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業界展望
クリーンエネルギー―水素・アンモニア“花開く”
新技術・仕組み確立期待
日本政府が2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指すと宣言して3年余り。クリーンエネルギー関連の動きが花開き始めた。水素・アンモニアではサプライチェーン(供給網)構築実証や利用技術の開発と合わせ、活用を促す新法案の検討が進む。このほか次世代太陽電池の商用化プロジェクトや洋上風力発電など、数々の取り組みが動き出している。海外展開も視野に、技術や仕組みの確立に向けた期待が高まる。
政府、拠点整備を支援
クリーンエネルギーの中でも大きく前進し始めたのが、水素・アンモニアだ。どちらも燃やしても二酸化炭素(CO2)を発生しない燃料として、石油や液化天然ガス(LNG)といった化石燃料を代替できる。例えばボイラなど工場の熱源、火力発電所のタービンなど、徹底した省エネや設備の電化では達成が難しい領域の脱炭素化に資すると期待されている。また水素は水の電気分解はもちろん、石炭や、化学品などの製造過程といった多様な資源から作れる点も特徴。水素を酸素と反応させることで生じる電気エネルギーは、燃料電池(FC)にも利用できる。
政府は23年6月に水素基本戦略を改定し、アンモニアを含む水素導入量を、40年に現在の6倍となる年1200万トン程度とする目標を定めた。ただ普及拡大に向けては課題もある。その一つが既存燃料よりも高い価格だ。安価な製造プロセスの確立に挑むと同時に、市場形成のため導入ハードルを下げる先行施策が水素社会実現には欠かせない。
そこで政府は2月、水素などの活用を促すための新たな「水素社会推進法案」を閣議決定。排出量の少ない水素やアンモニアなどを「低炭素水素等」と定義した上で、天然ガスと比べて3―5倍とされる水素の価格差や、供給や利用に関する拠点整備の支援策を盛り込んだ。価格差支援では脱炭素に資する投資に使途を限った「GX経済移行債」を活用し、15年間で3兆円規模という大規模支援策を講じる計画だ。
浮体式洋上風力も芽吹く
水素以外に、次世代再生可能エネルギー技術も芽吹き始めている。経済産業省は、24年度に浮体式洋上風力発電の実証を始める。北海道の石狩市と岩宇・南後志地区沖、秋田県南部沖、愛知県田原市・豊橋市沖の4海域を候補区域に選定。最終的に2カ所程度で事業者を選ぶ予定だ。発電容量を30年に10ギガワット(ギガは10億)にする目標を掲げており、今後10年程度で約31兆円の官民投資を目指す。
日本の強みを生かせる再生エネ技術として期待がかかるのが、次世代太陽電池のペロブスカイト太陽電池だ。政府は30年度に電源構成における太陽光発電の比率を14―16%にする計画だが、パネル型電池の設置可能面積には限りがある。この課題を解決するのが、薄型・軽量でビルの壁や窓などに設置できるペロブスカイト型だ。加えて主要原料のヨウ素は日本が世界シェア2位を占め、国内調達が可能。経済安全保障への対応力も高められる。積水化学や日揮ホールディングスなどが、商用化を目指し実証試験を行う方針だ。
23年12月に閉幕した国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、日本を含む118カ国が、30年までに世界全体の再生可能エネルギー容量を3倍にする誓約に賛同した。クリーンエネルギーの利用拡大は、官民共通の目指すべき道となる。
重工3社 事業化推進
重工業大手3社は、水素やアンモニアの燃料利用の事業化に取り組む。川崎重工業は水素を将来の中核事業に位置付け、製造から利用までのサプライチェーンを構築する戦略だ。26年度に売上高1400億円、30年度には同4000億円を目指している。
豪州で褐炭を原料に水素を製造し、液化して日本に運び、発電などに利用する構想で、関連機器を実用化する。象徴が液化水素運搬船だ。容量1250立方メートルの実証船で日豪間の運搬に成功した。容量16万立方メートルの大型船を30年ごろに商用化する計画だ。
発電向けには、水素だけで燃焼できるガスタービンを展開する。工場の自家発電などのコージェネレーション(熱電併給)用だ。水素専焼のうち、水や蒸気で噴射する方式は既に対応していたが、新たに世界初のドライ方式を開発・投入した。微小火炎を用いる方式により、窒素酸化物(NOx)排出量を安定して低く保てるのが特徴だ。
三菱重工業もガスタービンの水素燃焼を開発している。天然ガスへの混焼、専焼対応製品の商用化のため、生産拠点の高砂製作所(兵庫県高砂市)に実証設備「高砂水素パーク」を稼働させた。水素の製造・貯蔵も行い、水素発電までの一連のサイクルを実証する狙いだ。
高砂水素パークで23年、出力45万キロワット級の大型製品で水素30%の混焼を試験した。24年には50%混焼を目指す。同4万キロワット級の中小型製品では24年に専焼を試験する。専焼の商用化時期は大型製品が30年以降、中小型製品が25年を目指す。
自前で水素を製造・貯蔵し、ガスタービンに供給する体制も整える。今春には固体酸化物形電解セル(SOEC)を導入する計画だ。固体酸化形燃料電池(SOFC)と逆に電気を流して水素を取り出す仕組みだ。メタンの熱分解によるターコイズ水素の製造も26年ごろに実証する計画だ。製造・貯蔵を含めて一気通貫で実証し、ガスタービン単体ではなくサプライチェーン全体で事業化する。
IHIはアンモニアを将来の中核事業に位置付け、特に石炭火力発電所での混焼の事業化が重点戦略だ。発電用ボイラ内部のバーナーを改造し、混焼できるようにする。
JERAと組み、同社の碧南火力発電所(愛知県碧南市)で20%混焼する実証を月内に始める。大型の石炭火力での大規模混焼は世界初という。実証での成果を材料に、東南アジアの石炭火力に混焼を広げる戦略だ。IHIの井手博社長は「この実証を見て導入するか考える国や企業は多いと聞いている」と重要性を強調する。
外部と連携して機器開発も進める。米GEベルノバと1月、アンモニアだけで燃焼するガスタービンの共同開発の正式契約を結んだ。専焼の燃焼器を開発し、同社の3製品に搭載し、30年の商用化を目指す。日本やアジアで同社製品を採用する石炭火力のアンモニア専焼への改造や専焼の火力発電所の新設需要開拓を目指す。