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データセンター支える空調・冷却技術
データセンター(DC)は重要なインフラの一つで、サーバーやネットワーク機器を安全かつ効率的に運用するために欠かせない施設。大量のデータを保存、管理、処理する機能を持つ。生成AI(人工知能)の急速な普及により、高性能な画像処理半導体(GPU)サーバーの採用が進む。これに伴い、消費電力量の増大による発熱量の増加が課題となっており、DCの省エネルギー化と効率的な冷却技術の確立が求められている。
DCの安定稼働に欠かせない空調・冷却技術
DCの消費電力の割合の中で、空調・冷却設備は全体の約4割を占めるといわれる。DCが安定して稼働するためには空調・冷却による熱対策が不可欠だ。冷却性能と省エネの両立が問われる中、設計環境や目的に応じてさまざまな冷却方法が採用されている(表)。
DC内の冷却方法はサーバー室の空間全体を冷やす室内冷却と、サーバーラック内や半導体チップなどの特定の場所を直接冷やす局所冷却がある。
室内冷却の効率的な手法としてアイルコンテイメントがある。室内に仕切りなどを設けることで、冷たい空気(コールドアイル)と熱い空気(ホットアイル)の気流を物理的に分離・密閉する空調最適化手法で、空調からの冷気が室内の熱と混ざり合って空調効率が落ちるのを防ぐ。
さらに、寒冷地や冬季であることを利用し、外気や水などの自然の力を活用することでエネルギー消費を抑える手法もあり、空調・冷却システムと併用して使われている。
局所冷却は空冷式と水冷式といった手法に分けられる。空冷式はファンなどの送風機を用いてサーバー内に空気を直接送り込む。サーバーラックの背面扉に熱交換器を組み込み、サーバーから出る排熱を直接冷却するリアドア空調などがこれにあたる。空冷式は導入コストが低く、設置スペースをとらないといった強みを持つ。
これまでDCの冷却には空冷が主流とされていた。ただ、最近ではAI対応のGPUサーバーの冷却については、その発熱量の多さから、水冷式に置き換えざるを得ないといった傾向にある。サーバーや冷却関連の企業各社は水冷式のシステムを売り出し、冷却性能を訴求している。
水冷式は液体を使い、サーバーの熱を冷却する手法。最近では直接液冷方式(DLC)といったGPUなどサーバー内で特に発熱量が大きい箇所に液体を通し、冷却する手法が注目を集めている。GPUなど発熱源に金属製のコールドプレートを取り付け、プレート内を冷却液が循環し、直接熱を吸収する仕組み。温まった冷却液は熱交換器(CDU)で冷やされ、再度サーバー内に送られる。
DLCはCPU、GPUといったプロセッサーの冷却に集中するため、サーバー内のほかの基盤などの冷却にはファンによる空冷が併用される。
さらに、最近では液浸冷却といった手法の検討もなされている。液浸冷却はサーバーの基板全体を絶縁性の液体が入った槽に浸すことで、液体が直接熱を吸収する。熱を持った液体は外部の冷却システムで冷やされ、槽に戻される。
空冷・水冷システム提案
空冷式、水冷式にかかわらず、冷却性能の向上と省エネ化が求められている。これらのニーズに応え、メーカー各社は独自の製品力で市場にアピールしている。
オリオン機械のエコハイブリッドチラーは、インバーターチラーとフリークーリング機構が一体化した冷専モジュールチラー。DCにおける冷却システムの冷水供給用途で、PUEの改善に貢献できる。
外気温が低い時期はフリークーリング機構がメインで冷却を行うため、エネルギー消費効率(COP)が高い。外気温に応じた三つの運転モードの自動切り替え制御により、フリークーリング機構を最大限に活用する。
AIサーバーに対しては水冷式の置き換えが進むとみられるが、水冷式の導入には設備や設計の変更などによるコスト面をクリアする必要がある。また、既存のサーバーの熱対策には空冷式でも対応可能なため、今後は状況に応じて空冷式と水冷式を使い分けるケースも増えていくとみられる。
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DC向け熱交換器「サイフォレックス」(住友精密工業提供) -
CEATEC2025で披露したデルタ電子のAIサーバー対応のラック
住友精密工業のデータセンター向け熱交換器「サイフォレックス(相変化型CPU/GPU冷却器)」は、1000ワット級の高発熱に対応可能な空冷式熱交換器。新幹線用の素子冷却器として30年以上採用され、無事故・無故障を誇る(同社調べ)高性能空冷冷却器を小型化・高性能化した新モデルだ。
冷媒の沸騰凝縮を利用した自己循環型二相型サーモサイホン冷却器で、空冷式ながら水冷式と匹敵する性能を持ち、高性能なCPU、GPUの能力を最大限に引き出す。水冷式装置と比べ、導入コストを5分の1—10分の1に低減。オーダーメード設計も対応可能。メンテナンスフリー・高寿命・高信頼性を実現した。
効率的な熱管理と運用コストの削減のために、空冷式、水冷式を組み合わせたハイブリッド冷却も注目を集めている。
デルタ電子は、10月に千葉市美浜区で開催された電機・情報通信技術の総合展示会「CEATEC2025」で、ラックやサーバー向け高密度冷却や電力の高効率化技術を披露した。
空冷式を基本に液冷式を補助的に使用し両方の利点を兼ね備えた同社の空冷補助式液体冷却(AALC)は、80キロワットの電力容量に対応するハイブリッド方式の冷却システム。GPUをピンポイントで液冷却し、残熱を効率的に空冷排出する。
空冷のみと比べると最大30%の省エネと、PUEが1・19という高効率を実現した。液漏れや、異常時でも空冷動作を維持するフェイルセーフ設計となっている。
半導体チップの高性能化で処理能力の向上が進む中でも、AIの学習や推論に用いるデータの規模は拡大し続けている。今後もIT機器の発熱量の増大が懸念される中、DCの持続可能な運用の実現には、空調・冷却のイノベーション(技術革新)がカギを握る。
