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山形県産業
次の成長に向けて、地域に根ざす企業群の事業活動が活発化している。山形県は2025年度から29年度までの5年間を計画期間とする次期「山形県産業振興ビジョン」を始動する。これを指針に県内企業の成長を支える環境を整備していく。これまでにない連携で、新たなモノづくりなどに挑戦する動きも出ている。それぞれが次の成長を目指している。
次期産業振興ビジョン始動 来年度
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次期産業振興ビジョンの答申書を受け取った吉村美栄子山形県知事(左) -
車の鉄廃材で製作した「急須・冷酒器」
山形県産業構造審議会(長谷川吉茂会長=山形銀行会長)は3月3日、現行の「山形県産業振興ビジョン」の計画期間が24年度末で終了することから、次期産業振興ビジョンを取りまとめ、長谷川会長が答申書を吉村美栄子知事に手渡した。長谷川会長は「三つの柱が重要になる」と施策展開の方向性を説いた。
次期ビジョンは、未来のあるべき姿からのバックキャスティング手法を取り入れ、新たなビジョンづくりに挑戦した。その未来像(ありたい姿)は35年に設定した。スローガンは「共創×挑戦で未来を切り拓く」だ。
次期ビジョンの柱は、①「国内外に通用する新たな価値の創出促進」②「将来に渡り持続可能で強靱(きょうじん)な産業の構築」③「様々な分野における多様な人材の活躍」-の三つ。特に国内外に通用する新たな価値の創出促進は、発展的成長の視点との位置付け、地域資源のリブランディングとグローバル展開の拡大などを重点的取り組みに掲げている。県は一般から意見を募り、3月末までに次期産業振興ビジョンを策定する。
新たな価値を創出する事例としては、トヨタ自動車と菊地保寿堂(山形市、菊地規泰社長)がタッグを組んだ。今年2月に両社は山形県庁で、連携して製作した自動車の鉄廃材を原材料とする「急須・冷酒器」をお披露目した。県が両社を結びつけた。
山形鋳物工房と自動車メーカーの連携。今回再利用した鉄廃材はブレーキ関連の部材になる。新たな工法も取り入れ、アップサイクル製品とした。フランスなど海外との取引が多い菊地保寿堂。新たなコンセプトで生まれた今回の製品について、菊地社長は「すでに海外から問い合わせがある」(菊地社長)とし、地域資源となる山形鋳物の新たな可能性を示した。
インタビュー/日本政策金融公庫 山形支店長 神谷 努 氏
人手不足など、山形県内の産業を取り巻く環境は依然として厳しさがある。各方面との連携で県内中小企業の新たな取り組みをサポートする日本政策金融公庫山形支店の神谷努支店長に現況などを聞いた。
「省力化支援資金」取り扱い開始
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日本政策金融公庫 山形支店長 神谷 努 氏
ー県内の景況は。
「中小企業動向調査(24年10-12月期)では、県内の中小企業の景況は前期より少し改善していきている。海外の情勢もあり、先行きは見通しにくいが、改善の動きは続く方向にある」
ー設備投資の動きはどうでしょうか。
「良くなっているように感じている。DX(デジタル変革)を含めて生産性向上に向けた投資に意欲を持っているようだ。中小企業支援施策などを活用した将来を見据えた成長投資にも動きがある」
ー新たな取り組みは。
「この3月から一段の生産性向上をサポートすることから『省力化支援資金』の取り扱いを始めた。中小企業省力化投資補助金などの交付決定を受けた先が対象になる。人手不足など事業環境の変化に対応するため省力化は不可欠でもある。これまで以上に企業の省力化を支えていきたい」
ー企業の課題解決には各方面との連携が重要になっています。
「事業承継、海外展開、スタートアップ支援などさまざまな課題解決に向けて外部専門機関との連携は欠かせない。連携を深め、引き続き企業が抱える課題に応えていきたい」
各地の取り組み
次なる成長に向けた挑戦は続く。地域での取り組みを紹介する。
ワイム/個別受注生産体制を構築
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ワイムの本社工場(山形市)
配電盤、自動制御盤などを手がけるワイム(山形市、石澤進介社長)。受注から設計、板金、塗装、組み立て、出荷まで一貫して行う個別受注生産体制を構築しているのが強みだ。この強みを生かす生産拠点は山形市の本社工場と千歳工場(北海道千歳市)。最近は、北海道における最先端半導体関連向けなどの需要を捉えているという。
千歳市に最先端半導体工場の建設を進めるラピダス(東京都千代田区)向けに、ビジネス機会が広がった。ラピダスが整備する工場とワイムの千歳工場は車で近くの距離にある。アフターフォローも含めワイムの存在感はこのエリアで増した。千歳工場内の組立工場の増設、板金系機械設備の更新など新たな設備投資にも踏み切った。今後は量産に向けたラピダスの本格的な立ち上がり期待され、次なる展開も見込まれる。
田和楽/もみ殻くん炭製造に参入
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設置中のもみ殻炭化装置(2月、山形県三川町)
農作物生産・販売などを手がける田和楽(山形県鶴岡市、佐藤智信社長)。新たな取り組みとして、同社は精米後に発生するもみ殻を炭化する装置を導入し、もみ殻くん炭の製造に乗り出す。当面の計画では、年間約1200トンのもみ殻から同300トンのもみ殻くん炭の生産を見込む。奥山康光会長は「炭化したもみ殻を高品質なコメづくりに生かしていく」とし、これまで未利用だったもみ殻の再利用を狙う。
すでにプラントの設置に入っており、今後試運転を経てから、本格稼働につなげる。プラントは、山形県三川町内に設置した。奥山会長は「差別化を進めていきたい」としている。地元庄内の生産者グループらとの連携で、二酸化炭素(CO2)排出枠「J-クレジット」の創出にも取り組んでいく考え。
大波建具製作所/生産性向上へ業務デジタル化
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DXを推進する大波建具製作所
「まずはDX(デジタル変革)から進めたい」-。
大波建具製作所(山形県寒河江市)の大波和洋社長は、業務のデジタル化による生産性向上を強調する。
従業員数は約10人。このほど全員にタブレット端末を支給した。職人による匠の世界のイメージが強い建具業界では珍しい試み。木工業者向け業務改善システム「キーイノベーター」を導入。その活用を始めたばかりだ。大波社長は「目に見えて効率化が実現している」という。例えば、図面の共有化では、それぞれの案件の進ちょく状況が把握でき、修正点の確認なども共有化できるようになった。現場とのつながりがデジタル化され、働き方改革にも結びついている。
デジタル化に挑戦する建具会社として、職人を志す若者との接点づくりにも役立てていく考えだ。