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産学連携の継承と最近の実施例
【執筆】 関東学院大学 学長 小山 嚴也 / 特別栄誉教授 本間 英夫
関東学院大学の産学連携は、戦後に設置された実習工場を起点に、プラスチックめっきの工業化やプリント基板プロセスの確立へと発展してきた。そこで培った知見は大学発ベンチャーの創出につながり、共同研究・受託研究を通じて多数の特許出願と技術移転を実現している。ここでは、表面工学分野についての具体的な特徴と取り組み内容を紹介する。
現場適応・研究力備えた人材
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関東学院大学の横浜・金沢八景キャンパス -
表面処理で使用される新素材の研究開発に取り組む(関東学院大学)
当大学の産学連携は他大学にない特色を持ち、産業界を中心に、公的研究機関・他大学との連携を継続的に推進してきた。工業化学科の一専攻として40年にわたり研究を進め、その後、材料・表面工学研究所を設立して20余年が経過した。これまで表面工学分野を学んだ卒業生は、学部卒500人以上、大学院修士課程修了者約100人、博士課程修了者約50人に達し、表面工学領域では一大勢力となる。
2023年には理工学部に表面工学コースを新設し、独自インターンシップと給付型奨学金を整備し、産業界と一体となって若手人材の教育を強化した。同コースでは、在学中の「めっき技能士」取得を促し、現場適応力と研究遂行力を備えた人材を継続的に輩出することを目指している。また、文部科学省認定の職業実践力育成プログラム(BP)は、社会人教育・リカレント教育の基盤として現職技術者の学びの環境を整え、大学院進学の足がかりとしても機能している。
次に、材料・表面工学研究所における最近の実施例として、①環境対応②次世代配線③高速めっき—を三本柱として紹介する。
①環境に優しい樹脂表面改質技術
アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂などで長年用いられてきた六価クロム系エッチングに代替可能な技術として、紫外線(UV)改質、ラジカル水改質、ファインバブル低濃度オゾン水改質を開発した。
最表面に官能基を選択的に導入し、密着性に有効な反応点を増やすことで、粗面化に依存せず寸法精度と意匠性を維持しやすい。欧州の特定有害物質規制(RoHS)や化学品規制(REACH)に適合し、回収・廃液処理工程を簡素化できる。筐体(きょうたい)や車載内装、医療機器カバーへの展開を想定し、量産検証を進めている。
②高速伝送用回路のダイレクト形成
高速伝送用回路の形成には、第5世代通信(5G)ミリ波に対応する低誘電材料の表面に、UV照射で数十ナノメートルの改質層を選択形成し、当該部位にパラジウム触媒を優先的に吸着させる。その結果、無電解めっきは露光領域のみに析出するため、レジストや剥離工程を用いずダイレクトにパターン形成できる。粗化レスで平滑性と密着性を両立し、導体表面の散乱損失を抑えながら微細配線を形成できる。薄型化・低コスト化に役立ち、光・電気ハイブリッド実装への応用も可能である。
また、多様な金属種への展開を通して新規機能性材料の開発も達成した。
③噴流撹拌による高速めっき
電気めっきの高速化には、拡散層を薄くして拡散限界電流密度を高めることが重要である。従来のエア撹拌に代えて、陰極面に向けた噴流を用いる方式を採用し、数値流体力学(CFD)により槽内の流れを最適化している。
銅およびニッケルで高速度・高緻密な電着を実証し、得られた皮膜はバルク材に匹敵する物性を示した。
また、シリコン貫通電極(TSV)・ガラス貫通基板(TGV)などへの応用研究開発も進んでいる。パワー半導体実装やQ値(品質係数)の高い平面コイル、電動化部品での活用を見据え、生産性の向上や新たな膜物性の創出にも取り組んでいる。
以上のように、材料・表面工学研究所では教育と知財の両輪を強化し、学生の新しいアイデアと教員の経験を融合させて、発想から試作・評価までのプロセスを加速してきた。研究成果の一部は特許出願・権利化し、社会実装へつなげる。環境配慮型プロセスや次世代半導体製造技術などを中心に、今後も産業界からの要請に、表面工学で応える体制を強めている。
めっきは産業を支える基盤技術である。「ハイテック、めっきがなければローテック」という言葉が示すとおり、最先端製品は高度な表面処理に支えられている。私たちは、教育・研究・実装の循環を一層強化し、産学官のハブとして若手人材の育成を深めつつ、現場とともに課題解決に挑み続ける。「人になれ、奉仕せよ」という大学の校訓を旨として、その歩みを通じて持続可能な社会の価値創出に貢献していく。
