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千葉市産業特集
千葉市スタートアップ・エコシステムを充実
千葉ロッテマリーンズの本拠地「ZOZOマリンスタジアム」の再構築に関する基本構想案がまとまるなど千葉市には明るい話題が増えてきた。企業立地促進事業補助制度を活用した企業立地も、3年連続過去最高を更新。経済の新陳代謝を促すため、スタートアップの支援にも力を入れており、新規株式公開(IPO)した企業も誕生している。だが、人手不足や物価高騰、米トランプ政権の関税政策など企業を取り巻く経営環境は厳しいのが現状だ。同市の中小企業の景況感や支援策、企業立地などについて千葉市長の神谷俊一氏に聞いた。
千葉市長 神谷 俊一 氏
ZOZOマリンスタジアム再構築/「まちの社交場」目指す
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千葉市長 神谷 俊一 氏
—ZOZOマリンスタジアムの移転・建て替えの方向性を示す基本構想案がまとまりましたが、どのようなスタジアムを目指していきますか。
「基本構想案では新しいスタジアムの姿として『海・風・空』が感じられる幕張らしい環境の中で、まちとシームレスにつながる“エンターテインメントスタジアム”を掲げている。スポーツ観戦だけではなく、市民が日常的に足を運ぶような公共施設としての機能を持ちつつ、収益を生み、非日常感を満喫できる商業・エンタメ機能や滞在機能などを組み合わせることで、多様な人々が集い、交流できる『まちの社交場』として365日楽しめる場所を目指す」
—新スタジアムにどのようなことを期待していますか。
「建設予定地として選定したのは、JR幕張豊砂駅から約500メートルの交通アクセスに優れた幕張メッセ駐車場だ。この場所は幕張メッセや大型商業施設、豊砂公園に近接しており、これらの施設と連携することで、豊砂地区だけではなく、幕張新都心全体の魅力やにぎわいを高め、新たな価値の創出や地域イメージの向上が期待できる。そしてそこでの体験や体感したものを通じて、市民の皆さんがまちに対する誇りや愛着、共感を持ち、シビックプライドを育んでいただけることを願っている」
—中小企業の景況感をどのように認識していますか。
「物価高騰や進まない価格転嫁の中で賃上げの原資を確保できず従業員の確保が難しくなっている。経営環境は依然として厳しく、不透明感が強い。千葉商工会議所の5月の景気動向調査によると、前期と比べて業況DIは幾分改善したが、先行きは製造業や小売業などが採算面の厳しさなどから慎重な見方を示している。価格転嫁については発注側企業と十分に交渉できている企業の割合は着実に増えているが、全て価格転嫁できている企業の割合は14・0%と依然として低水準だ」
—グローバルリスクをどのように認識していますか。
「米国の通商政策が、この先、どうなるか分からない。先行きに不安な材料が増え、マイナスの影響が大きいと考える。そのマイナスの影響がどういう形で自社の事業活動に影響してくるのか読み切れない。企業経営の難しさが増している」
—その中で企業はどのようなことに取り組むべきですか。
「人手不足が非常に深刻な状況で、賃上げは、従業員の確保や定着に必要不可欠となっている。賃上げの原資を獲得するために生産性の向上や他分野への進出など、これまでの経営から一歩踏み出したことに取り組まないと好循環の波に乗れない」
「生産性を上げるには、さまざまなアプローチがあるが、従業員のスキルを向上させる必要がある。新分野にどのように自社の資源を振り向けるかについて検討しなければいけない。さらに国連の持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)にも配慮ではなく、真っ正面から向き合う必要がある。これらにイノベーションによる事業変革を組み合わせて展開することが求められる」
中小の生産性向上へ支援拡大
—どのように中小企業を支援していきますか。
「生産性の向上のために力を入れているのが、従業員の資格取得や研修実施に対する費用の助成制度だ。資格取得の支援については運輸や建設業に対象資格を拡充してきたが、2025年度から製造業や自動車整備業も対象業種にした。千葉市産業振興財団はアドバイザーを企業に派遣し、従業員の能力開発に関するコンサルティング的な支援も行っている。デジタル変革(DX)化や情報通信技術(ICT)環境の構築・導入にも助成しており、千葉市産業振興財団のコーディネーターによる助言と組み合わせ、生産性の向上につなげてもらいたい」
—企業立地が堅調に推移しています。
「企業立地促進事業補助制度を活用した企業立地が46件となり、3年連続で過去最高を更新した。大型の立地も実現している。毎年、補助メニューを見直しており、企業のニーズに対応したものにしている。ただ、産業用地が不足している。『ネクストコア千葉生実(おゆみ)』の分譲を順次開始予定としているが、それに続く産業用地の整備に早期に着手できるようスピード感を持って取り組んでいく」
—スタートアップの支援にも力を入れています。
「日本は欧米と比べて創業率が低い。創業率を上げることが、地域経済の活性化のために重要だと考えている。そのため産学官のさまざまな関係者が地域全体で支援する『千葉市スタートアップ・エコシステム』を充実させていく。また技術やアイデアを持ち寄って交流できる場所を創出することも必要だ。そのため『イノベーション拠点認定事業』で、質の高い創業支援が行われるような場所づくりも進めている」
—IPOした企業も出てきました。
「スタートアップにメンターを配し、集中的に支援プログラムを提供する『アクセラレーションプログラム』は、毎年、大きな成果を上げている。このように包括的に支援する体制とともに、企業の課題をピンポイントで解決するため、専門スキルを持つプロ人材と企業をマッチングし、新しい事業展開や既存事業の強化、DXなどのプロジェクトを推進するための支援制度も設けている。千葉市が支援する企業が少しずつ結果を出している」
—千葉市の経営者にメッセージを。
「物価高騰や米国の関税措置の影響、人手不足など経営環境が不透明な中で企業経営は困難な時期にある。このような状況を打開し、見通しを付けていくためのさまざまな支援策を用意している。これらの支援策を活用し、企業経営の軌道を安定的なものにしてもらいたい。創業率の上昇や事業の新展開、生産性の向上は地域経済の活性化には不可欠なので、刻々と変化する経済状況に対応した形で支援策を展開するので、事業活動の状況を相談してもらいたい。我々自身の制度もブラッシュアップしていく」
【略歴】
かみや・しゅんいち 96年(平8)東大経済卒、同年自治省(現総務省)入省。01年に赴任した在ヨルダン日本国大使館でイラク戦争に遭遇し、邦人保護の危機管理を担当。04年佐賀県農林水産商工本部新産業課長、10年佐賀市副市長。
13年千葉市経済農政局経済部長、15年副市長。千葉市では大雪や台風災害などで被災した農業・中小企業の支援、道路など各種インフラの復旧対応を指揮するとともに、消防局所管の副市長として危機管理を担当。18年消防庁国民保護・防災部広域応援室長、20年総務省退職。21年千葉市長。25年再選。
座右の銘は「一隅を照らす」。千葉市を照らして輝かせ、その光で日本、そして世界を輝かせる。趣味は料理と卓球、クロスバイクのサイクリング。料理教室には4年間通った。得意料理は、なすとベーコンのトマトパスタ。愛知県出身、51歳。
