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業種・地域から探す
和歌山産業界
和歌山県は人口減少や高齢化、産業の縮小など厳しい状況に置かれている。一方、豊富な観光資源を生かし、和歌山県の良さをアピールすることで地域の活性化につなげようとしている。10月13日に閉幕した2025年大阪・関西万博は世界中の人々に感動を与えた。今後、万博でのレガシー(遺産)をどう生かすか。産業界と行政が一体となり地域活性化の道を探っている。
万博のレガシー 次世代に
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関西館にあった和歌山ゾーン
万博閉幕から1カ月がたち、万博会場だった夢洲(大阪市此花区)のパビリオン(館)の撤去が進められている。和歌山県は万博期間中、京都府や兵庫県など関西1府8県が参加する「関西館」での展示や、独自イベントなどで県の魅力をアピールした。
閉幕直前には関西館で148万人の来場者を記録。関西広域連合の三日月大造広域連合長は「世界から夢洲に集まった英知をレガシーとして次世代に引き継ぎ、社会を豊かにする歩みを続けたい」とコメントした。
海外との連携
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ポルトガル館で和歌山県の梅酒とポルトガルのワインが振る舞われた
万博では国内外から多くの人が訪れるとともに、国内外のパビリオン同士での交流も盛んだった。和歌山県はポルトガル館と共同で、梅酒とワインの試飲イベントを7月に実施した。ポルトガル館と和歌山県職員との交流の中で連携企画が実現。和歌山県の梅酒とポルトガルのワインがポルトガル館で振る舞われた。和歌山県知事室万博推進課の長谷川雄一主査は「多くの種類の梅酒があることを知ってほしい」と呼びかけた。
和歌山県は梅作りで有名。特にみなべ町と田辺市にまたがる「みなべ・田辺の梅システム」は、梅作りを中心に備長炭原料のウバメガシ林による土壌流出の防止や、ミツバチによる受粉など持続可能な農業システムがあり、世界農業遺産に認定されている。酒のイベントを通じてこうした持続可能な開発目標(SDGs)の仕組みを海外に発信した。
従来の和歌山での取り組みを万博で披露する企画もあった。和歌山県や東京大学、イタリア館は7月、「高野山会議イタリア」をイタリア館で開催。回転により花弁が開く「利他の蓮華」のオブジェを利用したデモンストレーションを実施した。天球儀を頭上で支えている大理石の彫刻「ファルネーゼのアトラス」などの展示物が立ち並ぶ中、利他の蓮華を参加者が協力して回し花弁が開く様子に多くの人の目が惹きつけられた。
ミライの給食
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和歌山県の食材を生かして作った「ミライの給食」
地域の問題提起として開催されたイベントもある。和歌山県は10月1日、和歌山ゾーンで「ミライの給食」をテーマにしたイベントを開催した。和歌山市出身のフランス料理人の松本一平氏が、和歌山県の食材を活用し、和歌山県の牛肉を使ったハンバーグや「足赤えび」のムース、紀州鴨の燻製(くんせい)などを提供。和歌山県の生産者は自社の食材を解説し、訪れた親子連れはおいしそうに料理を頬張っていた。
松本氏は「子どもたちに和歌山県のことを知ってもらうとともに、普段は顔が見えない生産者との接点を作ることで生産者の意欲を高めたい」と狙いを明かす。
万博をきっかけに観光地に誘客
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パイル織物資料館で伝統織物を体験
万博への訪問を契機に実地に足を運んでもらう試みも進む。和歌山県は和歌山ゾーンで紹介している伝統産業や歴史・文化などを現地で体験してもらうため、海外メディアや訪日ツアーを扱う旅行会社を対象にしたツアーを7月に実施。和歌山の梅酒の酒造や高野山金剛峯寺(和歌山県高野町)などを巡った。そのコースの一つとして和歌山県の伝統的織物「高野口パイル」を展示するパイル織物資料館(和歌山県橋本市)を訪れ、織物の体験を実施。参加者は足でペダルを踏みながら横糸を通す作業を体験した。海外からの訪問者は伝統的な技術に興味津々だった。
和歌山県は10月30日に観光客動態調査を公表。和歌山市や高野町、那智勝浦町などの主要観光地7カ所で7—8月の宿泊客数は前年比6・8%増の79万人、日帰り客は同9・5%増の258万人となった。万博開催によるインバウンド(訪日外国人)の増加が一因とみられる。
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イタリア館に展示された「利他の蓮華」
万博の経験を生かし、レガシーを活用する取り組みが重要だ。和歌山県立近代美術館(和歌山市)では26年2月14日—5月6日に万博の歴史と意義を振り返る展覧会を開催する。日本と万博との関わりや博覧会空間の変遷や、和歌山ゾーンの象徴だったトーテムを展示。またイタリア館で展示された利他の蓮華は26年末まで和歌山県立博物館(和歌山市)に展示される。万博のレガシーを再考する機会を提供する。
和歌山商工会議所の竹田純久会頭(セイカ会長)は「万博で和歌山は観光面で刺激をもらえた。こうした流れを継続し、和歌山の良さをアピールしていきたい」とする。万博が作った流れを和歌山県の活性化につなげていく。
