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研究支援者がつないだ地域連携のプラットフォーム
【執筆】非営利活動法人産学連携学会 理事/琉球大学 研究共創機構研究推進室 殿岡 裕樹
農業分野における産学連携10年間の歩み
産業界と学術界との協働を主題とする学会「産学連携学会」が創設され20年を超える月日が流れた。現在では公的機関、金融機関、さらには地域で活動する民間団体といった多様なステークホルダー(利害関係者)が大学との連携を深めている。個人の事業主を主体とする農業セクターと大学との連携も、農林水産省の主導のもとで制度設計がなされ発展してきた。ここでは九州地区に軸足を置いて活動したプラットフォームの事例から、農業分野における広域連携について紹介する。
異種異質な主体新たな知を創出
産学連携学会の発行する学術誌「産学連携学」の第1号が2004年11月に発刊されてから、これまでに22巻の刊行を重ねてきた。創刊号の発刊に寄せ、湯本長伯会長(初代)はメッセージの中で「産学連携とは、産学官公民金といった異種異質な主体が連携共同融合し、摩擦を克服しながら新しい知を生み出して行く事象の全てである」 と述べた。実際にこのメッセージを追いかけるようにして、産業と学術の間で始まった連携はその後も拡大を続け、地方自治体など公的機関、都市銀・地銀などの金融機関、さらには地域で社会課題の解決に取り組む民間団体など他種多様なステークホルダーが大学の学術機関と連携を深めている。
わが国の基幹産業セクターの一つである農業分野においても、主に農水省の主導のもと、国、国研、地方自治体、公設試験場、大学といった公的セクターと、個人の事業主である農業生産者、生産団体、流通業者、加工業者、小売などの民間セクターが連携する枠組みが構築され、学術研究から最終消費者への販売まで実に幅広い取り組みがなされてきた。農水省が16年に創設した「『知』の集積と活用の場 産学官連携協議会」は、農林水産・食品分野におけるオープンイノベーションを目指す取り組みで、会員数が約5000、特定のテーマのもとにステークホルダーが集う研究開発プラットフォームも約180を数える大きな枠組みとなっている(※)。この中に、今回主題として取り上げる九州地区における広域連携の研究開発プラットフォーム「農林水産物の輸出促進研究開発プラットフォーム@九州・沖縄(PF九沖)」がある。16年度に設立され、その名称のとおり農林水産業を輸出産業に育てるという政府の方針に基づき「農林水産物の輸出」に関心のある九州・沖縄地区のさまざまな機関が参画した。以下、今年3月に発行された活動報告書を紐解きながら、10年間の活動を振り返る。
ビジネスユニット社会実装担う
図に示す通り、PF九沖は九州・沖縄地区に立地し農学部を有する五つの国立大学(アカデミックユニット)、九州地区における農林水産物の流通に携わる業者(ビジネスユニット)、そして前述の大学に所属する産学連携コーディネーターやリサーチ・アドミニストレーターなどの研究支援人材(コーディネートユニット)の三つのユニットで構成。アカデミックユニットが農林水産物の輸出や流通に関わる研究を行い、ビジネスユニットが社会実装を担い、コーディネートユニットは両ユニットの間をつなぎつつ企画立案を担当するという点に特徴があった。また期間の前半である16年度から20年度は産学連携機構九州(九大TLO)が、後半となる21年度から25年度は九州大学学術研究都市推進機構(OPACK)がそれぞれ事務局を担った。
前半の5年間は、具体的な研究開発が走っていたこともあり、「輸出物流を変革する基盤技術」をテーマとした。オープンなプラットフォームの上に形成されるクローズドなコンソーシアムとして「高鮮度保持輸送システム研究開発コンソーシアム」が設立され、実際に簡易型の鮮度保持装置が上市されるなどの成果を得た。さらに「生産から流通そして消費を一連のプロセスと捉え課題解決にあたる」をPF九沖全体のキーコンセプトとし、九州・沖縄の全県において研究会、シンポジウム、生産現場視察、物流拠点視察を行うことで生産品目や県を超えた広域での実務課題の整理を行った。
後半の5年間は、前半での成果を踏まえ、コーディネートユニットが企画担当として前面に出て地域固有の課題を抽出しPF九沖のメンバーで解決を目指すという方針で活動した。まさにこの期間中に南九州で深刻な猛威を振るったサツマイモ基腐病に対しては、健全な種芋確保に向けた技術実証と現場導入を支援したほか、農林水産物の輸出に付随するテーマとして「スマート物流」「農産物の機能性」「脱プラスチック」といった社会情勢の変化に対応した新たな課題を取り上げ、研究会の形で課題意識の共有を図った。
プラットフォームの活動は25年度をもって一区切りとなったが、関心や課題意識を共有し九州・沖縄という地域の中で活動した人的ネットワークは現在も健在である。国レベルの農政、県レベルの農政、個々の経営主体である農業生産者、変わりやすい需要と供給のはざまで物流を担う流通業者、そして学術研究機関と、多層からなるセクター間で重ねた10年間の対話は、次の10年間のどこかでまた新しい動きにつながると期待している。
(※)農林水産省 「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会ウェブサイト
(https://www.knowledge.maff.go.jp/about.html)
