業務にはさまざまな経営資源を使用する。具体的には、人・建物・車両・資機材・情報などの内部経営資源と、インフラ・外注先・仕入先・顧客などの外部経営資源が挙げられる。非常時にはこれら経営資源と、時間の両方に制約がかかった状況で業務を行うことになる。この状況で普段通りの業務を行うことは難しいため、あらかじめ非常時に継続すべき業務と、一時的に止めても良い業務を選択しておき、備える対象とする経営資源をできるだけ絞り込むことが重要となる。
優先順位付け、守る範囲・事前準備絞る
具体的な対策の一つは、内部経営資源を守る防災だ。前述の「命を守る防災」では、業務の優先順位にかかわらず全ての従業員と顧客の命を守る対策が必要となるが、狭義のBCPにおける防災では、災害時に不可欠な経営資源に絞って対策を講じる。重要な設備に免震装置を導入して地震の揺れから守る、浸水が想定される状況で車両を逃がす計画をたてる、サイバー攻撃に対応するため情報セキュリティーを強化する、などが挙げられる。
もう一つは内部・外部の経営資源が、災害で失われることを前提とした再調達計画である。防災がうまく行けば、災害による被害をゼロにできる可能性もある。しかし防災が有効なのは内部経営資源のみで、外部経営資源を自社が守ることはできない。また防災は想定内の災害に対して効果を発揮するが、想定外の事態に対しては機能しない。被害を受けることを前提に、失われた経営資源をどこから再調達するのかという計画が重要になる。
建物に被害が生じた場合の代替拠点の確保、車両や資機材を最短で調達する計画、人員に被害が生じた場合の代替手段の検討。さらに外部経営資源に対しては、停電に備えた発電機や蓄電池の準備、仕入先や外注先の二重化、重要な原材料や部品の在庫を積み増す対策などが考えられる。
繰り返しになるが、これらの計画を全ての事業・業務に対して行うのは果てしなく、現実的ではない。全てを守ろうとするのではなく、優先順位を付けて守る範囲・事前準備を絞り込む、これがBCM策定のポイントと言える。
