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生活に欠かせないインフラとして進化
新領域
近年、国内倉庫各社はノウハウを生かし、事業範囲を拡大している。三菱倉庫は中国のEV大手・BYDの日本法人と契約し、日本で販売される輸入車の入港から整備、国内輸送、補修部品の保管・全国配送にいたる物流業務を一気通貫で受託した。EV普及の波に乗り、成長を見込む。
医薬品物流も期待の分野だ。安田倉庫は3月末に、エーザイの完全子会社のエーザイ物流(神奈川県厚木市、10月1日付で安田ロジファーマに社名変更)を買収し、医薬品物流事業を強化する。
三菱倉庫は医薬品物流用の品質管理プラットフォーム「MLチェーン」を開発した。供給網全体を見える化することで、厳格な温度管理や偽物の混入対策を行い、高品質な医薬品物流を実現する。
課題解決
環境負荷の軽減や人手不足といった課題を解決する新技術も登場している。
三井倉庫ホールディングス(HD)は、世界の供給網の二酸化炭素(CO2)排出量を可視化するサービスを開発。このほど日本物流団体連合会の第24回物流環境大賞で「先進技術賞」を受賞した。簡易算定を行う「MS CO2ナビゲーター」と一括算定を行う「MS アナライザー」を提供、すでに300万件以上の輸送データの算定実績がある。
安田倉庫は、省人化・省力化のため、6月から東雲営業所(東京都江東区)にラピュタロボティクス(同)の自動フォークリフトを試験運用のため導入した。安田倉庫は22年にラピュタの自動搬送ロボット(AMR)を導入しており、これに続く取り組みとなる。
他社との連携も増えており、三井倉庫HD傘下の三井倉庫ロジスティクスは自動運転トラックによる幹線輸送サービスの事業化を目指すT2(千葉県市川市)へ出資した。
また、三井倉庫ロジや安田運輸(横浜市神奈川区)は、デンソーなどとともに業種の垣根を越えた「幹線中継輸送」の実証実験に参加。関東と関西の集積拠点間の長距離輸送をトラック3台でリレーした。複数の荷主と複数の運送業者が荷物を運ぶ新しい輸送形態「SLOC」の社会実装を目指す。
海外拡大
各社が成長の場とにらむのは海外市場だ。
三菱倉庫は5月、医薬品・ヘルスケア物流などを行う米・英のキャバリエ・ロジスティクスグループ4社の買収を決定。さらにベトナムの物流企業「イン・ドゥ・トランス・ロジスティクス・コーポレーション(ITL)」の株式保有比率も引き上げた。
住友倉庫は5月、タイ最大の貿易港を擁するレムチャバン地区に敷地面積約3万2600平方メートルの3期倉庫を完成させた。
安田倉庫は国際輸送の手配などを行うフォワーディング(利用運送)事業をシンガポールとインドで始める。両国に新会社を設立した上で、現地企業から9月末および12月末までに営業権を取得し、事業を譲り受ける。
国内新設
国内においても需要に応えるため、倉庫の新設が相次ぐ。渋沢倉庫は、大阪府茨木市にリチウムイオン電池(LiB)を取り扱う危険品倉庫を建設し、24年3月に完成させる。神戸市中央区の新港第七突堤の普通倉庫も建て替え、同年4月に危険品倉庫2棟を新設する。
ケイヒンは横浜市中区の本牧ふ頭に延べ床面積約2万4000平方メートルの新倉庫を建設する。24年8月の完成を予定する。高付加価値商品に対応した定温庫を備えており、商品の入庫から保管・出庫までの荷役作業・流通加工、配送手配まで、さまざまな要望に対応する。生活に欠かせないインフラとして倉庫の進化は続く。
ごあいさつ/2024年問題「行動計画、年内策定」―日本倉庫協会 会長 久保 高伸 氏
日本倉庫協会は倉庫業の健全な発展を図り、公共の福祉に寄与することを目的として、全国各地の地区倉庫協会を通じて約2600社の営業倉庫事業者が加盟する事業者団体です。
倉庫業は大量かつ多様な物資をそれぞれの特性に合わせて適切に保管することはもちろん、サプライチェーンにおける陸海空の輸送モードの結節点として物流の効率化や安定性を確保することで、産業活動や国民生活を支える公共性の高い産業です。コロナ禍においても「エッセンシャル・ワーカー」としてその役割が再認識され、社会・経済活動の維持に貢献してきたところです。
さて、物流業界では来年4月に迫ってきた「2024年問題」への対応が喫緊の課題となっています。本年6月、政府は荷主企業や物流事業者および一般消費者が協力して対処するよう「物流革新に向けた政策パッケージ」を取りまとめております。
倉庫業界としてもこの政策パッケージに基づき、トラックドライバーの待機時間の削減をはじめとする持続可能な物流の実現に向けた自主行動計画を年内に策定する予定です。
計画には荷主サイドの協力が不可欠な事柄も多く、政府の方針に従って荷主との連携を図ります。また、自動化・機械化など物流のデジタル変革(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)の推進にあたっては政府に対し予算・税制面での支援策の強化を要望しております。
今後もさまざまな事業環境の変化に対応する必要がありますが、引き続き倉庫業に求められる役割を果たすよう取り組んで参ります。