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データセンター支える空調・冷却技術
データセンター(DC)は重要なインフラの一つで、サーバーやネットワーク機器を安全かつ効率的に運用するために欠かせない施設。大量のデータを保存、管理、処理する機能を持つ。生成AI(人工知能)の急速な普及により、高性能な画像処理半導体(GPU)サーバーの採用が進む。これに伴い、消費電力量の増大による発熱量の増加が課題となっており、DCの省エネルギー化と効率的な冷却技術の確立が求められている。
DC向け冷却関連 31年世界市場3・1倍に
日々、膨大なデータのやりとりが行われている現代社会では、DCの安定稼働が日常生活と企業活動を支えていると言っても過言ではない。今後もデジタル化や生成AIの普及が進み、通信トラフィックは増大するとみられている。
10月に政府が公表した対米投資に関する共同ファクトシートでは、共同投資事業の候補として「AIインフラの強化」が挙げられている。AIの処理能力を支えるインフラとしてDC関連の設備投資も活発化しており、世界的にDC市場は拡大している。
富士キメラ総研がまとめた「2025データセンター・AI/キーデバイス市場総調査」によると、2031年のDC向けIT機器の世界市場は24年比3・4倍の187兆8775億円と予測した。
またAIの高速演算に対応するGPUや中央演算処理装置(CPU)の高性能化により、DCでの発熱量は急速に増加しており、冷却設備の需要も高まっている。31年のDC向け冷却関連の世界市場は24年比3・1倍の4兆468億円になると予測されている(図)。
国内でもDC関連の市場は活発化しており、DC新設・増設の動きが加速している。富士キメラ総研のDCビジネスの国内市場の調査によると、国内DCの総床面積は29年には23年比41・5%増の約616万平方メートルを見込んでいる。地域別では1万5000平方メートルを超えるメガクラウドベンダー向けのハイパースケールDCが計画される関東や関西が伸びをけん引するとみられる。
国内のDCは関東圏が約6割、関西圏が約2割と都市部に集中している。一方で、今後の電力供給や事業継続計画(BCP)対策といった観点から、北海道や九州などでもDCが新設され、地方分散化に向けた動きもある。経済産業省と総務省では電力と通信の両インフラの効率的な整備を目指す「ワット・ビット連携」を推進し、新たなDC集積地の選定やDC運用の効率化・高度化に向けた取り組みを進めている。
また自動運転や工場の自動化(FA)の普及促進に向けて、データをリアルタイムで通信・処理することが求められている。こうした背景から、現場の近くに小規模なDCを配置する動きがあり、短期間で設置でき、設備の拡張性が高いコンテナ型DCの導入も広がっている。
国内のDC新設・増設の動きが活発化する中で、ハイパースケールDCの建設・運用は外資系事業者の参入が進んでいる。このため、空調機はグローバルで実績のある海外製品を事業者自らが採用するケースが多いという。これに対して、ある空調機器メーカーは海外の入札基準に合わせて、自立制御の搭載した空調機や実機試験を実現することで、国内DCの市場の販路拡大を進めている。
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空調機の実負荷能力試験が可能な総合実験棟(新晃工業提供)
業務用空調機の総合メーカーである新晃工業は、中期経営計画における重点施策の一つであるDC市場での拡販のため、専門事業部を23年度に設立した。
高性能・高発熱サーバーが増加している中、市場ニーズに応えるため大容量かつ省スペースで高機能なDC向け空調機を開発。加えて、国内最大級の実負荷能力試験設備を有する総合実験棟「SINKO AIR DEVELOPMENT LAB」を設けるなど、信頼性の高い製品開発を推進することで、事業展開の強化を図る。国内外の引き合い・受注は順調に推移している。
電力確保が課題/エネルギー効率向上急務
DCの増設が活発化している中、課題となっているのが電力の確保だ。IT調査会社のIDCジャパンの調べによると、国内DCに設置されるAIサーバーの電力容量は、28年末には24年比約3・2倍の212メガワットとなる見込みで、これは首都圏や関西に相次いで建設されているハイパースケールDCの約5—8棟分に相当する。
この電力容量は、サーバーが必要とする電力のみの推定のため、ネットワーク機器や冷却機器などの電力を含めると、これ以上の電力容量が必要になるとみられる。
AIの学習や推論に用いるデータの規模は拡大し続けている。ICT技術の進展に伴うCPU、GPUの性能強化により、電力消費は今後も増加が予想され、省エネルギー化と電力確保が急務。DC全体のエネルギー効率向上と再生エネルギーの利活用が重要性を増している。
政府はDCのエネルギー消費効率の改善に向けた技術開発支援と法整備に向けた取り組みを進めている。経済産業省は29年度以降に新設するDCに対して、省エネ基準への適合の義務化を検討。DCの電力使用効率(PUE)を指標とし、稼働から2年が経過した翌年度に実績値で1・3以下とする基準案を策定している。
主にサーバー室面積が300平方メートル以上もしくは年度のエネルギー使用量(原油換算)が1500キロリットル以上のDCを対象としている。PUEは施設全体の消費電力をサーバーなどIT機器の消費電力で割って求め、1に近いほど電力の利用効率が高いことを表す。
また経産省は30年度に事業者平均PUEを1・4以下とする目標を掲げ、一定規模以上のDC事業者に対してPUE値の定期報告を義務付けている。事業者に効率改善に向けた中長期計画の公表を求めることや、情報処理時のエネルギー効率を評価する指標も検討している。
政府はサーバーの冷却システムなどDCの省エネ化などに貢献する技術開発を支援する方針だ。技術開発を促進するとともにDC事業者による導入を推進することで、持続可能なAIインフラの整備を後押しする。
AIの高速演算に対応したGPUは従来のプロセッサーと比べ、数倍もの電力容量が必要になるという。高性能なGPUを搭載したAIサーバーは、1ラック当たりの電力容量が40キロ—100キロワットクラスになるともいわれている。
高い電力容量の要求に伴い熱密度も高まり、省エネに加え、GPUやサーバーが安定して稼働するためにも冷却技術が求められている。
