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千葉県優秀企業経営者表彰
革新性や挑戦意欲に富んだ経営手腕を発揮し、企業の成長を実現している千葉県内の中小企業経営者をたたえる「千葉県優秀企業経営者表彰(第29回千葉県ベンチャー企業経営者表彰)」の受賞者5人が決まった。グランプリである「知事賞(最優秀経営者賞)」には、常磐植物化学研究所(千葉県佐倉市)の立﨑仁社長が選ばれた。立﨑社長ら受賞者には賞状と表彰盾のほか、副賞として賞金が贈られた。
受賞者紹介
知事賞(最優秀経営者賞)/常磐植物化学研究所 代表取締役社長 立﨑 仁 氏
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常磐植物化学研究所 代表取締役社長 立﨑 仁 氏
常磐植物化学研究所はブルーベリーエキスやイチョウ葉エキス、ラフマエキスなど植物から抽出・精製した機能性成分を、医薬品原薬や健康食品、化粧品などの原料として、海外を含めて2000以上の事業者に販売している。立﨑社長自らがおう盛な研究開発意欲を持ち、さらに専門性の高い人財が競争力を向上させるための研究開発を進め「植物のちからを引き出し、新たな価値を創造」する。
ESG経営高度化で実績
人と社会、植物から「生かされる」企業であり続けるため、現在、ESG(環境・社会・企業統治)経営の高度化に取り組む。すでに本社工場のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)で99%、植物抽出残渣のリサイクル率で100%などを達成。09年以降、毎年、ESGの活動をまとめたリポートを作成して公開している。
これらが評価され、エコアクション21オブザイヤー2022のソーシャル部門で銅賞を、同2023のソーシャル部門で金賞(環境大臣賞)をそれぞれ受賞した。健康経営優良法人ブライト500の認定も2023年から2年連続で取得している。
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植物から抽出・精製した機能性成分を、医薬品原薬や健康食品、化粧品などの原料として海外を含めて供給している
本社と工場を合わせた敷地面積が約5万平方メートルと、植物から機能性成分を抽出・精製する工場としては東日本で最大規模になる。事業領域の拡大に伴い、設備増強を進めており、素材の研究開発から生産技術の検討、製造、品質管理までを自社で一貫して行っている。
取引先からの幅広いニーズに対応するため、医薬品や食品製造にかかわる許認可や、イスラム教徒向けハラール食品など宗教に対応した認証も取得している。
オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を通じ、同社を支える自立型人財を育成しており、全社員に成長する機会を与えるため、階層別、テーマ別研修を実施している。最近では管理職のヒューマンスキルを高める研修や、新人・若手社員を早期に戦力化するための研修のほか、経営理念研修やデジタル変革(DX)研修に力を入れる。
24年度に創業75周年を迎えた。今後は創業100周年までの目標である「世界一の植物化学企業」の達成を目指す。植物成分の研究開発・製造・販売を通じ、人と植物の明るく、ウェルビーイング(心身の幸福)な未来づくりに貢献していく方針だ。
優秀経営者賞/扶桑鋼管 代表取締役社長 江村 伸一 氏
業界に先駆け海外進出 実現
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扶桑鋼管 代表取締役社長 江村 伸一 氏
扶桑鋼管は、建設機械や工作機械などに使用される機械構造用鋼管の卸売り、加工、輸出入を手がける。国内4カ所に営業、加工拠点を持ち、北陸支店(石川県小松市)には大規模な加工センターを併設。タイ、インドネシア、中国に現地法人を展開する。顧客の需要を把握して国内外から最適な素材、部品を供給するコーディネート力を強みとし、機械構造用鋼管の取扱高では業界トップレベルのシェアを持つ。
江村伸一社長は早稲田大学を卒業後、住友商事を経て1979年に扶桑鋼管に入社。取締役大阪営業所長、常務、専務を経て95年に社長に就いた。江村社長は2代目にあたる。鉄鋼業界の国際的な再編、製造業の海外移転が起こることを見越し、2010年には業界に先駆けて海外進出を実現。社長就任当時の95年に約40億円だった売上高を、24年3月期にはグループ全体で226億円まで拡大させた。
非上場企業ながら社員持株制度を導入し、創業家の株式保有比率を47・1%にとどめ、役員持株会と社員持株会が過半の52・9%を保有する。株式保有を通じて経営を自分事として捉えてもらうほか、配当と拠出金補助で従業員の資産形成にも寄与している。また、創業家への権力の集中を防ぎ、緊張感を持った経営が可能となっている。
人材育成では営業担当者にオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)と併せて年1回の宿泊研修、年2回の社内試験を実施。社外向けには同業者を集めた研究会を主催し、その縁もあり、さまざまな形で他社の事業を承継してきた。
26年には福島県郡山市に新規拠点の開設を計画している。海外でも加工機械導入や工場増築により、事業を拡大する。他社にないコーディネート力を武器に国内の大企業との取引を拡大し、さらなる成長を目指す。
優秀経営者賞/サンレイ工機 代表取締役社長 津覇 浩一 氏
ロール製造技術軸に業容拡大
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サンレイ工機 代表取締役社長 津覇 浩一 氏
