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神奈川の大学―築いた歴史で新たな道へ 未来を担う研究・実学教育
産業能率大学/授業を通じ地域社会の課題解決へ
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情報マネジメント学部 教授 松岡 俊氏 -
地域の新たな魅力の創出に向け「湘南オリーブ」のブランド化に取り組む。学生はまずオリーブ園で栽培方法の違いや収穫の仕方を学ぶ
産業能率大学は世の中で実際に役立つ能力を育成する「実学教育」を根幹としている。授業はビジネスシーンを想定して学生が主体的に学ぶアクティブラーニングが中心。ビジネスの現場に触れ、理論と実践を組み合わせて実社会で直面する課題を解決する力を身につけるカリキュラムが看板だ。実践から学んだ強固な力を持つ人材を輩出するため1年次からキャリア観を育むカリキュラムが組まれ、学生たちはフィールドワークを通じて地域社会が抱える課題解決に挑んでいる。
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産業能率大学湘南キャンパス(神奈川県伊勢原市)の情報マネジメント学部で2022年4月、新規科目「地域ブランド創造プロジェクト」(2年次科目)が始動し、2年目を迎えた。この授業では湘南地域で収穫されたオリーブをブランド化するマーケティングプラン立案を目指す。
かつて湘南地域は温暖な気候を生かしたミカン栽培が盛んだったが、耕作放棄地の増加が問題となっている。その湘南地域で新たな魅力を創造するコンテンツとして注目されたのがオリーブ栽培。学生自ら栽培や収穫にもかかわり、プロジェクトとして取り組むことの意義や湘南地域の特性について理解を深め、他地域にも転用できる地域創生モデルの創造を狙う。
産業能率大学は「地域ブランド創造プロジェクト」の始動に合わせて神奈川県二宮町、オリーブを栽培するファームビレッジ湘南(同平塚市)、ユニバーサル農場(同二宮町)と、地元産オリーブ「湘南オリーブ」による地域振興を掲げて4者連携協定を締結。まず学生は農場を訪ねて栽培方法や収穫の仕方、搾油、商品化までの過程を学び、チームでオリーブを使ったメニュー開発に取り組む。7月には自治体やオリーブ生産者、プロの料理人にも加わってもらい試食・審査会を開いて前期授業を締めくくるのが恒例だ。
担当の松岡俊教授は食材としてのオリーブについて「そもそも差別化が難しく、今期の授業はオリーブが使われているメニュー約300種類をリストアップしたところから始まった。外部講師を招いてオリーブが地域社会、日常生活に根付く地中海の文化も学んだ」と振り返る。
チームで解決策を考える課題解決型学習(PBL)は短期的活動になりがちだが、湘南オリーブのブランド化を目指す「地域ブランド創造プロジェクト」は植物を扱うということからも、継承・循環を繰り返すことが重要となる。そのため学生は、1年間の活動を振り返り、次年度の履修生へ継承可能なデータ、課題を整理し、報告書としてまとめる。この報告書が次につながる重要な情報となり、本授業が継承され循環されていく。
産業能率大学はキャンパス近くの耕作放棄地に自前の「伊勢原オリーブ園」も開設し履修した学生は1年間、一本一本担当を決めて育成を見守る。「昨年度の履修生も担当した木を見に、よく顔を出す」と松岡教授。大学と地域の“共創関係”が垣間見える。
湘南オリーブのブランド化を目指すアプローチは食材に限らない。後期授業ではオリーブを使った化粧品の開発・販売に取り組む。松岡教授は「健康志向で天然素材の化粧品は人気があり、付加価値も高めやすい。前年度は実現できなかったが、クラウドファンディングでぜひ販売までこぎ着けたい」と意気込む。
横浜国立大学/分野横断型の研究組織で社会課題 解決
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学長 梅原 出氏 -
横浜国立大学は社会貢献・社会共創を強く意識し、新たな理念として「多様性」を打ち立て、未来の社会課題解決に向け多様な“知”の結集により学際的研究を進める新組織を始動した。2004年の国立大学法人化に合わせて制定した「横浜国立大学憲章」を23年3月に改定し、これまでの実践性、先進性、開放性、国際性の四つの理念に多様性を追加。学部や大学院の枠を超えてさまざまな研究者が集う分野横断型の研究組織として、4月に総合学術高等研究院(IMS)を創設した。ビジョンを共有し、次代の社会課題解決に対応していく。
