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シリコンタウンNAVI 特別編/未来をつくる半導体
半導体関連投資が活発なのは熊本県にとどまらない。旺盛な半導体需要と成長する市場を見込んだ各社の動きは、九州全体で「シリコンアイランド」復興をけん引している。沖縄県でも半導体関連産業は動きを見せており、「シリコンビーチ」を掲げてさらなる集積と振興を目指す。
ソニーG ローム 京セラ・・・各地で相次ぐ設備増強/センサー・パワー半導体・素材・装置で存在感
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三菱電機はパワーデバイス製作所(福岡市西区)でパワー半導体の開発力を高める -
京セラは長崎や鹿児島で投資を決めた(長崎県、諫早市との立地協定調印式、4月。長崎県産業振興財団提供)
九州では半導体サプライチェーン(供給網)の基盤を強固にする企業活動が顕著だ。将来を見据えた投資は、九州経済のけん引役にもなっている。
福岡県では、パワー半導体分野での投資が目立つ。三菱電機はパワーデバイス製作所(福岡市西区)に開発試作棟「パワーデバイスディベロップメントセンター」を新設し、開発力を高める。新技術や新製品の開発を加速する狙いだ。
敷地内に分散していた開発実験室や開発品試作ライン、性能試験室、分析評価機能を集約。人や物の移動時間を短縮するなどして作業効率を向上させる。さらに同製作所では組み立て・検査工程を集約し、設計・開発から生産技術検証までの一貫体制の構築に取り組んでいく。
ロームは、子会社のローム・アポロ筑後工場(福岡県筑後市)で新棟が完成した。炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の生産能力を高めている。またロームは12日、宮崎県でのSiC半導体の生産能力増強を発表した。
佐賀や長崎でも、素材やセンサー分野における生産増強の計画が相次ぐ。
佐賀県は半導体に欠かせない素材の供給基地。フォトレジストを手がけるJSRマイクロ九州(佐賀市)、ウエハー製造大手のSUMCOが立地する。SUMCOは佐賀県伊万里市で2015億円を投じて半導体ウエハーの新工場を建設中だ。さらに吉野ケ里町で約22万平方メートルの用地取得に乗り出し、新工場の建設計画を進める。
子会社のSUMCO TECHXIV(長崎県大村市)でも272億円をかけて工場建屋を増築する。
長崎県でも投資が目立つ。諫早市では、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本県菊陽町)がイメージセンサーの生産工場を増設中。京セラも諫早市に約15万平方メートル規模の工場を建設する。半導体関連のセラミックス部品などを生産する計画で、2026年の操業開始を目指す。
長崎市内では、検査用光源装置などを手がけるインターアクションが新たな開発拠点を開設する。長崎大学と共同で取り組むSiCの加工方法の研究を加速させる狙いだ。
鹿児島県では京セラが鹿児島川内工場(薩摩川内市)と鹿児島国分工場(霧島市)で設備投資計画を進める。両工場は半導体関連のファインセラミックス部品などを生産する。
このほか大分県では、東芝グループのジャパンセミコンダクターが設備増強を決めている。
海をまたいだ沖縄県でも半導体産業の振興策が走る。沖縄では県中部、うるま市などに半導体関連企業が集積する。多くが県外から進出した中小規模の工場で、半導体製造装置や部品といった関連製品を製造している。内閣府沖縄総合事務局は県内の企業や教育機関とも連携し、南国の集積地「シリコンビーチ」を掲げて半導体産業の振興を目指す。
ふくおかIST/研究開発、人材育成で企業支援 「半導体リスキリングセンター」8月設立
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部品内蔵技術を生かして開発したパワーモジュール(右)。左のモジュール4個分を一つに集約した(NEDOのプログラムに採択) -
ふくおかISTが運営する産業技術イノベーションセンター
福岡県で半導体産業の振興を推進しているのが福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST、福岡市早良区)だ。半導体関連では産業技術イノベーションセンターが研究開発や人材育成を支援し、インキュベーションルームを提供。三次元半導体研究センターや有機光エレクトロニクス実用化開発センターは研究開発に必要な設備をそろえる。
産業技術イノベーションセンターは、多くの研究開発プロジェクトを支援し、全国の産業支援機関の中でも有数の実績がある。半導体関連の支援策の一例が「グリーンデバイス関連製品開発支援事業」。省エネルギーに直結するパワー半導体をはじめ、高速・高効率処理を低消費電力で行う先端半導体、それらの関連製品の開発に助成する。
22年度の成果の一つが九州エレクトロン(福岡県柳川市)による「パワーデバイス用プローブカード検査装置の開発」。人工知能(AI)の活用により、熟練者でなくても針(プローブ)の位置決めが簡単にできる。装置の製品化は完了し、企業から引き合いが来ている。
福岡県大牟田市に拠点がある三井金属は「高性能SiCウェハ用スラリー研磨材の開発」で、長寿命で研磨特性に優れた研磨材を開発した。
インキュベーションルームは現在、半導体設計企業24社をはじめとする65社が入居中だ。
三次元半導体研究センター(福岡県糸島市)は、プリント基板内部に素子を内蔵して3次元に配線する部品内蔵基板を量産レベルで製造できる。福岡大学などと共同で部品内蔵技術を生かし、高機能パワーモジュールの開発を進める。
有機光エレクトロニクス実用化開発センター(福岡市西区)は、最先端の有機EL材料の実用化に取り組む大学や企業と連携して、デバイス評価などを手がけ、製品開発を支援する。
同センターがデバイスの作製や信頼性評価で支援しているのが、有機半導体レーザーの開発に取り組むKOALA Tech(同)。開発成果は拡張現実(AR)や仮想現実(VR)に対応するヘッドセット向けマイクロディスプレーや高機能センサーなどへの採用が期待される。
ふくおかISTに半導体人材育成の不足に対応する新たな組織「福岡半導体リスキリングセンター」が8月に設立される。福岡県をはじめ九州・全国で活躍する半導体分野やデジタル産業分野の重要技術に精通した人材を育てる。
センターでは「半導体を作る側」と「半導体を使う側」に着目した講座を提供する。福岡県内の中小企業には受講料相当額を補助し、実質無料とする。