サンレイ工機は、液晶パネル用光学フィルムや車載用リチウムイオン電池(LiB)のセパレーター製造向けのカーボンロールを手がける。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製ロールの表面に鉄やステンレス、アルミニウムなどの金属を独自技術でクラッド(被覆)する。このクラッドでめっきなどの表面処理が容易となり、耐久性が向上する。同社のカーボンロールの重量は鉄製ロールの3分の1程度と軽量で、たわみが抑えられ、長さ約10メートルの長尺ロールの製造も可能だ。
津覇浩一社長は、1996年にサンレイ工機に入社。2012年、創業者の急死に伴い社長に就いた。当時は印刷機向けの金属ロールを主力としていたが、ペーパーレス化とリーマン・ショックで需要が落ち込んでいた。津覇社長は成長が見込めない印刷機向け金属ロールから撤退し、液晶パネル用光学系フィルム、車載LiB用セパレーター製造向けカーボンロールへの事業転換を決める。
その経営判断により16年9月期には黒字化を達成。10年以上の試行錯誤を経て高品質な長尺カーボンロールの量産に成功し、業績が大きく回復した。ロール製造にはノウハウがあり、複数の特許を取得済み。全長9・2メートルの世界最大級カーボンクラッドロールは国立科学博物館に未来技術遺産として登録されている。
ロール製造技術を応用し、レーシングカー用のプロペラシャフトにも参入した。東日本大震災の津波に耐えた「奇跡の一本松」(岩手県陸前高田市)のモニュメントの幹の芯材にも同社のカーボン加工技術が採用されている。
産業用ロール市場でのカーボンロールのシェアは低く、国内外でシェア拡大を狙う。今後は他業界へのカーボンロールの展開、ドローン用シャフトなど円筒型回転体市場への進出を検討する。
優秀経営者賞/日本都市 代表取締役 大原 俊弘 氏
交通安全に貢献 着実に業績伸長
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日本都市 代表取締役 大原 俊弘 氏
日本都市は、総合建設業の会社として、道路や駐車場の区画線工事・舗装工事、道路標識やカーブミラーなどの交通安全施設工事、土木工事および造園工事など幅広い事業を展開し、安全で快適な都市づくりに貢献している。
多数の有資格技術者と多様な設備を有し、小規模な民間工事から社会インフラに関わる大規模な公共工事までさまざまな工事を手がけ、成田空港整備工事、東名高速道路のリニューアル工事などにも携わる。超高圧水を噴射して路面や構造物の表面を切削・掘削し、その処理水を吸引回収することで、騒音や粉じんの飛散を抑える設備の導入により、環境に配慮した工事を行うことが可能。
大原俊弘社長は、1998年に道路の区画線や路面標示工事を手がける施工会社として同社を設立した。創業以来、船橋市を基盤に築いてきた地元企業や自治体などとの信頼関係を大切に、歩行者や運転者を思い、1件でも交通事故を減らしたいという信念の下、交通安全に貢献しつつ着実に業績を伸長させてきた。
船橋市、市川市に病児保育にも対応する企業主導型保育施設を設置。子育て中の社員が安心して働ける環境を整備するとともに、近隣住民の利用も受け入れ、地域社会に対しても育児と仕事を両立できる環境を提供している。
近年は警視庁、東京都の入札資格も取得し、千葉県内にとどまらず幅広い地域における公共事業に参画可能になった。高度経済成長期に構築された社会インフラの老朽化が進み、メンテナンス需要の増加が見込まれる。国土交通省も対策を推進する中、自社の強みを生かして交通インフラのメンテナンスに積極的に参画し、安全な社会づくりに貢献していく考え。全国に受注を広げ、新規株式公開(IPO)も視野に入れる。
ひまわりベンチャー育成基金賞/さかなドリーム 代表取締役CEO 細谷 俊一郎 氏
新品種「夢あじ」養殖 今春にも市場出荷
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さかなドリーム 代表取締役CEO 細谷 俊一郎 氏
さかなドリームは、東京海洋大学の吉崎悟朗教授が開発した品種改良技術を用いて、魚類の開発、養殖、販売を手がける同大発ベンチャー。気候変動の影響で国内の漁獲量が減少する中、品種改良でおいしい魚を開発し、養殖による安定生産を目指している。第1弾として、味は良いが漁獲量が少ないアジ科のカイワリと、千葉県南房総産の「金アジ(マアジ)」を交配させた新品種「夢あじ」を養殖している。春から豊洲市場に出荷し、首都圏のすし店や鮮魚店への販売を見込む。
さかなドリームは、異なる種や品種を掛け合わせることで、双方の優れた形質を兼ね備えた新品種を作り出す手法「ハイブリッド化」による品種改良を行っている。おいしい希少魚と飼育しやすい魚を親とすることで、味わいと安定生産の両立を実現する。
細谷俊一郎最高経営責任者(CEO)は、上智大学を卒業後、丸紅で穀物流通に従事。リクルートやウーバーイーツジャパンなどでの事業開発、上場企業の海外子会社社長、起業などを経て、2023年に吉崎教授らと共同で、さかなドリームを設立した。細谷CEOは客員起業家として活動しており、吉崎教授の事業コンセプトを基に具体的な事業構想に落とし込んだ。
これまでにベンチャーキャピタル(VC)のビヨンドネクストベンチャーズから1億9000万円を調達。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のディープテック・スタートアップ支援事業に採択され、第2、第3の新魚種開発を進めている。
消費者においしい魚を届けることに加え、生産者や流通業者と連携し、水産業界全体が収益を上げられる仕組みを構築する。31年6月期に新規株式公開(IPO)し、売上高100億円、純利益20億円を目指す。