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横浜国立大学は14年に世界トップが狙える先鋭的な研究分野・領域を戦略的に集約した先端科学高等研究院(IAS)を創設しており、IMSは二つ目の高等研究院になる。研究者一人ひとりが持つ卓越した研究力を、組織的に強化する取り組みだ。
IMSでは学内外の多様な人材との対話を通じてありたい未来の社会像を描き、その実現に向け学際的研究を推進する。高等研究院は学長直轄の研究組織で院長を兼務する梅原出学長は「大学には多様な知があり、知を統合して社会課題と戦える仕組みを作りたかった。社会課題を解決するにはテクノロジー以外の知見も必要になる。ナンバーワンの研究を目指すIASに対し、IMSはオンリーワンの研究を目指している」と話す。
IMS創設に伴い、高等研究院としての組織体制を再編。IMSは数十人規模の4センターと、小規模な3ユニットで発足した。
従来のIASから、リスクとの共生・受容による安心安全な社会の構築を図る「リスク共生社会創造センター」と、台風災害のリスク低減のほか台風エネルギー活用に取り組む「台風科学技術研究センター」を移設。人々が能力を生かして生きる豊かな社会を目指す「豊穣な社会研究センター」、健康・医療・福祉にかかわる研究分野を融合する「次世代ヘルステクノロジー研究センター」が新設された。
またIMSのユニットは、組織内外の知識や技術の移転・共有の仕組みを明らかにして共創的革新を実現する産学官連携の戦略・マネジメントを探究する「共創革新ダイナミクス研究ユニット」がIASから移設され、新たに「生物圏研究ユニット」と「革新と共創のための人工知能研究ユニット」を設置した。
一方、IASは従来の「量子情報研究センター」と「先進化学エネルギー研究センター」、「情報・物理セキュリティ研究ユニット」に加え、「バイオアッセイ研究ユニット」、「超省電力マグノニックデバイス研究ユニット」、「電気エネルギー変換研究ユニット」が新設された。
梅原学長は21年の就任時から「知の統合型大学として、世界水準の研究大学を目指す」と唱え続けてきた。2年を経て創設したIMSについて「各分野で知を深掘りしつつ、調整して統合することが社会課題の解決につながる。世界水準の研究大学は、社会課題をとらえることでも世界水準でなければならない」と説く。
同大で二つになった高等研究院に参画する常勤教員は3割に迫る。文系・理系の垣根を越えた視点と実践力で社会課題の解決に挑む。
神奈川工科大学/問題解決のスペシャリスト育て地域貢献
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学長 小宮 一三氏 -
eスポーツの活動拠点となるほか、広く地域の方々との連携活動の場となる「KAIT TOWN棟(仮称)」
神奈川工科大学は2023年に創立60周年を迎えた。節目の年に策定した長期ビジョン「KAITビジョン60」では「伝統を礎に未来をつくる大学」を掲げる。DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとする社会の変化に対応できる、次世代を担う人材の育成を目指し、2024年度には学部学科を再編。実学を重んじた建学の精神を継承し、社会の要望に柔軟に応える応用力および実践力を身につけた問題解決のスペシャリストを育て、地域貢献を目指す。
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「社会の動きが激しい。生成AI(人工知能)などのDXが著しく進化する一方、環境問題などの課題も多い。時代が変わりゆく中、大学は変化に敏感で柔軟に対応できる人材を育てる必要がある」。小宮一三学長は学部学科を再編する狙いについてこう語る。
現在の5学部を24年度には工学部、情報学部、健康医療科学部の3学部に集約。3つに分かれている工学分野を工学部としてまとめ、工学関連の基礎力を底上げする。その上で、裾野を広げた学科で幅広い分野の知識を備えた人材を育てる。一方で、2学科を新設する。情報学部情報システム学科ではDXの要素技術はもちろん、ロボットやAIを活用したシステムづくりも身につけられる。バイオや化学技術で経済成長を狙うGX(グリーントランスフォーメーション)も重要だ。工学部応用化学生物学科では食品や薬品などの製品開発につながる専門技術を学ぶ環境を整える。変革の基盤には「実学を重んじるとともに、学生個別の思いやレベルに応じた対応で可能性を引き出す学生本位主義の教育を貫き、産業を担う人材を輩出し続けてきた」(小宮学長)という自負がある。その取り組みを今、時代の変化に合わせ進化させようとしている。
