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WORLD PM2024(2024年10月)
「WORLD PM2024(2024年粉末冶金国際会議)」が14日から17日までの4日間、横浜・みなとみらいのパシフィコ横浜で行われる。主催は日本粉末冶金工業会(JPMA)と粉体粉末冶金協会(JSPM)。論文発表と展示会で構成され、粉末冶金(パウダー・メタラジー、PM)分野の原料、製造設備、製品、関連技術に関する情報が世界中から集まる。論文発表の聴講には有料登録が必要だが、展示会への参加は無料。展示会の会期は14日から16日まで。登録受付所は13日の15時―18時にも開設される。
粉末冶金 高精度で大量生産 複雑形状の部品
PMは①プレス成形法②金属粉末射出成形法(MIM)③金属積層造形法(AM)―の大きく三つの製法に分けられる。
古くからある技術でPM市場のメインとなるプレス成形法は、金属粉を金型に入れてプレス機で軸方向に圧縮して固め、高温で焼結することで部品を作る。原料は鉄、銅、ニッケル、クロム、タングステン、モリブデンなどの金属粉を自由な配合で組み合わせられる。
同じ形のものを高い精度で大量生産でき、複雑形状の部品も製造可能。また、成形工程で金型に入れられた金属粉はそのまま押し固められて製品形状になるので、材料が無駄にならない。機械加工を少なくできるため後工程でのロスを抑えることができ、環境にも優しい。
またPM製品には金属粉間に「気孔」や「空孔」と呼ばれる隙間が残っている。この隙間に油を染み込ませることで、油の補給を必要としない軸受「含油軸受」を製造できる。
プレス成形法で作られる部品の8―9割が自動車などの輸送機械向けで、そのうちの約半分がエンジン向けの部品だ。高精度な部品を大量生産できる点が生かされる用途だ。同工法の国内生産額は年間約1400億円。
プレス成形法で作られた部品は、後述するMIMで作られた製品と比べると密度が低く、強度が弱いという弱点があったが、その弱点も近年改善してきている。成形時の金型と製品間の潤滑の目的で、金属粉の混合工程において潤滑剤が添加されるが、潤滑剤は焼結工程で空洞を生成し、密度を損なわせてしまう。そこで、潤滑剤の添加を極力減らし、金型に直接潤滑剤を塗布することで密度を高めている。
MIMは1970年代に提唱された、プラスチック部品製造で多用される射出成形法と、前述したプレス成形法を組み合わせた製法。金属粉とバインダー(プラスチック+ワックス)を混ぜ合わせてペレットを作り、それを射出成形機で成形する。その後、加熱や溶媒によってバインダーを取り除く脱脂作業を行い、焼結する。
完成品に近いニアネットシェイプの3次元(3D)形状の製造が可能で、10マイクロメートル程度の細かい粉を使うため気孔ができにくく、プレス成形法よりも高密度・高強度が得られる。あまり大きな製品は脱脂しきれないことがあるため、比較的小さな製品の製造に使われる。産業機械や医療、自動車など幅広い分野で使われている。
JPMAの射出成形粉末冶金委員会は、ほかの製造法と比べてマイナーなMIMを普及させるため、講習会の開催や展示会への出展など啓蒙(けいもう)活動に取り組んでいる。
AMは昨今伸びている比較的新しい製法で、金型を用いずに3Dデータモデルを基に金属粉などの材料を積層することで形状を作る。レーザービームを用いる方法やバインダーを用いる方法などがある。
航空宇宙や医療分野の製品や試作品などの製造に用いられることが多く、欧米で特に活用が進んでいる。複雑形状や少量生産のスペシャル品の製造に向いている。
WORLD PM 見どころ
世界各国のPMに関する情報が一堂に会するWORLD PMが、パシフィコ横浜で開催される。同会議は2年に一度、地域を欧州、北米、アジア地区と移しながら開催されている。日本では同じく横浜で行われた2012年以来12年ぶりで、今回が4回目の開催となる。公用語は英語。
JPMAとJSPMが主催し、欧州粉末冶金工業会(EPMA)、米国粉末冶金連盟(MPIF)、アジア粉末冶金連合(APMA)が支援する。論文発表と展示会によって構成され、論文発表は会議センターで、展示会は展示ホールAで行われる。
展示会
展示会には登録を行えば誰でも無料で参加できる。約100社が出展し、最新の原料、製造設備、製品、技術などが集まる。会場内には日本のMIM関連企業が共同出展するMIMブースが設けられる。
セミナー
また15日は4社、16日は8社による出展社セミナーが開かれる。
さらにJPMAスペシャルセミナーとして、15日14時から「工業会賞発表」が、同日15時半から「効率化事例発表」が行われる。工業会賞はJPMAが1979年度に始めた表彰制度で、2023年度で45回目を迎えた。会場では19年度から23年度までの受賞の中から四つを紹介する。
日本のPM産業における効率化のテーマは自動化、省エネルギー、品質向上である。これらのテーマに関連する19年から23年にかけての取り組み事例を、住友電気工業、ファインシンター、NTNアドバンストマテリアルズ、ダイヤメット、ポーライトの5社が説明する。
論文発表
また有識者による講演やセッションなども行われる。世界をよりよくするためのホットな話題である、PMにおけるカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)、サーキュラーエコノミー(循環型経済)と持続可能性、デジタル変革(DX)に関する講演などが予定されている。
また14日の9時半からはグローバルレビューとして、APMAのチュールン・チュウ会長、MPIFのマイケル・スタッキー会長、EPMAのラルフ・カールストローム会長が発表を行う。
粉末冶金 今後の展開
