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東京都市大学は1929年に武蔵高等工科学校(後の武蔵工業大学)として創立して以来、およそ一世紀にわたり、工科大学として理論と実践に基づく実務能力を備えた人材を社会へ輩出してきた。2009年には現在の校名に名称変更し、人間科学、社会科学系の学部を新設して総合大学へと発展。未来都市研究を推進して都市を舞台にしたイノベーション創出のための知の拠点づくりを進めている。
都市を舞台にイノベーションを起こす
(執筆者)東京都市大学 産官学交流センター 中島 圭博
都市が舞台の都市大
東京都市大学では04年に総合研究所を開設した。本学理念「持続可能な社会発展をもたらすための人材育成と学術研究」の実践に向けて、最先端の研究設備を用いたモノづくりを中心に、社会ニーズに即した研究テーマと、大学院生・学部生の先端的な技術教育を推進してきた。
その後、現在の校名への変更を機に「都市研究の都市大」を掲げ、都市を舞台にしたフィールド研究にも力を注いでいる。世田谷と横浜の2キャンパスは都市研究を行う上で好立地であり、建築都市デザイン学部と都市生活学部を中心にフィールド実験を展開してきた。
未来都市研究機構でのエイジングシティー研究
16年には学際的研究組織として未来都市研究機構を設置した。それまでの強みである理論と実践に基づくモノづくりと、都市を舞台にしたフィールド実験を合わせた総合的研究を推進している。
当時、高度成長期から半世紀を過ぎた都市のハードとソフトのエイジング(老朽化)に加えて、少子高齢化による人口のエイジング(高齢化)に起因する諸問題に焦点を当てた研究テーマが文部科学省の事業に採択された。「環境・インフラ・健康・生活・情報」の観点から問題を提起し、企業や自治体との連携を通じた研究活動を実施してきた。
Urban Digital Transformation(UDX)への研究展開
その後、東京都市大の未来都市研究は都市インフラおよび都市での営みのデジタル化と人間中心設計のアプローチとを組み合わせたデジタル変革(DX)による新しい都市像を提唱し、都市の総合的な魅力向上に貢献する広範な研究を推進してきた。
その手法は、理論と実践に基づくモノづくりと都市を舞台にしたフィールド実験の繰り返しを通して、イノベーション活動を活性化させ、企業、自治体や生活者とともにイノベーションの連鎖を起こそうとするものである。
エイジングシティー問題についても危機ではなく、持続可能で魅力的な成熟都市へ展開するための好機と捉え、未来都市研究とサステナビリティー研究を学内での重点推進研究として進めつつ、わが国の国際競争力研究の強化・発展へ貢献することを目指している。東京都市大はそのための知の拠点づくりを進めている。
都市研究事例 /東京都市大における都市研究事例
【インフラメンテナンスのためのデジタルツイン】
地震や老朽化によるインフラのリスクを抱える中で、多種多様なセンサーデータを人工知能(AI)技術を用いて統合的に分析している。対象となる構造の劣化状態を多角的に捉えることによって、総合的にインフラを監視する研究を行っている。
【地域との連携によるウェルビーイングの追求】
東京都渋谷区との連携により、種別を越えた切れ目のない支援の実現について検討する「渋谷福祉学会」を運営。年に一度大会を開催し、さまざまな立場からの提案・発表の場を提供している。また、生活空間の近くに研究開発の場を置く「リビングラボ」をキャンパス近隣の商店街に設置し、コミュニティーの協働を促進して「超高齢―情報化社会」を支える新しい社会システムを構築している。
【近郊駅商店街での子育て世代支援】
子育て世代が快適に過ごせるまちづくりの実証実験として、おむつ替えや授乳スペースに利用可能な仮設授乳室を近郊駅商店街に設置している。センサーにより空き状況を提供することで街の活性化に寄与する。
【水素エンジンの開発】
脱炭素社会に向けて、燃料電池などと比較してコスト優位性の高い水素エンジン技術が注目されている。武蔵工大時代から長年にわたる知見の蓄積がある東京都市大では、現在はバス、トラックや建設重機における水素エンジン搭載に向けた研究を推進している。
【次世代太陽電池の開発】
23年9月にペロブスカイトと薄型シリコンの積層太陽電池を開発した。エネルギー変換効率が従来のペロブスカイト太陽電池よりも高い26・5%を達成。通常、シリコンを組み合わせると柔軟性に欠けるが、薄型シリコンを用いることによってペロブスカイトの特徴である薄くて曲がる特性を持った積層太陽電池を実現した。これまで設置が困難であった湾曲面においても敷設が可能になっている。