社会のあらゆる分野で今、AIを使いこなせる「AI人材」が求められている。神奈川工大は先進IT大学としてトップレベルのITの利用環境を整え、ITに関する最先端の教育・研究にいち早く取り組んできた。すべての学部・学科で数理・DS(データサイエンス)・AIの基礎教育を行っており、AIやDSに関する基礎的な能力を養う「MDASHリテラシーレベル」に2021年度認定された。工学部・情報学部ではさらに発展的内容を含む教育プログラムを展開しており、「MDASH応用基礎レベル」に県内私立大学で唯一2022年度認定されている。神奈川工大では生成AIに関する研究も始めており、企業とも連携した実践的なプログラムも今後は予定している。
キャンパス内では60周年の記念事業として、地域開放型施設「KAIT TOWN棟(仮称)」の開設を24年3月に予定している。「地域との連携をさらに広げる場として使うほか、学生主体のeスポーツの活動拠点としての活用を計画」(同)。未来に向けた、新たなステップづくりが始まっている。科学技術立国に貢献する人材を育て、地域社会との連携強化に務めるという建学以来の精神が変わることはない。地域社会や産業とのつながりをさらに強化し、ICT、AI、DS等の新技術を駆使して地域の課題解決や価値創出を進めることで、豊かで幸せな社会をつくることを今後も目指していく。
神奈川大学/100周年に向け大規模な改革を推進
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学長 小熊 誠氏 -
シーカヤックに乗艇して横浜港や海洋について理解と関心を深める「海の体験学習」
神奈川大学は2028年の創立100周年に向け、学部の新設・再編やキャンパス開設など大規模な改革を推し進めている。23年度には湘南ひらつかキャンパス(神奈川県平塚市)から横浜キャンパス(横浜市神奈川区)への理学部移転に併せ、同学部と工学部の既存学科を発展的に改組して化学生命学部と情報学部を新設。横浜キャンパスと21年度に開設したみなとみらいキャンパス(同西区)を学び舎に、文系・理系の全11学部22学科が横浜に集結した。国際都市・横浜の総合大学として、次世代と世界を見据える。
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みなとみらいキャンパスには20年度に新設した国際日本学部をはじめ、外国語学部と経営学部のグローバル系3学部が集まる。キャンパスがある横浜みなとみらい21地区には世界有数の企業や官公庁のほか、美術館や劇場など文化施設も多い。この環境を生かし、学生は“街ごとキャンパス”として地域の企業・施設などと連携した課題解決型学習(PBL)を通じ、実践的能力を育んでいる。このキャンパスで地域社会との連携拠点となっているのが「社会連携センター」だ。
同センターは自治体、企業などの団体、小中高校、他大学、地域住民などあらゆるステークホルダーと連携する総合窓口。総合大学の教育・研究をもとに地域課題解決に取り組み、未来社会を担う学生の育成や社会人に向けた学びの場を構築する。
一方、横浜キャンパスには22年度開設の建築学部を含めた理工系5学部と法学部、経済学部、人間科学部がある。創立95周年の今年度、化学生命学部と情報学部の新設により、横浜キャンパスで医歯薬系以外のすべての理工系分野を備える学部編成が整った。理工系各学部の連携を通じ研究・教育を発展させていく。
また、神奈川大には人や自然・文化・社会などと直接かかわる活動を経験できる実践的な学びを支援する科目として、全学共通の基本科目「体験型研修」がある。スポーツ系はもちろん、文化体験、自然体験、社会体験まで、さまざまな「地域」に触れる活動が用意されている。体験型研修は神奈川大伝統の実学教育だ。
その中の一つが、夏季休業期間中に開かれる「海の体験学習」。学生が海と港の歴史の講義やシーカヤック乗船訓練を通じて、身近な横浜港や海洋について理解と関心を深める。海の体験学習は国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標14「海の豊かさを守ろう―海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」ことの実践でもある。
神奈川大は28年の創立100周年に向けた将来像を「海により開かれ、世界との接点となった横浜に生まれた本学園は、多様な価値観の共存する時代に、人の交流と文化の融和、知識と実践の循環、教育と研究の融合による21世紀における『真の実学』を実現し、地域社会そして地球規模の課題を解決する、世界を惹きつけ、世界に発信する学園を目指します」と示している。
小熊誠学長は「整えた新しい教育環境を、学修成果に結びつけていく。新たな時代の『知』に対応する教育研究のあり方を模索し、すべての教職員が力を合わせて未来の神奈川大学を創り上げていきたい」と話す。
