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鋳物産業
鋳物産業は戦後、自動車製造技術と密接に関わりあいながら発展してきた。国内でモータリゼーションが進展し、完成車の輸出が本格化すると、低コストで量産可能な鋳物製品の需要が拡大した。この間、鋳型や金属材料、生産設備などの関連技術も飛躍的に向上し、高品質、高精度な鋳物の生産において日本は屈指の技術力を誇っている。現在、国内の鋳物生産量の約60%、ダイカスト生産量の90%近くが自動車向けと言われている。また、産業機械や半導体製造装置、高度医療機器にも使用される鋳物もメードインジャパンを支えている。
環境変化への対応急務
材料、素材研究を継続
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用途拡大が期待される大型サイズ鋳物
日本の製造業の成長とともに発展を続けてきた鋳物産業。しかし、同産業を取り巻く環境が大きく変化する時代になり、さまざまな課題が発生している。
自動車産業は電動化・知能化・多様化の波を受け、大変革期のまっただ中だ。中でも、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)への対応が急務になっている。エンジンや足回り部品には古くから銑鉄鋳物が採用されてきた。近年、欧州でエンジンブロックに軽量化と長寿命化の観点からアルミニウムの採用が拡大している。しかし、アルミ合金の製造には、大量の電気が必要となる。電炉の電極にも炭素を使っているため、二酸化炭素(CO2)排出量が極めて大きくなり削減対策が急務だ。
一方、アルミスクラップを再溶解して利用することで、CO2排出量を約25分の1に削減が可能だという。CNを推進する上で、リサイクル材を積極的に使うことが有効な対策だ。しかし、リサイクル材を活用したアルミ合金鋳物で信頼性を担保できるかはまだ不透明だ。このため、さまざまな材料成分が混ざった同鋳物で何が起こるのかを把握しようとする動きが出ている。
今後、電気自動車(EV)化の拡大により、アルミなどの非鉄金属の大幅な需要拡大が見込まれる。経済産業省のまとめによれば、非鉄金属の国内総出荷額は2018年が10兆円。EV化が進めば、使用量がエンジン車に比べて3―4倍増加するとされる。鋳物製品では内燃エンジン向け部品が減る一方、電池やモーター類のケースを含めアルミ鋳造部品のニーズが高まることが予想される。
産業界がIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といった技術を取り入れながら高度化する中でも、鋳物はあらゆる場面で欠かせない素材だ。このため現在も鋳造技術や材料、素材の研究が積極的に進められている。
銑鉄鋳物では機械的性質や疲労特性、摩耗性などを含めた信頼性確保の取り組みが進む。同鋳物は内部に巣と呼ばれる空洞の欠陥部分が発生する。そこで、内部をCTで検査し、巣の場所や大きさなどを明確にした上で、その状態のままで引張強度や疲労強度試験などを実施し、保証できる範囲を示す取り組みを進めている。検査、評価することは、鋳鉄鋳物の信頼性の高さにつながる。
今後、用途拡大で期待されるのは、肉厚が600ミリメートルを越える大物鋳物だ。大型サイズになれば表面と内部での冷却速度が異なるため、信頼性の確保が難しいとされてきた。現在、こうした大物でも内部を透過する技術が確立しつつある。この技術を活用して大物鋳物でも、強度や信頼性を確保できることが確認できれば、低コストで量産可能な鋳物への転換につながると期待されている。
次世代EVで「ギガキャスト」工法の採用が拡大することが見込まれている。このため、車体を鋳物で製造するケースが増加する。使用されるのはアルミ、マグネシウム、シリコン系材料。さらに、車体メーカー独自のレシピによる材料が加わる。従来、使われてこなかったバナジウムやビスマスといった材料について、実験結果の報告もされている。また、電池材料として使用されるリチウムの影響を調査する実験も実施されている。鋳物産業では産学で基礎研究し、しっかりしたデータを積み上げていく取り組みが地道に進められている。
