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愛知県尾張西部地区産業界
愛知県尾張西部地区は岐阜県と三重県に隣接し、古くから東西をつなぐ交通の要衝として栄えてきた。特に毛織物を中心とした繊維業が発展し、現在でも尾州織物は海外の有名ブランドなどに採用され品質を評価されている。近年では首都圏と関西圏の中継地であることから物流拠点としての需要も高まっており、高速道路や幹線道路の近隣には大型の物流センターが立ち並ぶ。伝統と革新が織り交ざる、同地区の取り組みに焦点を当てる。
災害対策強化した物流拠点増加
尾張西部地区は、古くから関東と関西をつなぐ交通の要衝として栄えてきた歴史を持つ。物流が産業にとって欠かせない存在となっている昨今では、首都圏を中心とする関東圏と、関西圏の中継地点であることから、物流拠点の集積地として発展を遂げている。特に近年では、中部地域に大規模な被害をもたらすとみられる南海トラフ地震などにも備え、災害が起こっても物流を止めない施設を作ろうという動きは多い。
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2月に竣工した「プラネット愛知」
トラスコ中山が2月に竣工式を開いたのは、北名古屋市に建設していた物流センター「プラネット愛知」。延べ床面積は8万8602平方メートル。30年に100万アイテムの在庫数を持たせる計画で、同社最大規模の物流センターとなる。今後、自動倉庫などの設備の導入や在庫アイテムの補充を進め、26年7月に稼働する予定。
トラスコ中山の中山哲也社長は事業継続計画(BCP)対応強化が大きなテーマと説明した上で、「このセンターもその任務を背負い、どんな災害が起こっても商品供給の役割を務める」と新センターへの期待を語った。
新センターには免震構造を採用した4階建ての倉庫を置き、出荷能力とBCP対応の強化を図っている。
また昨年5月には、三井不動産が岩倉市にマルチテナント型の物流施設「三井不動産ロジスティクスパーク(MFLP)名古屋岩倉」を建設した。名神高速道路「一宮インターチェンジ」、名古屋高速一宮線「西春インターチェンジ」に近接。中部圏の内陸部の産業集積地である尾張北部地区への配送にも適する。
地上4階建てで、延べ床面積は約6万平方メートル。倉庫面積は最小約2000平方メートルから使用でき、幅広い顧客ニーズに柔軟に対応する。72時間稼働する非常用発電などBCP対応を充実させた。地域に開かれた施設を目指し、隣接する五条川の散策者向けに憩いのスペース(自主管理公園)を整備。災害時の拠点となる際に活用できる「かまどベンチ」や「マンホールトイレ」を設けるほか、住民団体に建物内の会議室を開放するなど、地域コミュニティーの拠点としても活用する。
このほかにも23年にはシーアールイーが一宮市に大型物流施設「ロジスクエア一宮」を開設するなど同地区には大型物流拠点が集積しつつある。いざという時にも物流を止めないかなめとなる地域として、全国からも期待されている。
伝統の尾州織、ファンづくり
一宮市を中心とした津島市、稲沢市、江南市に岐阜県の羽島市を加えたエリアは尾州地域と呼ばれ、古くから繊維業で栄えてきた。特に明治以降は毛織物産業が発展し、現在では国内生産量の約60%を担う一大産地として知られている。糸から生地になるまでのさまざまな工程を地域企業が分業しており、地域全体で毛織物を生産する体制が組まれているのが特徴だ。
同地区で生産された毛織物「尾州織」は国内外のブランドから男性用高級スーツの生地として採用され、品質の評価は高い。一方で、近年ではファストファッションの流行による価格競争の激化や、化学繊維の台頭、さらには職人の高齢化による人材不足などで国内の繊維業全体が難局にある。高い品質で選ばれてきた同地区の繊維業も課題は同様だ。
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県内でテキスタイルデザインを学ぶ学生らの作品が商店街を彩った
こうした状況の中、ファンづくりで産業を活性化させようと尾州織の魅力を発信する取り組みが活発化している。23年から開催されているのは、一宮市の市街地を使った体験型イベント「BISHU FES.」だ。同市の駅前や商店街などに繊維業をモチーフにしたモニュメントや、体験ブースが立ち並ぶ。商店街では一宮市や江南市など尾州地区の高校生らがデザインした尾州織の洋服のファッションコンテストとショーが開催され、毎年注目を集めている。また、国内の有名ファッションデザイナーによる尾州織を使ったファッションショーなども開かれている。25年度も11月に開催を予定し、次世代のファッションデザイナーを発掘する尾州織をテーマにしたコンテストの実施が決まっている。
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親子でファッションを楽しめるラインアップ
こうしたイベントのほかにも、近年では従来とは異なる客層へのアプローチとして「尾州ロリィタ」にも注目が集まる。「ロリータ」ファッションは、フリルやレースなどの装飾を多用した日本独自のファッション文化で、女性を中心に海外での人気も高い。尾州ロリィタは一宮市出身の女性が立ち上げたブランド。尾州織を使ってワンピースやアクセサリーなどの衣服を展開している。ロリータファッションの服は使用する生地の量が多く、通常は服の重量が重くなりがちだが尾州織で作られた服は軽いと評判だという。
男性用の高級スーツ生地として知られてきた尾州織だが、新たな取り組みによりファンの幅が広がっている。