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和歌山産業界
和歌山県は4月、和歌山県の成長産業に関する指針「わかやま成長産業開拓ビジョン」を策定した。少子高齢化や重工業の事業縮小など厳しい環境にあるが、脱炭素事業への転換や豊富な観光資源の活用などで、和歌山の良さをアピールし地域活性化につなげる。世界的な潮流と和歌山県の地域特性を生かし、魅力的な街づくりを推進。官民一体となり地域活性化の糸口を探る。
地域活性化に向けた成長戦略
廃食油原料にSAF量産
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ENEOSの和歌山製造所
和歌山県は人口が減り続けており2040年の生産年齢人口は1985年に比べ約半分となる37万人に落ち込むと試算されている。近年では重工業の事業縮小で人口流出や遊休地化などが起き、取り巻く環境は厳しい。
一方、世界的な潮流となっているカーボンニュートラル(温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)が実現する未来を見据え、脱炭素社会を支える取り組みが加速している。政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)実現に向け、今後10年間で150兆円の官民投資と20兆円の政府支援の方針を掲げている。わかやま成長産業開拓ビジョンでは、和歌山県内でGXの事業を進める企業や産業創出などに対し、30年ごろに1兆5000億円超の投資を実現する中間目標を掲げている。
脱炭素社会を支え将来の和歌山県を担う産業という観点で、和歌山県は同ビジョンの中で成長産業の候補を挙げた。その一つが化石燃料に比べ8割の二酸化炭素(CO2)削減効果が見込まれる持続可能な航空燃料(SAF)。SAFは国際的に需要が拡大すると見込まれている。政府は30年までに国内の航空会社での燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げ、国内で171万キロリットル、世界で7200万キロリットルのSAFの供給を見込む。
ENEOSが23年10月に石油精製を停止した和歌山製油所(現和歌山製造所、和歌山県有田市)では26年度にも廃食油を原料にSAFを量産する計画で、国内最大規模となる年間40万キロリットルを製造する。運用やメンテナンス、運輸など従来の石油精製事業と親和性が高い人材を活用することで雇用拡大が見込める。これは従来の石油産業から脱炭素事業への転換モデルとなり、廃食油や森林資源などの地域資源を活用した社会貢献モデルとなり得る。
こうした動きに合わせ、県は24年度当初予算で、一般家庭から使用済み食用油の回収事業の費用を計上。7月から和歌山市と海南市、有田市の3市で家庭から出た使用済み油をスーパーの店舗などで回収し、バイオディーゼル燃料に変える実証実験を始める。同燃料は収集・運搬車両や25年大阪・関西万博の建設工事の建設機械などに利用する計画だ。ENEOS和歌山製造所で生産予定のSAFへの活用を見据えて実証を進める。岸本周平和歌山県知事は「実証では多くのモニターの参加が必要になる。多くの人に関心を持ってほしい」と実証への参加を呼びかける。
車載電池・宇宙産業に期待
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和歌山県の成長産業として期待される打ち上げロケットのモデル
和歌山県の成長産業として期待されているのが蓄電池産業だ。電気自動車(EV)の普及に向け、車載用の蓄電池の重要性が増す。政府は30年までに年間150ギガワット時(ギガは10億)の国内製造基盤の確保を掲げる。また蓄電池は経済安全保障上の特定重要物資に位置づけられ、国内での製造の重要性が増すだろう。
その蓄電池産業の中心となるのがパナソニックエナジーの和歌山工場(同紀の川市)だ。同工場では大規模な投資が実施され、新型車載用バッテリー「4680」の24年度中の量産開始を予定する。関西エリアには蓄電池産業が集まっており、新型の車載用バッテリーの国内唯一の生産拠点がある強みを生かし、関西エリアでの供給網の重要な一翼を担うと期待される。さらに関西エリアでの人材の育成や確保の取り組みに県内の工業高校も参加。政府が掲げる30年までに供給網全体で3万人の人材育成・確保のうち、関西エリアでの雇用は今後5年間で1万人を見込む。
さらに和歌山県で盛り上がりを見せているのが宇宙産業だ。和歌山県串本町にはスペースワン(東京都港区)が建設した国内民間初となるロケット発射場「スペースポート紀伊」がある。世界で競争が激化する小型衛星の打ち上げ拠点として、30年代初めに年間30機の小型ロケットの打ち上げを計画する。この地域を中心に国内のロケット打ち上げ拠点として宇宙産業の集積が期待される。
3月に打ち上げられた同社の小型ロケット「カイロス」初号機は発射直後に爆発し残念ながら打ち上げは失敗に終わった。だが宇宙ベンチャーが創業初期に打ち上げを失敗する事例は多く、岸本知事は「これを失敗とは思っていない。真相を解明し、次の打ち上げにつなげてほしい」と訴える。
串本古座高校(和歌山県串本町)では全国初となる宇宙専門コースが4月に新設されるなど、ロケット打ち上げを通じた地域の期待は大きい。今後、宇宙機器の部品製造や衛星開発などの宇宙産業の集積に加え、観光業の活性化や衛星技術を活用した農林水産業の効率化など、既存産業との相乗効果で和歌山県の発展が期待される。