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和歌山産業界
和歌山県は人口減少や高齢化、重工業の事業縮小など厳しい状況に置かれている。一方で、豊富な観光資源を生かし、和歌山県の良さをアピールすることで地域の活性化につなげる取り組みが進む。2025年の大阪・関西万博を約5カ月後に控え、インバウンド(訪日外国人)の受け入れ態勢を整備し誘客を促す。官民一体で地域活性化の道を探る。
観光産業を強化し地域活性化
万博活用した誘客重要
和歌山県には和歌山城や景勝地である「和歌浦」、砲台跡が残る「友ヶ島」などの和歌山市エリアをはじめ、白浜温泉(和歌山県白浜町)、和歌山県北部の高野山など、外国人に人気の観光地が多く点在する。和歌山県の調査によると、23年の観光客総数は3194万人。その中で宿泊客が492万人で、外国人宿泊客が38万人を占める。
今後、増加が見込まれる外国人観光客を和歌山県に誘導するには万博を活用した誘客戦略が重要だ。和歌山県は万博期間中の観光消費による経済効果を330億円と試算している。万博への取り組みを通じ、地場産業や観光資源の発信、ビジネス機会の創出などにつなげる。万博後にも次の旅行先として選ばれるよう万博会場で和歌山県の魅力を発信する計画だ。
観光業の活性化には観光資源の磨き上げ、効果的な情報発信や誘客促進、観光客の受け入れ環境の整備が必要になる。そんな中で一大観光地として期待されているのが、和歌山県初のロケット打ち上げを予定する和歌山県串本町だ。
宇宙ベンチャーのスペースワン(東京都港区)は、カイロスロケット2号機を12月14日に専用の射場であるスペースポート紀伊(和歌山県串本町)から打ち上げる。「見学チケットは2日程度で完売した」(岸本周平和歌山県知事)と、ロケット打ち上げへの地元の期待は大きい。大阪府や和歌山県から多くの見物客が訪れる予定だ。
スペースワンの豊田正和社長は「30年代に年間30機の打ち上げサービスを提供する」と意気込む。打ち上げが成功し利便性の高い宇宙輸送サービスを確立できれば、部品・組立工場の誘致や人工衛星の開発、射場からのロケット打ち上げ、農業や漁業など地元産業での衛星データの活用など、一気通貫の産業集積もありうる。
またスペースポート紀伊の付近は本州唯一の亜熱帯地域。サンゴ群落があり魚も豊富で、ダイビングスポットとなっている。南紀白浜空港(和歌山県白浜町)まで車で1時間半ほどの距離にありアクセスは良い。ロケット打ち上げを起点としたリゾート観光地への転換を目指す。
インバウンド受け入れ態勢整備
インバウンドの受け入れ態勢の整備が進む。南紀白浜エアポート(和歌山県白浜町)とティファナ・ドットコム(東京都目黒区)は、7月から南紀白浜空港で対話型人工知能(AI)による観光案内の実証実験を実施。空港に設置したデジタルサイネージ(電子看板)に観光客が話しかけると、AIアバター(分身)が顧客に合わせた交通・観光プランを提案する。日本語や英語、中国語、韓国語に対応する。
こうした取り組みは観光客の満足度向上による誘客や空港スタッフの負担軽減につながる。また京都市のような人気の観光地ではオーバーツーリズム(観光公害)が大きな課題。リアルタイムでの混雑情報の提供やAIでの観光客の分散誘導などで、オーバーツーリズムの緩和にもつながるかも知れない。
同様の対策として、田辺市熊野ツーリズムビューロー(和歌山県田辺市)は、顧客データから旅行客が集中する時期を分散し平準化するような旅行予約システムを開発している。オーバーツーリズムの解消とともに、見込み客の取りこぼしを防ぐ対策を進める。
県内では地域と企業の協力体制が構築されている。和歌山県と紀陽銀行、南海電気鉄道は7月、県民サービスの向上や地域の活性化を目的とした包括連携協定を締結。和歌山県の観光地への誘客のため、富裕層向けの高級ホテルの誘致や既存ホテルの改修など、観光地への滞在拠点の整備に向け3者で協力する。さらに地域の新しい産品の開発やプロモーション活動などの観光振興を通じ、地域活性化につなげる。南海電鉄の岡嶋信行社長は「エリアを点ではなく面でつなげていく。地域と共創し、ツーリズムを通じて魅力の高い地域づくりに貢献したい」と強調する。
観光資源の磨き上げや受け入れ客の整備などを通じ、和歌山県は発展への道を模索していく。