JSPMによると、最近のPMの動きとして、電場や磁場に代表される物理的な「外部場(がいぶば)」利用に関する研究が進んでいるという。外部場を積極活用し、従来の材料開発手法で達成しにくかった高効率な材料製造プロセスの実現や、材料に新たな微細組織や機能の発現などにつなげるというもの。特に、循環型社会実現などの社会的要請に応えるために今後の展開が注目される。
個々の講演では、AM関連が約70件でその多さが目立つ。全カテゴリーの中で131講演と今回最多のプロセシング部門の半数以上、現時点の全講演数(329件)の20%強を占める。WORLD PMにおいて、AMは2016年の米国開催時に初登場したが、その後、従来のラピッドプロトタイピングからAMに中心が移ってきていることを如実に表した結果といえるだろう。
日本のPMは硬質材料や切削工具、磁石などは世界をリードする存在となっている。その中でMIMはある程度研究に落ち着きが見られる。一方、AM関連にはまだ研究開発の余地を残している。業界的には自動車産業でEVへの転換が進むとみられるため、こうした今後成長が見込まれる新たな市場にいかに関われるかが重要になる。
それだけに、世界をリードする分野と研究が活発化する外部場利用やAM関連などを組み合わせ、“未来志向”で日本のPMに生かすことが、今後の発展には欠かせない。
ごあいさつ/組織委員長 日本粉末冶金工業会 会長(福田金属箔粉工業社長) 園田 修三
WORLD PMは北米、欧州、アジア地区で隔年で開催されるPM業界における最大規模の国際会議です。日本ではアジア地区初開催となった1993年(京都)以降、2000年(京都)、2012年(横浜)に開催し、12年ぶりに同じ開催地である横浜で4回目の国際会議を開催します。
前回から12年が経過し、この間、世界では新型コロナウイルス感染症のパンデミック、紛争などが発生し、この影響によりPM業界も大きな打撃を受けました。また、電気自動車(EV)に代表される産業構造の変化や、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成およびライフサイクルアセスメント(LCA)の実施など、我々の業界が解決すべき問題が山積していますが、この変化に果敢に対応することでPM業界は今後も拡大、成長していくものと確信しております。
その試金石となるWORLD PM2024は「Make a better world with PM(PMでより良い世界をつくる)」をテーマに、世界30カ国以上、約1000人(有料登録者)の参加を予定しています。
本会議は論文発表と展示会が併催されます。有料登録者が聴講できる論文発表はPMの最新の研究が329件、無料で参加できる展示会は最新の原料、設備、製品などの展示140小間規模の出展を予定しております。
最後に、WORLD PM2024は世界各国からPMの英知が結集する会議となりますので、PM関係者以外の方もご参加いただき、情報収集、交流を図り、参加者の皆さまにとって実りの多い会議となることを祈念しております。
メッセージ/アジア粉末冶金連合 会長 Chiu-Lung Chu(チュールン・チュウ氏)
WORLD PM2024には世界中から専門家が集結し、技術的な議論や論文発表、展示会に参加します。
PM業界は特にアジアでは未曽有の変化に直面しており、今回の会議は極めて重要な時期に開催されます。今も続く新型コロナウイルス感染症の世界的流行、ロシアとウクライナの紛争、イスラエルとハマスの紛争、紅海での緊張の高まり、EVの隆盛は大きな変化をもたらしています。
本会議はこうした変化に業界として対処するための重要な機会です。世界中の専門家が成功体験を共有し、将来戦略を探求する場となります。技術革新を促進し、世界のPMコミュニティーにおけるより緊密な協力関係を築くものであると確信しています。
APMAを代表し、主催のJPMAとJSPMに感謝します。会議が実り多きものとなり、業界にとって多大な成果をもたらすことを期待します。
メッセージ/欧州粉末冶金工業会 会長 Ralf Carlström(ラルフ・カールストローム氏)
電動化と持続可能性の課題がもたらす根本的な変化が生じている現代において、PM業界が一丸となり、その技術力を持って対処することが重要だと考えます。WORLD PM2024はそのために同業者や姉妹団体と交流を深め、将来の活動について議論し、結論を導き出す絶好の機会です。
JPMAをはじめとする世界のPM工業会が長きにわたって築いてきた協力関係は、業界にとって不可欠なことだと認識しています。
例えば「グローバルPM特性データベース」は、PMの原料粉の共通データソースとしてエンジニアリング産業で利用されており、数百種類のグレードの原料粉に対する数千種類の試験結果を示すデータが、各国の広範にわたる情報源から収集されています。このデータベースはEPMA、MPIF、APMA、JPMAが共同で支援しています。
メッセージ/米国粉末冶金連盟 会長 Michael Stucky(マイケル・スタッキー氏)
製造業は2020年代初頭から多くの課題に遭遇しており、20年代後半に向けてさらに多くの課題が待ち受けています。したがって、隔年開催のPM国際会議であるWORLD PM2024を支援することは、PM産業の発展にとって極めて重要です。
日本の国際ビジネスとイノベーションの一大拠点である横浜で、教育とネットワーク、コラボレーションを通じたPM技術の継続的な発展という共通の目的掲げる世界のPM産業関係者が、直接顔を合わせて交流することで、この国際会議の目的達成に大きく近づくことになります。グローバルなPM技術の継続的な発展のため、関係者が一堂に会して最新の材料や技術動向に関する調査結果を共有し、技術移転の支援を促進することは、業界の責務といえるでしょう。