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ENEOS製油所が休止
跡地でSAF製造・供給
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10月に製油所機能を停止したENEOS和歌山製油所
和歌山製油所跡地では26年度をめどに、廃食油などを原料にした「持続可能な航空燃料(SAF)」の製造が始まる見通しだ。航空業界は、SAFを利用するようになると、従来のジェット燃料と比べて二酸化炭素(CO2)排出量を約8割減らせると試算する。
ENEOSは仏トタルエナジーズとの協業で、和歌山製油所跡地における事業化調査に乗り出す。周辺から廃食油や獣脂といった廃棄物などを回収して原料とする。いずれ両社で合弁会社を設立し、年間約30万トン(40万キロリットル)のSAFを製造、供給する構想だ。
当初は、ENEOS根岸製油所(横浜市)での調査実施を計画していたが、和歌山製油所の跡地・人材活用のために変更した。9月にはENEOS、自治体が、ともに検討を進めてきた「和歌山製油所エリアの今後の方向性について」中間とりまとめの節目を迎え、その一部を公表した。SAFの製造などエネルギー関連事業を集積させ、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を先導するGXモデル地区「未来環境供給基地」との将来像を描いている。
雇用創出へ新産業誘致
広大な石油基地の跡地に、太陽電池を敷き詰めて再生エネルギー基地をうたう訳ではない。雇用を創出する新産業の誘致を念頭に置く。岸本周平知事は、県内の開発済み工業団地も含めて「(県独自の手厚い立地補助金制度を訴求して)循環経済(サーキュラーエコノミー)に資する企業を誘致したい」との考えを示す。GXは県の産業立地、企業誘致にとって大きなテーマであり、チャンスであると見ているようだ。
岸本知事はまた、ENEOSが和歌山製油所エリアで、合成燃料を製造することにも期待を寄せている。合成燃料は、再生可能エネルギー由来の水素と二酸化炭素を用いて作る液体燃料。人工的な原油とも言われ、製造・輸送で既存インフラを活用可能だ。要素技術の開発を進めており、ENEOSは27年度にもパイロットプラントの実証検証を目指すとしているが、立地についての明言はない。
GHG削減目標を上方修正
和歌山県は8月、2030年度の温室効果ガス(GHG)排出量について、13年度比46%減とする新たな削減目標を設定した。従来は13年度比30%減としていたが、20年度実績で31%減を達成したため、目標を上方修正した。長期では、国の目標である50年度にGHG排出量実質ゼロすなわちカーボンニュートラルを目指す。
県産業はエネルギー多消費型の重化学工業が主力であり、排出量全体に産業セクターが占める割合は大きい。目標の前倒し達成は、日本製鉄の生産縮小が大きく寄与した。13年度の排出実績は945万トンで、県内産業セクター全体の77%を占めていた。高炉1基の停止に踏み切った20年度は587万トンに減っており、省エネ努力の効果というより、生産減に伴う減少だ。
日鉄の技術革新織り込む
日鉄は水素還元製鉄による排出量削減に向けた研究などを進めている。新目標は日鉄が今後想定する貢献分を織り込んだ。岸本知事は「(日鉄幹部と意見交換しており)十分達成可能な数字」との手応えを明かす。また、ENEOSの休止による削減量は年78万トンと見込まれている。
一方、地場産業でもある化学業界の排出量削減は、なかなか難しい。増産は排出増に比例してしまう。一部企業ではプラントのオペレーションを見直してエネルギーの無駄を探索し始めている。製造業にとって、生産活動とカーボンニュートラルを、どう両立させるかは非常に悩ましい。
大規模GX投資呼び込む
県は10月、循環型社会を目指す姿を描いた「わかやま資源自律経済ビジョン」を公表した。24年度の重点施策にも、これを反映させており、域内で資源循環を目指すとともに、予算編成過程で、GX投資を呼び込む横断プロジェクトを立ち上げて取り組むという。11月には県内外の有識者による「わかやま成長産業開拓ビジョン検討会」を設置し、14日には初回の検討会を開いた。10年以内にGX関連で大規模な投資を呼び込んで”脱炭素社会先進県”を実現するビジョン策定を進める。23年度内のとりまとめを目指す方針だ。
Jクレジット制度参加も
一方で、24年度重点施策には、GHG排出削減量や吸収量を全国で取引するJクレジット制度への参加を見据えるとした。創出したクレジットを県内でオフセット(相殺)して地域の企業活動継続を支援するのではなく、市場での販売を主眼に置いているという。