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鋳物産業
鋳物産業は戦後、自動車製造技術と密接に関わりあいながら発展してきた。国内でモータリゼーションが進展し、完成車の輸出が本格化すると、低コストで量産可能な鋳物製品の需要が拡大した。この間、鋳型や金属材料、生産設備などの関連技術も飛躍的に向上し、高品質、高精度な鋳物の生産において日本は屈指の技術力を誇っている。現在、国内の鋳物生産量の約60%、ダイカスト生産量の90%近くが自動車向けと言われている。また、産業機械や半導体製造装置、高度医療機器にも使用される鋳物もメードインジャパンを支えている。
【インタビュー】 日本鋳造工学会 生型研究部会 部会長 曽根 孝明 氏 (瓢屋 取締役技術部長)
鋳型製造技術をけん引/SSI、CB値 世界の基準に
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日本鋳造工学会 生型研究部会 部会長 曽根 孝明 氏 (瓢屋 取締役技術部長)
現代日本の鋳物産業は戦後、多くの研究者や技術者によって基盤産業として立て直すことから再始動した。復興、発展に向けた研究は鋳型やその造型に必要な鋳物砂から銑鉄や銅合金といった素材まで広範囲にわたった。産学が協力し、規格の策定や技術の研究、普及に努めた結果、国内で生産される鋳造品は高い寸法精度や高品質を実現し日本の工業製品の信頼性向上に大きく寄与している。日本鋳造工学会の生型(なまがた)研究部会曽根孝明(瓢屋取締役技術部長)部会長に高精度鋳物の実現に向けた同部会の取り組みついて聞いた。
―鋳造製品の製造工程では生型による生産が大半を占めています。
「重量ベースで国内鋳物生産の7割程度が生型による。鋳型の外側に使われるもので、砂とベントナイトと呼ばれる粘土、水を混練し、加圧して所定の形状に造型する。重さ50キログラムぐらいまでの自動車用小型部品向けなら、1個あたり25秒程度で量産が可能だ。このため、生産数量の多い電化製品や蛇口といった水回り品の鋳造でも使われている。材料の砂のリサイクル率は高く、コスト面でも量産向けだ」
―国内生産の鋳造製品の特徴は。
「寸法精度の高さは抜群だ。鋳物産業がどの国にも負けない技術力をつけるきっかけとなったのが、自動車産業のグローバル化だ。完成車メーカーが世界に打って出るため、鋳物部品にも高い精度が求められた。これに応えるため鋳型の造型機メーカーだけでなく、材料から生型に使用する砂まで全体でレベルアップに努めた。この結果、1980年ごろから2000年の間に技術力は飛躍的に向上した」
―この間、生型研究部会はどういった活動に力を入れていましたか。
「鋳型に流し込んだ銑鉄は一度膨張し、冷えて固まると収縮する。膨張収縮してできた鋳物がピタリと寸法に収まる生型が求められた。こうした変化に耐えられる材料の調合や精製をどうやって実現するのか研究するのが当部会の役割でもあった。メンバーは一般企業だけでなく、大学教授も入っている。学術者も参加する学会だからこそ、同業他社とも情報交換ができ、自社へフィードバックすることで高度化が図られた。この中で、1980年代に策定した規格、SSI(表面安定度)が世界標準となっている。鋳物の精度を出すためには表面の砂の砂粒1個1個がポロポロ落ちてはいけない。それを評価する試験方法だ。また、アメリカで提唱された生型の水分値を評価する指標のCB値について、調査研究した試験方法も鋳物産業で広く活用されている。近年では、CB値の自動測定装置も開発されている。これにより鋳物工場の自動化、生産性向上が図られている」
AIで暗黙知データ化
―現在、技術面で求められているものは。
「日本の鋳造技術が飛躍的に発達したのは大量生産の時代だ。現在は多品種中・少量生産が求められる。自動車部品でも月産数万個から数千個になっている。このため、フレキシブルで短納期に対応できる生産体制の構築が必要だ。2024年から生型管理にAI活用の取り組みをスタートさせた。鋳造工場では機械化、自動化は進んでいるが、重要な部分で職人的なカン、こつに頼っている。こうした暗黙知の領域は昔からデジタル化しようとしたが、すべてがうまくいかなかった。しかし、AIならば、大まかながら傾向管理ができると期待している。集めたデータをさらに細分化していくことで、より精度を上げられるだろう」
