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9月1日 防災の日
「防災の日」は、関東大震災が起きた日に由来し、毎年9月1日とされている。今から101年前の1923年9月1日11時58分に相模湾北西部を震源とするマグニチュード7・9と推定される関東大地震が発生。近代化した首都圏を襲ったこの巨大地震により、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県で震度6を観測。発生が昼食の時間と重なったことから、多くの火災が発生し大規模な延焼火災に発展した。
能登地震8カ月 REPORT
【執筆】北陸学院大学 社会学部 教授 田中 純一
住民の「住み続ける権利」を土台とした復興を
能登半島地震発生から8カ月が経過した。金沢と能登半島を直結する「のと里山海道」が全面通行可能になるなど、被災地の復旧は進んでいる。公費解体もここにきてようやく動き出した印象だ。しかし今なお1000人近くの住民が避難所での生活を余儀なくされ、断水が解消されず元の暮らしができない住民がいる。8カ月が過ぎ、能登ではいまだ急性期の状況を残したままである。
この間、避難所や仮設住宅を巡る課題の中には、東日本大震災や熊本地震など過去の災害で生じた課題と同じことが繰り返されている。奥能登に関して言えば、超過疎・高齢化が進展していることからは、ずっと前から分かっていたことである。道路網など地理的な特性と課題についても事前に分かっていたことだ。過去の教訓をどこまで踏まえ対策を講じてきたのか。
自助・共助に限界
加えて、水道、電気などのライフラインに加え、食事、睡眠、排泄(はいせつ)といった人間ならば誰もがもつ一次的欲求が奪われるとどうなるか。自助や互助・共助で乗り越えるには限界がある。改めて自然災害から国民・県民のいのちと暮らしを守る国や自治体の責務が問われることになる。
県が復興プラン
石川県は6月末に「石川県創造的復興プラン」を発表した。今回の地震に対しては被害想定の低さが指摘されている。同プランは今後の被災地の将来を方向づける重要なものである。被災住民の思い・願いが反映された復興をもたらすのか。改めて同プランを読み込むと、人間の復興を考える視点、「住み続ける権利」の視点に欠けている。「住み続ける権利」とは、井上英夫金沢大学名誉教授によれば「被災者・地域住民が、どこに、誰と住むか、どのように住むかを自己決定し、自分らしく生き、自己の願い・希望を実現することを人権として保障する」ことである。この権利は能登の復興のみならず、今後の自然災害からの復興を考える上で外せない視点である。
9項目の提言
この8月、筆者は井上英夫名誉教授らと共に石川県に対し、「住み続ける権利」を軸とした提言書を提示し同プランの見直しを求めた。具体的には①「『被災住民の復旧・復興への思い』と『創造的復興リーディングプロジェクト』を中核に据えた復興プランの内容がかみあっておらず、被災住民の思い・願いに基づく“不断の”見直しを行う」②「復興プランの具体化にあたって、『創造的復興』の前に、いまだ進まない『復旧』を重視する」③「被災者・住民の『参加』の保障」④「被災者の復旧・復興を具体化する保障主体、住民の『住み続ける権利』の保障主体は国・自治体である旨を明らかにして、今後の復旧・復興を進める」⑤「インフラ整備に『集約化』など財政などによる抑制的な条件をつけない」-など計九つである。
被災地の住民は自宅再建に揺れている。公費解体が進まず、損壊したままの我が家を毎日見続けていると、本当にここで再建できるのか不安になるという。しかし心の揺らぎの奥底には「ここで暮らしたい」という切なる思いと願いがあることを見逃してはならない。
ある住民が言っていた「俺はここに住んでいて俺だ」が印象的だ。どこで暮らすか、誰と暮らすか、どのように暮らすかは住民が決めて良いのだ。それをしっかりと支えるのが国であり自治体である。
最優先課題
すべては住民の声を聴くことから始まる。被災された住民とひざを突き合わせて話せば、創造的復興の議論の前に、復旧が最優先課題であることは言われなくても分かる。復興の議論はその後だ。避難所や仮設住宅で暮らす住民に10年後の復興など考える余裕はない。そのような住民を置き去りにして復興の議論を進めることにどれほどの意味があるのか。聞くべきは避難所にいる住民の声、仮設住宅で生活再建に不安を抱く住民の声、損壊の程度が小さいことを理由に十分な制度的支援を受けられない在宅被災住民の声であり、災害のたびにクローズアップされながら、毎回対応の不十分さが取り上げられる障がい者、支援が必要な高齢者、外国人などの声である。
一つひとつの声に耳を傾けることが、復興の土台を確たるものにする。そして能登半島地震からの教訓から学び、同じことを繰り返さないための方策を検討し具体化し推進することが、南海トラフ地震や首都直下地震など、将来の巨大災害発生時の被害を減らし、「住み続ける権利」を土台とした復興へつながるはずだ。