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川崎市―川崎カーボンニュートラルコンビナート構想
GX先陣 具体化へ一歩踏み出す
川崎市が臨海部で構想する「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)コンビナート」が具体化に向け一歩踏み出す。市は多摩川を挟み、水素の需要増が期待される対岸の東京都、大田区と水素供給網の構築に向けた連携協定を5月に締結。水素を受け入れ、貯蔵・供給する拠点の形成を2028年以降に目指す土地利用方針案を6月に公表した。炭素を大量消費するモノづくりから転換。脱炭素で水素を活用するだけでなく、供給する先進の環境都市へ。川崎はグリーン・トランスフォーメーション(GX)で先頭に立とうとしている。
水素貯蔵・供給拠点を形成/周辺地域と連携
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扇島地区土地利用のイメージ図
川崎市が今回、土地利用方針案を示した対象は川崎区の扇島地区など。9月に高炉などの休止が予定されているJFEスチール東日本製鉄所京浜地区については、川崎市とJFEホールディングスが21年、土地利用に向けて協定を結んでいる。
中でも鉄鉱石などを受け入れる原料ヤードと大水深バースがある開発エリアには既存構造物が少なく、方針案は「先導エリア」と位置づけ、水素を軸としたカーボンニュートラルエネルギーの受け入れ、貯蔵・供給拠点の形成を目指し、28年度の実証開始を見込む。開発にかかる官民合わせた概算投資額について川崎市は、50年度時点で累計2兆600億円と試算している。
3月には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「液化水素サプライチェーンの商用化実証」で液化水素の受け入れ地に川崎臨海部を選定している。出荷地に選ばれた豪州から輸入する液化水素は川崎臨海部の事業者に供給するほか、需要増を見込む首都圏への供給も視野に入れている。
そこで川崎市、東京都大田区、東京都の3者は5月、水素など次世代エネルギーの利活用拡大に向けた連携協定を締結した。川崎市臨海部と、水素の需要増が期待される羽田空港臨海地域の間を結ぶパイプラインを含めた供給網を構築するための検討を進める。
川崎臨海部はエネルギー関連企業が集積する首都圏へのエネルギー供給拠点。合計発電量は800万キロワットを上回り、すでに国内水素需要の約10分の1を同市が占める。ただ、「水素の利活用で需要を確保するには周辺地域との連携が必要」(福田紀彦川崎市長)。「自治体がそれぞれの強みを生かした連携が効果的」(小池百合子都知事)という都や大田区の思いもあり、羽田空港に関連する企業など官民連携で水素エネルギーの潜在需要を調べていた。
今回、自治体の枠組みを超えた3者の連携で水素の輸入・供給拠点と首都圏の大消費地をつなぐネットワークを築き、需要の拡大につなげる狙いがある。
エネルギー転換を加速
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水素を受け入れ、貯蔵・供給する拠点の形成を目指す(川崎臨海部)
エネルギー転換を加速する川崎市には並々ならぬ思いがある。川崎市の製造品出荷額は政令指定都市でトップ。その約76%を国内有数のコンビナートを形成し、石油精製をはじめ化学、鉄鋼、電気など化石資源を燃料・原料として大量消費する産業が集積する川崎臨海部が占めている。
首都圏を中心とした経済・産業を支える一方、温室効果ガスの排出量も政令指定都市で最多。臨海部に立地する企業上位30社を合計した温室効果ガスの排出量は市内排出量の約7割を占めている。
環境先進都市へ産学官で取り組み
川崎市が抱える環境負荷低減の課題は日本、世界の課題でもある。先陣を切って解決に取り組もうという動きは13年に産学官連携の「川崎臨海部水素ネットワーク協議会」の設立につながり、15年には全国に先駆けて「川崎水素戦略」を策定。供給システムの構築や水素利用の拡大などを柱とする基本戦略をまとめた。18年には臨海部の産業競争力強化に取り組むために策定したビジョンにおいても「水素エネルギー利用促進プロジェクト」として、柱の一つに整理している。
20年には次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)がブルネイで製造した水素を東亜石油京浜製油所(川崎市川崎区)に運び、発電に利用する世界初の国際水素輸送を実証。さらに21年には、ENEOSが川崎製油所の既存装置を活用し、水素とトルエンを反応させたメチルシクロヘキサンから水素を取り出す実証を実施している。
川崎市内では使用済みプラスチックから製造した水素をパイプラインで5キロメートル離れたホテルに運び、電気と熱に利用する実証が行われるなど官民挙げた水素先進都市に向けた取り組みが進んでいる。
2050年の脱炭素社会実現を目指し、市内から排出される温室効果ガスの量を30年度までに13年度比50%削減する目標を掲げている川崎市。実現するために、臨海部では水素を軸としたカーボンニュートラルなエネルギーの供給拠点を目指すだけでなく、使用済みのプラスチックをリサイクルする炭素循環型のコンビナートなどの将来像を描いている。