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廃棄物処理技術
プラスチックのマテリアルリサイクルを促進していくには、素材や色に応じた高精度の分別、そして汚染物と異物の除去が必要不可欠となる。プラスチック素材の単一化や共通化、適切な分別行動へ誘導できるデザインなど従来にない新たな試みが開発されつつあるが、回収プラスチックの品質は機械的選別プロセス(人による手選別を含む)でしか担保できない。今までは雑多過ぎる回収物でも安定して選別処理できる頑健性こそが始めに求められる要求項目であったが、高精度化がいよいよ求められつつある。 【執筆者】 東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 地球環境共創コース 教授 高橋 史武
プラスチックのマテリアルリサイクルにおける選別の高度化と今後の技術開発
使用済みプラ100%有効活用 素材ごとの選別カギ
サーキュラー・エコノミー(循環経済)形成に向けて重要なカギの一つが、プラスチックのリサイクルである。政府が2019年に策定した「プラスチック資源循環戦略」では、30年までに使用済みプラスチックを100%有効活用(リユースやリサイクルなど)する目標を掲げている。プラスチックをプラスチックとして循環利用するマテリアルリサイクルは、プラスチック循環利用協会調べによると、23年度は22%に留まっており、さらなる向上が求められている。
プラスチックはポリエチレン(PE)やポリスチレン(PS)など素材によって特性が異なる。マテリアルリサイクルではどのくらい精度高くプラスチックを素材別に選別できるかで、リサイクルの容易性や応用性が大きく異なってくる。素材判別にはプラスチックの物理的特性(密度や強度、透明性)を用いるほかに、近年では化学的特性(赤外線分光)を利用して判別する技術が急速に開発され、実用化に至っている。
22年度のプラスチックの総排出量は約823万トン。このうち約52%が家庭部門に由来しており、残りが産業部門となる。産業部門では工場からのプラスチック端材のように素材が明確であることが多く、素材別収集が比較的容易である。
一方で家庭部門ではペットボトル(PEテレフタレート)と白色トレー(PS)などが素材別に回収されており、それ以外のプラスチックは混在されて回収されるシステムとなっている。これを機械的選別プロセスだけで素材ごとに精度高く選別することは困難であり、プラスチックが回収ルートに入る前に少しでも素材ごとに分別されることが望ましい。
人をサポートする技術 選別の高精度化 実現
上流側の製造段階での対策として、プラスチック資源循環促進法の「プラスチック使用製品設計指針」では単一素材化を推奨している。メーカーの枠を超えてプラスチック素材の共通化を図ることで、消費者自身によって素材ごとに分別しやすくできる。ただし輸入される製品に含まれるプラスチックは総排出量の約26%(約218万トン)に該当しており、プラスチック使用製品設計指針が有効に働くほど、それが貿易上の非関税障壁として問題視されるリスクを含んでいる。
また、消費者による分別をどこまで促進できるかという課題もある。そこで適切な分別行動へ誘導できるデザインなど、心理的アプローチによる分別促進など従来にない新たに試みられつつある。
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投入口が下向きになっているペットボトル用ゴミ箱㊨
その一例がペットボトル用ゴミ箱(写真)であり、下からペットボトルを入れなければならない「やや煩わしい」デザインを採用することで、ペットボトル以外の異物混入を避ける効果を狙っている。
製造段階での単一素材化や心理的アプローチによる分別促進は下流側の選別負荷を下げることが期待できるが、回収プラスチックの品質(選別精度)は機械的選別プロセス(人による手選別を含む)でしか担保できない。今までは雑多過ぎる回収物でも安定して選別処理できる頑健性こそが第一の要求項目であり、選別の高精度化はその次に位置づけられるものであった。
マテリアルリサイクルが社会的に強く要請される今後は、選別の高精度化がいよいよ求められていく。バブル経済時、製造業では機械によるオートメーション化が大きなトレンドであったが、半導体製造など一部の業種を除いて、人的労働力を活用したプロセスへ回帰した例が多い。機械化プロセスのトラブル修復には人的労働力が必要であり、人的労働力には高い柔軟性と即応性という利点があるからである。
多様な素材が混在するプラスチックの選別は、他の産業以上に高い柔軟性と即応性が必要とされる。選別の高精度化において赤外線分光やAI(人工知能)による画像判別など最新技術の導入が有効である一方、手選別をより高精度化させる技術、つまり人的労働力をサポートして強化する技術開発も同等かそれ以上に有効である可能性がある。